エピソード4-⑤
次の日、二人は宿を出て中心部にある広場へ向かった。広場にはすでに沢山の人が集まっている。広場の端には神殿のような建物があり、そこのバルコニーから広場の中央近くまで通路でつながっている。戴冠式だからか、大勢の騎士が配備され、厳重な警備態勢が敷かれている。
ほどなくして、バルコニーに第三王子が現れた。観衆の皆が一斉に歓声を上げる。第三王子は観衆に手を挙げて答えると、ゆっくりと広場へ続く通路を歩き、広場に設置された舞台に出る。
第三王子のその姿を見て、ルルとタッキーは驚く。王子が被っている兜の前面上部に付いているのはユニコーンの角、体の鎧にはドラゴンの鱗が使われている。王子が帯刀している剣に付けられた魔石も七色鳥のものだ。他にも見覚えのある素材がそこかしこに使われている。
(ギギルさんに売った素材だ…)
(ギギルさん、王家の仕事を貰ったって聞いてたけど、このことだったのね)
ルルとタッキーは思わず念話で話し始める。
((本当だったんだ…))
二人とも、実はギギルの王家の仕事云々は話半分にしか聞いていなかったのだ。ギギルは本当にすごい人なんだ、と改めて知ることになった。
観衆の皆が第三王子の晴れ姿を見て、涙を流している。
「なんて…なんて立派なお姿…」
「ギギルはよくこんな希少な素材を手に入れてきたなぁ…」
はい、それはボクです…とは言えず、タッキーは冷や汗を流していた。
別の観衆がヒソヒソ声で
「ギギルの奴、報酬に大金貨2000枚貰ったって話だぞ」
「おおっ、すげえな!!」
と言う会話がルルとタッキーの耳に入り、聞いていた二人はますます冷や汗をかいた。
第三王子と一緒に歩いていた国王と思われる人物が、王子と向き合う。王子は付き人に豪華なマントを着せてもらうと、兜を脱いで脇に抱え、王に向かって跪く。王は付き人が持っていた王冠を受け取ると、跪いている王子の頭に王冠を被せる。
「第三王子リュートは、今この時をもって成人となった」
王がそう宣言すると、観衆からおおーっと歓声が上がる。そして、王は続けて言葉を口にする。
「そして今日、この場で第三王子リュートが、王位を継承することを宣言する!!」
突然の宣言に観衆が驚く。しかも第三王子本人も初耳だったらしく、驚いて王を見上げた。
「父上…!?」
「そうだ、お前が次の王だ。資格は十分にある。胸を張って良いぞ」
「は、はい!」
観衆の前で取り乱す訳にもいかず、第三王子リュートは取り敢えず了承の返事をして、平静を装うことにした。
「あれ…?王家って上にもう二人王子様がいたんじゃ…?」
ルルが不思議そうに言う。
「うん…そのはずだけど…」
タッキーがそう言いかけた時、傍に居た観衆も同じように思ったらしく、会話が聞こえてくる。
「ああ…あの第一王子じゃあねぇ…」
「やっぱりそうかー」
「第二王子だって頭良さそうなんだが…」
「俺は第二王子が王位を継ぐって思ってたんだが」
「学者肌だからじゃないか?部屋に籠って研究ばっかりしてるって噂だぞ」
観衆は口々に色々噂している。
そして戴冠式は無事に終了した。
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