エピソード3-⑰
ハインリヒはタッキーの方に向き直って「兄はあなたに迷惑を掛けませんでしたか?」と問う。その問いに対しタッキーは、ルードウィヒと過ごした思い出を振り返りながら
「いえいえとんでもない、ルードウィヒさんはとてもいい方で、楽しく暮らしていました」
と、言葉を返す。タッキーの言葉に
「「いい方!?」」
ハインリヒとカサンドラ、二頭同時に驚いて言う。
「えっ…!?」
これにはタッキーも意外な反応に戸惑う。ジークフリートが口を開いてさらに付け加える。
「意外に思われるかもしれませんが、ここに居た時のルードウィヒさんは、とても穏やかに過ごされていました」
「穏やか…??」
ハインリヒは信じられないという顔をしている。
「えっ!?違うんですか?」
タッキーがそう問うと、ハインリヒはルードウィヒについて語り始める。
「兄は昔からドラゴン付き合いが悪いというか、一頭で居たがるタイプでした。ちょっと何か言われるとすぐに怒って暴れるし…僕はその度に相手に謝ってましたねぇ…」
「なんだか、信じられません…」
そういうタッキーに、ジークフリートがさらに付け加える。
「いえ、本当なんですよ。私もルードウィヒさんがこのドラゴンの墓場に来るまで、一度も話したことがなかったんです」
「そうなんですか!?」
ここでのルードウィヒとジークフリートは仲がよさそうに見えていたのに…タッキーには意外であった。ハインリヒはさらに話を続ける。
「兄は周りのドラゴンに相手にされてなくて…ルード兄さんの上に兄が三頭居ましたが、三頭ともルード兄さんを見放していました。三頭とももう亡くなっていますけどね。ルード兄さんと話をしていたのは僕位な物でした」
「そうだったんですか…」
「なので、最期に何日かだけでもルード兄さんと仲良くしてくれたタッキー君には、本当に感謝しているんです」
「いえ、そんな…普通に一緒に過ごしていただけです」
タッキーはちょっと照れながら言う。
「ルード兄さんもいい思い出を胸に、あの世へ行けたと思います」
ハインリヒが感慨深げに言う。するとジークフリートが唐突にハインリヒに問う。
「ハインリヒさん、あなたは今までを振り返ってどうですか?満足できる生涯でしたか?」
「僕ですか?う~ん…まあまあ…かな?一応結婚して子供も6頭持てたし…妻は先に亡くなってしまったが、最期をこんな美人のカサンドラさんに看取ってもらえるんだから、悪くないと思いますよ」
「あら、お上手ね」
カサンドラがちょっと照れながら言う。
「いえいえ、あなたは本当に美しいですよ」
ジークフリートもカサンドラを褒める。
「まあ、褒めても何も出ないわよ」
と、カサンドラが茶化して、みんなで笑う。
しかし、タッキーは考えていた。
(美人…??ドラゴンの美の基準って何なんだろう…)
タッキーには違いがよくわからない。それどころか外見でオスかメスかの判別も付かなかった。
ドラゴンに結婚ってあったんだ…。
あとドラゴンの美の基準もスライムの美の基準も、人間にはわからんw
お読みいただきありがとうございました。




