エピソード3-⑫
ルードウィヒが亡くなってから1ヶ月ほど経ち、タッキーの体はテニスボール大位になっていた。狩りの腕も上達して、時々はウサギを獲ってくることもあった。もう逃げ回るだけの小さなスライムではなくなり、自活できる自信を付けていた。
「えっ、人里で暮らしたい!?」
「はい、ボクは元は人間でしたし、人の傍に居たいんです。それに、森の入り口近くにはスライムも沢山住んでいますし」
「そうですか…ふむ、人里に近くてスライムも沢山住んでいる場所、心当たりがあります。タッキーが生まれたところかどうかはわからないんですが、それでも構わないなら連れて行ってあげますよ」
「はい!構いません!お願いします」
ジークフリートはたっきを背中に乗せると、空を飛んだ。ドラゴンの里を抜け、深い森の上を飛んだ。大きな魔物もいたが、ジークフリートの姿を見るとみんな大慌てで逃げていった。しばらく飛ぶと、ジークフリートは地面に降りた。
「私が送れるのはここまでですね。ここから先は人間に見つかってしまうかもしれませんからね。ここをまっすぐ進むと人間の村に出ますよ」
「ありがとうございます。本当に色々お世話になりました」
「いいんですよ。あなたがいてくれたおかげで、ルードウィヒさんも最後にいい思い出ができたでしょう」
「さようなら」
「さようなら、いつかまた遊びに来てくださいね」
「はい!…道に迷わなければ!」
タッキーはジークフリートに別れの挨拶をして、森の入り口へと走っていった。ジークフリートはタッキーの姿が見えなくなるまで、その場で見送った。そして、周りから動物も魔物も一切が怖がっていなくなっているのに気付くと、ドラゴンの里へと飛び去った。
ルードウィヒとの出会いを思い出し終わって、タッキーがジークフリートに尋ねる。
「――それで、今になってルーさんの事なんて…何なんですか?」
「いや、今回はルードウィヒさんの弟の事なんです」
「弟…?」
「ええ。50歳くらいしか年が離れていないんです。ハインリヒさんと言うんですが、少し前に寿命が近づいて墓場へいらしたんです。それでルードウィヒさんと君の話をしたら、ぜひ自分も遺産を君に譲りたい、と言うんです」
「遺産?他に誰か受け取る方はいないんですか?」
「ええ…これが魔物の肉とかなら欲しい者がいたのでしょうが…」
…なんだか以前も同じようなことを言っていた気がする…。
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