エピソード1-㊽
何とか攻撃魔法のイメージを固め、剣を構えたルル。
「えいっ!!」
とその剣を大きく振り上げ、大きな掛け声とともに思いっきり上から下に振り下ろした。
すると振り下ろすやいなや
ドオオォーーーーン!!!
と、ものすごい轟音とともに水柱が剣から勢い良く噴き出す。それを見たタッキーは、まるで消防車のホースから放水されてるみたいな勢いだな、という感想を抱いた。そうして剣から放たれた水は十数メートル飛び、地面を抉り、その向こうの太い木を倒して止まった。
あまりにすごい音に、偶々ギギルの店の近くを歩いていた二人の爺さんが振り返る。
「…ギギルだな」
「ああ、ギギルだろう。こんなデカい音を出すのは」
爺さん二人がギギルの店を見ながら言う。
「今度は何を作ったんだろうな?」
「さぁ…ワシ等にはよくわからんよ。だが武器としてはいい物を作るらしいぞ?」
「いい物ねぇ…ワシにはただの変人にしか見えんのだが…」
「なんでも、結構名の売れてる冒険者が買ってってると聞いたぞ。この間なんて、『王宮からの注文を受けた』とかで舞い上がっとったよ」
「王宮からの注文!?あいつが!?信じらんねーなぁ!!」
「まったくだ…ワシ等には近所迷惑の変わり者にしか見えんよ」
…どうやら近隣住民からのギギルの評価は低いようである。
一方その騒音の現場はというと…魔法攻撃を放った本人は、そのままの格好で動かない。タッキーはあまりの威力に目を真ん丸にしていた。剣を作ったギギルでさえも、目が点になり、口をあんぐり大きく開けたまま、茫然と突っ立っていた。
少ししてギギルが我へと返り、やっと口を開く。
「…たま~にいるんだよなぁ、しょっぱなからこういうスゲーのブッ放しちまうヤツ。おーいルル嬢ちゃん、大丈夫か?」
そうギギルが話しかけたその時、ルルが倒れこむ。地面に倒れる前に受け止めたギギルが、ルルに呼び掛ける。
「おい、嬢ちゃん!!聞こえてるか!?」
ルルは動かない。顔色は土気色になっており、明らかに危険な状態なのが見て取れる。タッキーが慌てて鑑定スキルを使ってルルの状態を見ると、なんと魔力値…MPがマイナスになっている。
ルル MP:-141
「MPマイナス141!?」
「なんだとっ!?やべぇ、このままじゃ死んじまう!!」
今までに見たことのない数値に思わず大きな声を荒げるタッキーに、その数値を聞いてさらに深刻な顔になるギギル。ルルは明らかに魔力の過剰消費による『魔力欠乏症』となっていた。ギギルは急いで手持ちの魔力回復ポーションを、ルルに飲ませる。ギギルは慣れた手つきでルルの体を起こして支え、むせないように少しずつ飲ませていく。その様子を心配そうに見守るタッキー。
1本目の魔力回復ポーションを飲ませ終えたものの、未だにルルが目を覚まさない。顔色は先ほどよりは良くなったものの、まだ少し青白い。タッキーは再び鑑定スキルを使ってルルを見る。
ルル MP:-41
「ギギルさん!!ルルのMP…魔力値、まだマイナス41です!!」
「わかった。じゃ、もう1本追加だ」
再び見たルルのMPの数値を、大きな声でギギルに報告するタッキー。その数値を聞いてギギルは後1本追加で飲ませることにする。
追加の魔力回復ポーションを、何とかルルに全て飲ませることが出来た。顔色もだいぶ回復し、やっと血色の良い顔色となった。タッキーはルルの数値を確認するため、鑑定スキルを使って見る。
ルル MP:59
「魔力値、59です!!」
「お、やっとマイナスが取れたか。顔色もだいぶいいし、もう大丈夫だな」
タッキーからルルの数値を聞いたギギルは、ルルの顔色の様子と照らし合わせて『危険な状態からは脱した』と判断し、ふう、と汗を拭った。
「おーいルル嬢ちゃん。目ぇ覚ましてくれー」
と、ギギルは軽くルルの頬をペチペチ叩きながら声を掛ける。
「ルル、ルル!!起きて!!お願い!!」
タッキーもルルの顔を覗き込みながら、大きな声でルルに呼び掛ける。
「……んぅ………あれ……?私……なんで…?…タッキー…?」
ルルはようやく意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。
お読みいただきありがとうございました。
追記:原稿の順番が入れ替わっていたみたいで、修正しました。




