エピソード3-⑤
「えっ!?」
ドラゴンに何者か聞かれてタッキーはちょっとドキッとした。
「俺とお前が会話できているのは俺の能力のお陰だ。俺はどんな生物とでも会話できるスキルがあるからな。だが、スライムってのは知能が低くて、会話する能力があったってまともな会話にならないもんだ。だがお前は違う。俺と普通に話しているんだからな」
このドラゴンは、ボクの事を見透かしている。確かに逃げている最中、ほぼ抵抗もせず、ただ食べられているだけのスライムを沢山見た。大人スライムでは暴れたり、抵抗するものもいたが…。
タッキーは覚悟を決めて、ドラゴンに今までの事を話した。現世で生きて、過労死したらしいこと。転生後農民の子として生きていたら、魔物に襲われて食べられてしまったこと。そして再び目覚めたらスライムになっていたこと…。
ドラゴンは黙って全てを聞き終わると
「そうか…お前さん、ずいぶん苦労してきたんだなぁ…。転生か…聞いたことはあったが、今まではこの里に伝わる夢物語かと思ってたよ」
夢物語…現世で言うところの都市伝説だろうか…。
ドラゴンは改めてタッキーの方に向き直って
「人間だったことがあるんなら、‟名前”ってのがあるんじゃないか?」
「名前?」
「そうだ。俺はルードウィヒ。お前の名は?」
名を聞かれてタッキーはちょっと迷った。魔物に襲われたときはキースだったが、その前現世では…
「タッキーです!」
サラリーマンだったころ、「滝沢」という名前だったので、親しい人には「タッキー」と呼ばれていたのだ。どうしてこっちを選んだのか…深い理由はなかった。長いことこの名前で呼ばれていなかったから、ちょっと懐かしくなったのかもしれない。
「そうか、タッキーか、よろしくな。…あまり長い付き合いはできないだろうけどな」
「えっ?」
「…だから、ここはドラゴンの墓場。もう寿命であとは死ぬだけってヤツが来る所なんだよ」
「寿命!?」
元気そうに見えるのに、もう寿命…タッキーはちょっと驚いた。ドラゴンは話を続ける。
「そうさ、俺はもう空が飛べない。それどころか一頭では立ち上がって歩くことさえできないんだ。体を起こすのがやっとさ」
「そんな…」
「悲しそうな顔をするな。俺はもう5千年以上生きたんだ。思い残すことはないんだよ」
「ルードウィヒさん、誰と話しているんですか?」
その時、もう一頭ドラゴンが現れた。体全体が金色に輝いている。ゴールドドラゴンだ。勇者だって滅多にお目にかかれないだろう。ゴールドドラゴンは辺りをキョロキョロ見渡すが、相手の姿が見えない。
「ジークフリートか。ああ、お客さんが来ててな。ホレ、この豆粒みたいなヤツだ」
言われてゴールドドラゴンのジークフリートは、ルードウィヒが指す方向に目を凝らした。確かに豆粒サイズの者がいる。
「本当ですね、なにかちっさいのがいます!」
「豆粒なんて失礼な!!ピンポン玉より大きくなったぞ!!」
「「ピンポン玉…?」」
2頭ともキョトンとしている。
(あっ、しまった、知らないか)
タッキーは慌てて例えを変える。
「え~~~、えっとね、ラディッシュの根よりちょっと大きいくらい…かな?」
「そうか…すまん」「そうですか…すみません」
二頭とも、豆粒もラディッシュの根も大して変わらない…と思いつつも黙っていた。
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