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五章 ぐらぐら

多忙のため、投稿が遅れました。

 神にそう言われた時は、少しだけ驚いた。お昼過ぎで快晴なのに、肌寒い風が私たちの間を通り過ぎて行った。その風は私と神の間に壁があることを教えてくれたようだ。

 そう叫んだ神自身も、心底驚いているようだ。いつもよりまんまるに目を見開き、肩で息をしている。息はしているが、酸素は吸えていないようだ。苦しそうに大粒の涙をぽたぽたと地面に落とした。その一粒が、五円玉の上に乗っかった。

 「どんな思いかなんて、人間にはわかんねえよ!」

 「私だってわかんないよ!」

 私が反論すると、神はそれを否定した。神は泣きながら怒っているので、感情がわからない。風の次に、沈黙が私たちの間を引き裂いた。

 「神だったら、何でもできるだろ…!」

 私は、そう言い放った。神は、また驚いたようだ。息をすることも忘れて、私の顔をじっと見つめている。何か反論が来ると思っていた私は、腹の中がぐらぐらと煮えたぎった。

 「神って願いを叶えてくれる奴じゃねえの!?」

 そう言って、私はその場を逃げるように離れた。


 月曜日。私は後悔しながらクラスの席に突っ伏していた。昨日言ってしまったことを、神に謝りたかったのだ。神にだって何か考えがあったのかもしれない。何であいつが仕事をしないのか、何で泣いていたのか。能天気な奴だとばかり思っていたから、あいつのことを考えることがなかった。私は、そのことを深く反省していた。

 「おはよ、杏里。なんか元気ないじゃん」

 瑞稀が私の肩を叩いて、隣の席に座った。隣の席は他のクラスメートの席だが、こいつはギリギリまでここに座っている。私は顔をあげ、瑞稀の顔を焦点の合わない目でじっと見つめた。

 「ぎゃっ!どうしたの深夜にカップ麺食ってそうなブラック企業に働いてるサラリーマンみたいな顔して」

 「例えが長いよ…」

 私はため息混じりにそう言って、また机に突っ伏した。瑞稀はそんな私の様子を見て、ううんと唸った。

 「何があったのかわかんないけどさ、あの能天気な杏里が悩むんだから相当なものなんでしょ?」

 「…うん」

 「じゃあさ、私に相談する以外の選択肢なくない?」

 瑞稀は自信満々にそう言った。

 驚いた。

 瑞稀って、こんなこと言う人なんだ。幼稚園から一緒にいるけど、人のことを考えれる人だとは思わなかった。少しだけ涙が出そうになって、私は目を腕に擦り付けた。涙に鍵をするようにきつく結んだ唇が、震えた。私は瑞稀の問いに答えるように、鍵を開けた。

 「友達と喧嘩したんだけど、どうすればいいかな」

 その友達が神だとバレないように、私は色々濁してそう言った。まあ、バレても間に受けられないだろう。私は瑞稀の顔をじっと見つめた。瑞稀は驚いていた。

 「杏里に、友達いたんだ」

 「失礼だな!」

 そんなことかよ!私にだって友達くらいいる。私はむすっと顔を顰めた。瑞稀はくすりと笑い、言葉を続けた。

 「喧嘩したならさ、仲直りしないと」

 「したい、けど」

 そう。仲直りしたいんだ。けれど、何かが私の邪魔をして、仲直りできない。言い訳に聞こえるかもしれないけど、本当にそうなんだ。謝ったら負けとかそんな幼稚なことを言ってるわけではない。本当に、何かの呪いにかかったようだ。

 デジャヴ。


 *

 学校だ。制服が高校より質素だから中学校かな。私は夕陽が差し込む誰もいない教室で一人、鉛筆をころころと机の上で転がしながら、ため息をついた。

 「また喧嘩?飽きないねえ」

 中学時代の垢抜けてない優香が私の前の席に足を開いて座った。じゃがりこをぼりぼり食べながら、私の鉛筆をじっと見つめている。私はまた、大きなため息をついた。

 「謝りたいんだけど、できないんだよ」

 「負けだと思ってんの?幼稚だねー」

 「違えよ!」

 私は鉛筆を優香が持っているじゃがりこの中に突き刺した。優香は強くじゃがりこを握っていなかったので、じゃがりこはカップごと床に落ちていった。

 「ちょ、じゃがりこぉ」

 「あ、ごめん」

 私は咄嗟に謝った。これは、私が悪い。ついつい、怒りをじゃがりこにぶつけてしまった。私が落としたじゃがりこを拾い集めていると、優香がけらけらと笑い始めた。

 「な、何だよ」

 「謝れるじゃん!大丈夫だよ」

 私は、おのずと謝っていたらしい。優香に指摘されて、気がついた。じゃがりこを拾う手を止めた私を、優香はにこにこと見つめている。全て拾い集めて、私はじゃがりこを優香に手渡した。

 「もう食べれないよ」

 「あ、じゃあ買ってくるわ」

 「いいよいいよ、大丈夫」

 優香はそう言って、私の肩をぽんと叩いた。そして、床に落としていたスクールバッグをひょいと拾い上げ、肩にかけて教室を出て行った。

 「──と仲直りできたらいいね」


 *

 そうだ、わかった。

 私は一人で頷いた。その様子を見ていた瑞稀は頭に「?」を浮かべ、きょとんと首を傾げて私を見つめる。

 私、私だけが悪いって思ってないんだ。

 話さないと…!

 その気持ちがぐらぐらと煮えたぎってきた。

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