エピソード1-㉔
「それで、これらの素材で剣の代金になりますか?」
ギギルの方を向いてタッキーが尋ねる。ギギルはちょっと呆れ顔で
「…物の価値を知らないって恐ろしいな…剣1本の代金なんてこの鱗1枚でもお釣りが来る位だ。…なぁ、この素材全部俺に買い取らせてくれねぇか?」
「「はいぃ!?」」
タッキーもルルもこの言葉にはかなり驚いた。
「え…ええ、いいですけれども……」
ギギルの一括買取宣言の衝撃からのしばしの硬直の後、ルルより少し早く立ち直ったタッキーが、しどろもどろになりながら答える。
「あ?金の心配か?大丈夫だ!こういう時のためにたんまりと貯めてあるって!!今計算するからよ、ちょっと待っててくれや」
そういうとギギルは上機嫌で、店の奥へと素材を運んで買取金額を計算しに向かっていった。
…なんか、どこかの誰かと同じこと言うなぁ…と二人は思った。商売人と言うのは、みんなこんな風に『買い時は逃さない!!』って感じなんだろうか…。ルルとタッキーはそろってしばし遠い目になっていた。
しばらくしてギギルは計算を終えたようで、店の奥から出てきた。紙に色々数字が書いてある…。
「待たせたな、計算が終わったぜ。今金を持ってくるからな」
と、店のカウンターに計算し終えた紙を置き、現金を取りに再び店の奥へと入っていった。
…何やらカタン、バタンッと結構な音がしたなと思った少し後に、戻ってきたギギルは両手にずっしりと重そうな袋を持っていた。
「よいしょっ、と」
ドスンッ、と2つの袋をカウンターの上に置いた。
「大金貨552枚だ。剣の代金小金貨5枚と改造費小金貨5枚、合わせて大金貨1枚を引いた残りだ。こっちが明細書だ。今後素材を売るときの参考にしてくれ。もしもこれより安い金額をつけられたら、迷わず俺んとこへ売りに来いよ。じゃ、金貨の枚数を数えてくれ」
「…これ、全部数えるの?」
沢山あるなぁ…と思いながらルルが言う。そしてタッキーは、ギギルがさらっと『改造費』を追加していることに気付いた。
「あの、ギギルさん。改造費ってなんですか?」
「はっ、そういえばとんでもない大金貨の枚数で忘れてたけど、そうだった!改造費!私たちそれ頼んでないですけど、そもそも改造って何ですか?」
「ん?ああ、すまんすまん。すっかり説明した気になってたぜ!」
タッキーとルルの言葉で説明し忘れていたことに気付いたギギル。久々に職人として思う存分腕を振るえることからテンションがかなり高くなり、うっかり説明をすっ飛ばしてしまったらしい。笑いながら改造についての説明を始めた。
「改造って言うのはな、元の武器に魔石を埋め込むことでより武器の性能を上げることを言うんだ。タッキーと言ったか、お前さんが売ってくれた素材を見てひらめいたんだ。嬢ちゃんに売ったこの武器、これだけでも確かにいいもんだが、この2つの魔石を埋め込んでよりいい武器に仕上げようと思うんだ」
そういってギギルはニヤリとしながら、タッキーが出した素材の中から見つけた2つの魔石を二人に見せた。大人の親指位の爪の大きさで一方が赤、もう一方が青。どちらもキラキラ輝いていて、とてもきれいだった。
「嬢ちゃん、魔力値はどのくらいだい?俺の勘だと、年の割に多そうな気がするんだが」
ギギルの言葉に、ルルはちょっとびっくりする。
「えっ、わかるんですか!?」
「まぁな、長年の勘だよ」
「そ、そうなんですか…。えっと、今どのくらいだっけ…200?」
「256になったよ」
タッキーがルルのステータスを見て答える。
「おお、やっぱスゲーな!それなら大丈夫だろう。魔石の力で魔法が出せるぜ!それには結構な魔力を消費するんだ」
「魔法!?」
ルルの目が輝いた。今まで『テイム』以外の魔法が使えなかった。それが使えるようになるなんて…。
「ありがとう、ギギルさん!!」
ルルはすごく嬉しそうにギギルにお礼を言った。
ギギルはその言葉と様子に職人冥利に尽きるといった感じで、久々に満足のいく仕事ができると充実感に満たされていた。
お読みいただきありがとうございました。




