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四章 わらわら

 今日は、仲間たちとつるんでいた。仲間たちはいつもコンビニの前で屯している。コンビニのレビューに私たちのことが書いてあったり、店長が箒で叩きにきたりするが、私たちはいつもここにいる。

 「ただいま、持ってきたよ」

 盗みの天才、優香が袋菓子を二つ抱えてコンビニから出てきた。こいつが万引きに失敗しているところは未だ一回も見たことがない。私は、そんな優香を尊敬している。どうやら、日曜日の朝には目の悪いババアしか働いていないらしい。実際には二人で働いているが、もう一人は若い大学生で、裏でサボっているらしい。優香がここの偵察のために一ヶ月だけここでバイトしてた時に知ったらしい。万引きするためにここまでするのはすごいな。

 「げえ、ポテチかー」

 「悪いかよ」

 「ニキビできんじゃん」

 痴漢冤罪の天才、瑞稀と優香が茶番をしている。瑞稀は顔が良く、モデルにスカウトされるほど体型も良い。学校を休んでいる時は大体、満員電車に乗って痴漢冤罪で稼いでいる。瑞稀は昔、子役をやっていたので演技の才能もある。冤罪だとバレかけた時は、嘘泣きで通しているらしい。私がその被害者だったらこいつを晒しあげるけどな。

 「あー、やっぱポテチ美味いわ」

 「天邪鬼かよ」

 「美味いもんは美味いんだよ」

 優香がポテチを床に広げ、三人は鳥のようにそれらを啄む。私たちはいつもこうして暇な時間を潰している。俗にいう、ヤンキーだろう。私はそれを悪いとは思わない。いいことかと言われたら頷けないけど。

 「あのおじさん、瑞稀のこと見てるよ」

 「いやー、痴漢されちゃうーっ」

 「外なんだから痴漢はできないだろ」

 私が強めに突っ込むと、二人は声をあげて笑った。よかった、笑ってもらえた。こうやって人の顔色を疑う癖、やめたい。私は二人に合わせてふっと笑った。この笑顔は楽しいからじゃない。もちろん、三人でいるのはすごく楽しいけど。

 「てかさ」

 優香がポテチをガリガリ噛みながらそう言った。汚ねえよと言いたかったが、その真面目な瞳に圧倒されて声が出なかった。優香がこういう時は、優香の親父の話だ。

 「昨日も殴られたんだけど」

 「マジか、どこ殴られたん?」

 「腹と頭」

 優香は、虐待を受けている。親父からは殴られ、母さんからは無視されてるらしい。そんな優香を、私たちは心配している。

 瑞稀も心に病を抱えている。病気の名前は打ち明けてくれないが、とても辛いらしい。

 その癖、私は何もない。何かあることがいいとかそういう訳じゃないけど、この二人の隣に立つことが、なんだか嫌だ。もしかしたら、二人から羨ましがられているかもしれないから。そう思うと、上手に息ができない。

 「幸せって、なんなんだろうね」

 瑞稀が、ボソッと呟いた。優香には聞こえていなかったみたいだが、私には確かに聞こえていた。

 そう、幸せとは何なのか。私が一番強く抱えている悩みだ。優香や瑞稀よりも恵まれているくせに、それがわからない。まるで、大切なものをしまった場所を忘れたように。

 「てか、最近の噂聞いた?」

 優香が、身を乗り出して私たちにそう訊いた。私はキョトンとしたが、瑞稀はその噂が何なのかわかっているらしい。あー!と大きな声を出し、スマホを操作し始めた。

 「あのスレッドのやつでしょ?」

 「そうそう!ヤバくない?」

 「ヤバいよね、本当だったらどうしよう」

 なに、何なの?

 「あれ、杏里は知らない?」

 「全く」

 「知らないのはヤバいって!」

 そう言うと、瑞稀は私の鼻先にスマホの画面を押し付けてきた。近くて見えないので、私は上半身を後ろに倒して距離を取る。そこにはスレッドがあった。

 『神様が実在してた件』

 私の背中に、冷や汗が垂れる。

 『1.神様に財布を見つけてほしいって願ったら、次の日に机の上に出現したんだけど』

 『5.ほんと、事実なんだって!』

 『8.神社に神様がいるんだよ!』

 次の文に、私は釘付けになった。

 『9.東猫神社っていう名前だった。汚くて小さい神社で、住宅街の隅にある』

 東猫神社…私たちじゃん。てことは、このスレッドを立てた人は、昨日の人?私はダラダラと汗を流した。

 「ニュースにもなったんだよ〜」

 優香のスマホの画面を見ると、ニュースでいつもの神社が紹介されていた。「願い事が叶う神社」らしい。

 私は、二人にお別れも告げずに飛び出した。二人の呼び止める声が聞こえたが、もう遅い。私の足は東猫神社に向かっていた。不安の大群が、ワラワラと押し寄せてきた。

 いつもの神社に着くと、既に大勢の人がワラワラとしていた。たくさんの人が列をなし、その列は住宅街の道路にまで長く続いている。私はその人々を押し除けて、本殿の後ろへ回った。

 「神?どこ?」

 誰も、答えない。

 「神!おい!」

 「なんだよう、人多いね、大繁盛!」

 神は、お得意の楽観的思考でのんびりと寝転がっていた。賽銭箱から取ったであろう小銭タワーを作り、数を数えている。そのほとんどが五円玉だから、繁盛はしてなさそうだけど…。

 「って、大繁盛!じゃねえんだよ!この数の願い事どうやって解決すんだよ!」

 「え〜、しないつもりだったけど?」

 ほんとに、この神は頭が下がらない。

 「いい!?人ってのはな、繊細なんだよ!どんだけの思いを抱えてここに来てると思ってんだよ!神だからわかんねえよな、そうなんだろ!?」

 ついついカッとなって、私は大声でそう叫んでしまった。肩で息をしていると、神が小銭タワーを破壊した。ジャララッと大きな音を立て、小銭があたりに散らばった。

 「…神?」

 私は唖然として、神をじっと見つめた。神の表情は暗くてよく見えない。

 「…」

 神はこちらを見つめた。その瞳は少しだけ潤んでいて、私をきっと睨みつけていた。私は怯んでしまい、一歩後ずさった。

 「私がどんな思いを抱えてるか知らないくせにっ」

読んでくれてありがとう。

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