エピソード3-⑱
ひとしきり会話が終わると、ハインリヒはちょっと改まった態度で話を切り出す。
「じゃあタッキー君、僕の遺産を受け取ってほしいんだけど、いいですか?」
「はい、謹んで受け取らせていただきます」
言われてタッキーも、ちょっとキリっとした態度で返した。
遺産の受け取りは、ハインリヒがある程度ポケットの中身を出し、タッキーがそれを自分のポケットに収納する…を繰り返すので、結構時間がかかる。受け取って収納する…の作業をしながら、タッキーはちょっと考える。
(渡すものをこれとこれと…って頭の中で決めたら、自動的に全部いっぺんに相手のポケットに移動させられる…って出来たら早いのになぁ…)
パソコンのデータ移行みたいなものだろうか…とタッキーは思った。
タッキーは時間がかかる覚悟はしていたが、ハインリヒの遺産はルードウィヒの時よりも量が多かった。キラキラと輝く石が次々ハインリヒのポケットから出てくる。赤やピンク、緑、青など様々な色だ。大きさも小さい欠片のようなものから、かなり大きいものまである。透き通るような色のもの、縞模様があるもの、色々あって面白い。
(どれもすごくキレイだなぁ。見たことがないものも多いぞ。あとで鑑定眼で見てみよう)
遺産の受け取りを始めたのは夜中だったが、とうとう日が昇ってしまった。それでも日が真上に来る前に終わったので、大体午前10時頃だろうか。ようやく遺産の受け取りが終わり、ハインリヒがニッコリしながら言う。
「これで全部です。どうもありがとうございました」
「はい、受け取らせて頂きました。大切にします」
そういうタッキーは目の下にクマを作り、くたびれ果てていた。それでも、ただ受け取るだけでは申し訳ないと思い、以前リトリア村へ行ったときに買いだめしていた牛肉を、ポケットから沢山出す。
「そうそう、譲っていただくだけでは申し訳ないですので、お礼にこれを受け取ってください」
「あら、これは何の肉?」
カサンドラが尋ねて来たので、タッキーは肉について説明する。
「家畜の牛の肉です。人間の店で売っているものを買ってありまして。予め小さく薄くスライスしてありますから、ハインリヒさんでも食べられるんじゃないかと思いまして」
「どれ…」
ハインリヒは少し指でつまんで口に入れる。
「おお、美味しいですね。これくらい薄ければ楽に食べられます。ありがとうタッキー君。あ、どうぞカサンドラさんもジークフリートも召し上がってください」
ハインリヒに言われ、カサンドラも牛肉を口に入れる。
「本当!柔らかくて美味しいわ」
ジークフリートも牛肉を一口食べ、「うん。美味しい肉ですね」と満足そうに言う。
「気に入って頂けて良かったです」
とタッキーもニコニコしている。
「かえって気を遣わせてしまいましたね」
ハインリヒは笑顔で、しかし申し訳なさそうに言う。見た目は元気そうに見えるし、笑顔で食べていたが、肉は二口くらいしか食べなかった。もうほとんど食事が取れなくなっているのだろう。よく見ると体もだいぶ痩せている。
お読みいただきありがとうございました。




