エピソード3-㉖
ギルドに戻ると、全身真っ赤に血塗られたルルの姿に、流石のウルミアも腰を抜かした。買取は、鎧部分は細かくても、半分熱で溶けていても買い取ってもらえたが、肉に関しては他の冒険者たちはともかくルルたちのは形になっていないものが多くて、半分くらいしか値が付かなかった。
買い取ってもらえなかった細切れ肉の山を目の前に「しょうがないなー」と、タッキーはモグモグと次々自分の胃袋に収めた。それを見ていたルルは「半分はポケットに仕舞ってね」と、釘をさす。
「ハイ…」
鎧ネズミの肉は結構おいしいで、ちょっと残念そうにタッキーは答える。
そして、それからしばらくはギギルの店はミスリル剣を求める冒険者たちで繁盛したらしい。
次の日の朝、自宅に戻ったルルとタッキーはいつもより少し遅く起きた。もちろん畑タッキーは夜明けとともにせっせと仕事をしているが。
「おはようルル。昨日は結構激しい戦闘だったから、今日は軽めに薬草取りとか木の実拾いとかにしようか」
とタッキーが提案すると「うん、いいわね。二日続けて血塗れも嫌だし」と、ルルも賛成した。
森へ入ると、二人は薬草を探し始める。
「秋になると薬草もちょっと少なくなってきたわね」
「そうだね。取るなら今のうち…かな?冬になって雪が積もったら、本当に何も取れなくなるからね」
そう答えたタッキーの足元で、何かが動いた。
「うん??」
なんだろう…とよくよく見ると、スライムが卵から孵っている所だった。殻を脱いだスライム。豆粒のような小さい体に、クリンと丸い目が二つ、タッキーを見つめていた。
「わあー、可愛いなぁ、スライムの子供だよ」
「えっ!?子供のスライムがいるの!?」
気付くと、ルルの足元にも何匹か小さな小さなスライムがちまちまゆっくり動いていた。一匹がルルと目が合って、じーっと見つめている。
「かわいいー!!」
よく見ると、二人の周りには結構沢山のスライムの卵と、孵ったばかりのチビスライム達がいた。
「多分今年最後の産卵で生まれた子たちだね」
「そうなの?」
「うん。スライムは年3回産卵するんだ。春・夏・初秋。冬は冬眠しちゃうからね、秋がその年の最後なんだ。産まれた子たちは秋の恵みを沢山食べると、すぐに冬眠してしまうんだ」
「そうなんだー」
タッキーの説明を聞いていると、ルルのすぐそばのチビスライムを、虫が食べようとしていた。
「ピーピー!」
襲われて鳴くチビスライムにルルは「こら駄目よ!あっち行って!」と虫を追い払ってあげた。それを見ていたタッキーは冷静にルルを諭す。
「そんなことをしても、ボクらがここからいなくなった途端、また他の誰かに食べられちゃうよ」
「わかってるわよ…」
言われたルルはちょっとむくれて、それから助けたチビスライムを掌に乗せると
「それでも見ている目の前で、食べられちゃうのは嫌だわ。だってタッキーの仲間じゃない」
「うん、そうだけど…」
タッキーは、そんなルルの言葉がちょっと嬉しかった。
スライムは卵を沢山産む。卵のうちに食べられてしまうのも多い。そして生まれてすぐ次の瞬間から他の虫や動物に次々食べられてしまう。
タッキーはポケットからポンの実を1個取り出した。
(そう、君達は生まれてきたんだ)
タッキーはポンの実を手刀で半分に切ると、チビスライム達がいる地面の上に置いた。
『あっ、イイニオイ』
『イイニオイ』
ニオイを嗅ぎつけて、わらわらとチビスライム達がポンの実に群がってきた。
(もしかしたら、すぐに食べられてしまうかもしれない。次に会うことはないかもしれない)
モグモグとポンの実を食べるチビスライム達。
「おいしいかい?」
タッキーがきくと、チビ達はニコニコしながら
『うん、おいしいよ』
『おいしいよ』
と、嬉しそうに食べていた。
「よかったね。沢山食べて冬眠しようね」
(短い命かもしれないけど、それでもこの世に生まれたんだ。‟ああ幸せだったな”って思えるような経験を、1つでも2つでもして欲しいと、心から願っているよ)
これにてエピソード3は終わりです。小話を挟んだ後、エピソード4になります。
お読みいただきありがとうございました。