エピソード1-②
「冒険者登録をするときに魔力を測るんだけど、その時は0だったから、魔法なんか使えないってあきらめてたのに…」
そうつぶやいたルルにアンナは
「あとから魔力が増えることもあるわ。きっとルルちゃんも魔法が使えるくらいに魔力が上がったのね」と説明した。
ギルドを出たルルは「これで食べ物が買えるわ」と嬉しそうだった。だが、この小銅貨3枚が今の全財産とはなんとも心もとない…。
「何を買うの?」とタッキーがルルに聞く。
「う~ん、そうねぇ…お肉が食べたいけど、高いのよねー」
ルルが見ているのは焼いた薄切り肉をナンのようなもので包んでいるものや、串に肉と野菜を一緒に刺して焼いたものなど、調理されたものだ。
「ルル…もしかして料理できないの?」
「うん…ずっとお母さんがしてくれてたから…。お魚を丸ごと焼いたりとか、薄切りにしてあるお肉を焼いたりとかはできるよ。ただ…結構焦げちゃうけどね…」
(9歳ならまぁ…そんなもんか…)
料理を一切習ってない小さな子供が、むしろ焼く程度のことでもできるだけすごいのだとタッキーは思った。そして考え…タッキーはルルに提案することにした。
「じゃ、ボクが料理を教えてあげるよ!!」
「本当!?でも、どうしてスライムが料理を知っているの?」
タッキーはちょっとドキッとしながら「ボクの特殊能力さっ!!」と胸を張った。
市場の店をキョロキョロ見て「じゃあね、今日は卵を買おうか」とルルに指示を出して卵3つと野菜を少し買った。それでもう小銅貨2枚を使ってしまった。出来上がった肉料理を買っていたら、一食分が小銅貨3枚だ。お金がない今、節約できるところは節約しなければとタッキーは密かに意気込んだ。
「まずね、かまどに火を入れるんだ。火はあまり強すぎないようにね」
タッキーの指示に従い、ルルはかまどに火を起こす。続いてフライパンと油を取り出すように指示し、そのフライパンに油を少し引いて火にかける。
「それからね、かまどの端っこに卵を軽くコンコンって当てて、小さなヒビを入れるんだ。小さくね。出ないと中身が出ちゃうからね」
そういって、タッキーが手本を見せる。コンコンっとかまどの角に卵を軽くぶつけてヒビを入れる。そこへ右手と左手、両方の親指の爪を当てて、そっと左右に引っ張る。そうすると、うまい具合に中身がフライパンの上に流れた。
「さ、残りの卵でルルもやってみて」
「う、うん…」
ルルは覚束ない手つきで卵をコンコンする。初めての作業なので、ちょっと中身が出てしまった。タッキーは初めてやったんだから失敗は仕方ない、とフォローする。
「それをフライパンの上に持ってきて。ヒビのところに両手の親指の爪を入れて割るんだよ」
中身はフライパンの上に乗せられたが、黄身が破れて中身が広がってしまった。
「大丈夫だよ、食べられるから」と、ちょっとしょんぼりするルルを慰める。
もう一個の卵も割ってみる。割れ方はキレイではないが、黄身は崩れていなかった。
「うん、はじめてにしちゃあ上出来だよ!」とタッキーはにっこり笑ってルルをほめる。ルルも成功をほめられてうれしそうだ。
「じゃあフライパンの端っこにちょっと水を注いで蓋をするんだ。卵の表面が白くなったら出来上がりだよ」
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