一章 へらへら
この話は、俺の前作品「世界の狭間で、貴女と永遠を。」の要素を少し含みます。
先にそちらを読んでからこの作品をお楽しみすることをお勧めします。
読まなくてももちろん楽しめます。一応宣伝です。
神様なんて、いないんだと思う。
そう思うと、絶対なんかしらでフラグ回収されて、私の人生の最終ゴールには「神がいる」という地に足をつけているのだ。大体、人生ってそうできてる。
幸せが分からない私は、すっかり暗くなった住宅街の街並みを見渡し、大きなため息をついた。制服のスカートを、風がなびかせてった。変態め。私は、何も悪くない風に向かってそう思った。
最近、ため息しかついてないような気がする。気がするだけならいいけど。私が気を病んでるなんて、仲間には知られたくないものだ。あいつらはいつもへらへら笑ってるから、私も表面上はへらへらと紙のように生きてる。あ、紙はペラペラか。はは、面白い。
私は行く当てもなく、ふらふらと難民のように歩き続けた。午後六時。秋が近くなったから、時刻的には夕方なんだけど、風景的には夜だ。街灯がまぶしい。私は街灯に照らされないように気を付けながら、住宅街の道に沿って、ただひたすらに歩き続けた。遠くに見えるマンションは鉄格子のようで、各ブロックはオレンジ色の光を放っている。その上を、赤い光が点滅しながら通り過ぎた。子供のころはユーフォーだなんだとか言って喜んでたけど、今になってはあれは飛行機だと分かる。頭が悪くても、大人になれば知識は増える。大体、人間ってそうできてる。
私はふと、交差点で足を止めた。この道はちょうど、私の通学路だ。いや、そんな理由で足を止めたわけじゃない。なんか、気になったんだ。左に引かれた道路の、T字路の突き当りにある、普段は気にならない、建物。
神社。
禍々しい空気を、そこは纏っていた。私は引き寄せられるように、その神社に向かって進んだ。ふらふらと。喉はからからに乾き、冷たい風は私の肩まで下ろした髪をさらさらと触った。神社の前に着いた。数段しかない階段をゆっくり、のろのろと登っていく。鳥居の右にあった細長い石には、「東猫神社」と書かれてた。
社の前に着いた。すさんでいて、枯れ葉がそこら中に散らばっている。きっと、手入れをする人が誰もいないんだろう。そして、こんな住宅街のはずれにあるような怪しい神社には絶対お参りしたくないものだ。難しい言葉で言うと、立地が悪い。最近習った。
私はお賽銭箱に体を預け、その場に座った。ここは暗いから、夜空の星がたくさん見える。昔の人は、なんちゃら座とかよく思いついたな。私はいて座だ。てか、誕生日と夜空を結びつけるか?普通。昔の人はそんなに暇で、そんなに神様が好きだったんだろうな。そう思うと、私はおかしくてふっと笑ってしまった。
「神なんか、いないんだろ。」
ここの神社に住んでいるであろう神に向けていったのか、それとも自分に言ったのか、それとも昔の人に言ったのか。多分どれでもない。私はさっきとは違う味のため息を吐いて、胡坐をかいた。リン、という鈴の音が聞こえたような気がした。
「いるよ、神様。」
突然、右隣りから声が聞こえた。子供の女の声。ちょっと高い声。無邪気な声。私は驚いて、その場から立ち去ろうとした。
体が、動かなかった。
私はパニックになったが、声も出なければ、首も動かせない。私は口で呼吸をして、なんとか心臓を落ち着けようとした。そのせいで、口がカラカラだ。
「ああごめんごめん。間違えて金縛りかけちゃった。」
次の瞬間、私は動けるようになった。立ち上がって、少し左側にずれた。その女を見たけど、暗くてよく見えなかった。私はスマホのライトを女のいる方に向けて照らした。
「ぎゃーっ、眩しい!」
白い服、その服から伸びた白くて細い手足、腰まで伸びたつやつやな髪の毛、顔を隠す両手。
そして、尻から伸びた白いしっぽと、頭から生えてる白い猫のような耳。
私は唖然とした。そいつが、人間のようには見えなかったから。いや、多分私以外の人が見ても人間だとは思わないだろう。もしかしたら、神様なのか。いや、神なんていないはず。
「ちょいちょいお主、らいとを向けるのをやめてくれんか?」
私は言われるがままに、スマホのライトを消して、スマホを制服のスカートのポケットの中に入れた。その瞬間、神社全体がぽやっとした光に包まれ、汚い神社全体が見えた。
「って、師匠のしゃべり方真似してみたんだけど、神様っぽく見えた?」
そんなことを言いながら、白女は私の方に歩いてきた。私はそれに比例するように、後ずさった。まるで、白女と私の間に壁があって、それに押されるように。
「君、神様なんていないって言ったね?言ったよね?」
めっちゃ問い詰めてくる。私が何も答えないでいると、その女は口を尖らせた。何にも言うもんか、こんな変な奴に。
「ねえ、耳ついてる?あ、耳あった。」
女は、いつの間にか私の背後に回っていたようだ。慌てて振り返り、けんかをする前みたいに女と真正面で向き合う。声は子供っぽいのに、背丈は私とほぼ変わらなかった。若干、私の方が高い。
「神はここにおるぞってね、じゃーん、私は神なり!」
胸を張って、その女は大声でそう言った。耳が痛い。
うん、確かに、こいつは神なんだろう。だって、耳もあるし、尻尾もあるし、瞬間移動できるし、金縛りかけてくるし、神社は光らせるし。私は、つばを飲み込み、声が上ずらないように気を付けて口を開いた。
「神なのは分かった。」
「どおあっ!びっくりさせないでよー、もしかしたら、私の子と見えてないのかもって思っちゃったじゃん!もっと早く反応してよ、めっちゃ不安だったんだから!」
一息でそんなにしゃべれるのはすごいと思う。ものすごい肺活量だ。神だからなのかな。そんなバカなことをへらへらと考えていると、神はニコッと笑って小さく口を開いた。
「私を見てしまったあなたに使命があります、杏里ちゃん。」
「な、なんで私の名前…。」
「ンなことどうでもいいじゃん!」
今度は、大きく口を開いた。
「私の神事のお手伝いをしてください。」
やっぱり、神なんかいなかった。
読んでくれてありがとう。
面白かったら、いいね、ブックマークをよろしくお願いします。