エピソード1-⑲
「そろそろ昼じゃ。飯にせんか?」
イグリスはそういうと、カバンからサンドイッチを出した。
「あ、そうですね。じゃ、ボクらも」
タッキーはそう言って、口を開けて収納ポケットから食べ物・飲み物を出した。それを見ていたイグリスは「ほう、便利じゃのう」と感心している。
「この子の特殊能力なのよ。イグリスさんにも一つあげます」
そういってルルはイグリスにポンの実を一つ差し出した。イグリスはそれを見て少し驚き
「ポンの実!?珍しいのう。森の少し奥へ行かんと取れないはずじゃろ?二人はそこまで行けるのか、すごいのう。だがそんな高価なものを他人にタダで譲るなんて…ルルは商人には向いとらんな」
と、関心するやら呆れるやら複雑な表情で言った。それを聞いたルルはきょとんとして
「ポンの実って、そんなに珍しいの?」
とイグリスに尋ねる。タッキーも言う。
「確かに…ポンの木がある場所には魔物もいるけど、そんなに大きくはないですよ?」
「ああ、珍しいとも。ロドリ村でしか取れないうえに、魔物がうようよしている辺りまで行かなきゃならんのじゃからな。リトリア村ではこれ1個で銀貨1枚じゃよ」
「ええっ!?そんなに高いの!?」
と、ルルは大変驚いた。タッキーも「ロドリ村のギルドの買取価格は1個で小銅貨2枚ですよ!?」と言う。タッキーの言葉にイグリスは
「ふむ…ま、地元じゃし゛買取″価格じゃしな。わしらは仕入れるとき大体1個が大銅貨2枚じゃよ」
大銅貨1枚は小銅貨10枚分だ。大銅貨10枚で銀貨1枚になる。自分たちはずいぶん安く買いたたかれてたんだなぁ…と二人は思った。そしてそれがリトリア村では銀貨1枚で売られる…商売の裏側を知らされることになった。イグリスは話を続ける。
「しかも最近は取ってくるものが減っているらしく、今回は仕入れられなくてのう…これは甘くて菓子作りにもよく使われるから、貴族用に高くてもよく売れるんじゃが…」
そうイグリスは少し残念そうに話す。ルルとタッキーはちょっと意外に思ったので、イグリスになぜ仕入れられないほど少ないのか理由を尋ねてみた。
「ポンの実は以前はもっと沢山手に入ったんじゃが、ほれ、さっきダンジョンがある村の話をしたじゃろ?あそこの2つのダンジョンは新しく見つかった所でな、特にお宝がある方の人気がすごくての。あちこちの腕利きの冒険者たちがみんなそっちに行ってしまって…ポンの実を取ってこれる実力のある冒険者もいなくなってしまったんじゃ」
それを聞いてルルはふと、村の冒険者ギルドのことを思い当たった。
「そういえば、村の冒険者さん達…この頃少なくなったわ。強いパーティって、オスカーさん達位しかいないわ」
「そうだね。元々冒険者の数は少なかったけど、本当に減っちゃったね。オスカーさんのパーティは魔物を狩ることに専念してて、採取はしないしね」
そうタッキーも村の冒険者ギルドの様子を思い出しながら言った。
イグリスはため息をついて
「そうなんじゃよ。ダンジョンに出る魔物やお宝も貴重じゃが、それぞれの土地の産物も、それはそれで必要なんじゃ。困ったものじゃよ。今から行くリトリア村でも『アカラカ』という薬草は、少し森の奥に入らないと取れないから…行っても手に入らんかもしれん」
「アカラカって、何に効くんですか?」
と、ルルがイグリスに尋ねる。
「主に痛み止めじゃな。だから無いと困るんじゃ」
それを聞いたタッキーは「う~ん…それは深刻ですね…」とうなずく。
「アカラカが生えている所へ行くには、ランクE以上でなきゃならんしのう」
とイグリスが付け加える。ルルたちはランクFなので、その依頼は残念ながら受けられない。
そういった話をし終えた後イグリスはしばし考えこみ、そして2人に
「そうじゃ!この実をわしに売ってくれんかの?大銅貨8枚で買うぞ!」
と、商談を持ちかけてきた。
本作では小銅貨→大銅貨→銀貨→小金貨→大金貨と貨幣価値が上がっていきます。
日本円に換算すると100円→1000円→1万円→10万円→100万円という風になります。
田舎では小銅貨でも結構使えますが、都会に行けば行くほど物価が上がるため、最低でも大銅貨あたりじゃないと生活していくうえでお話にならないとかなんとか。
お読みいただきありがとうございました。




