エピソード3-㉕
「そうだ、炎攻撃がきくなら特訓の成果も試さなくちゃ!」
と、ルルは剣の魔石を使った攻撃をする。鎧ネズミめがけて剣先を向けると「ファイヤーボール!」と叫んで火球を飛ばす。
「「「おお!」」」
とみんなが驚きの声を上げる。…が、火球は思いっきり外れる。
「…あれ?」
ルルはもう一発火球を放つ。…が、やっぱり外れて、隣の鎧ネズミに当たった。
「ギャー!!」
鎧ネズミは暑さに耐えきれず、転げ回って死んだ。炎の威力としては十分らしい。傍で見ていたタッキーは冷めた目でルルを見る。
「ルル…もしかしてノーコン!?」
「ノーコン…って何?」
「えーっと…魔法の命中率がすこぶる悪いことだよ…」
「あー、そういう意味の言葉なんだ、ノーコンって。…うん、そうかも…」
ルルもかなり冷や汗をかいている。
確かに、魔法の練習をかなりしてはいたが、それは魔法の威力を小さくしていたのであって、当てる練習はしていなかった。しかし、鎧ネズミの数はたちまち増えて、狙いが定まらなくても適当に当たるくらいになった。
「くそっ!畑を食い荒らしてた連中が戻ってきたな」
「こんなに沢山いるなんて聞いてないわよ!」
と、冒険者たちは口々に文句を言っている。埒が明かないと判断したタッキーは、ルルに提案する。
「これじゃあ1匹1匹倒してても埒が明かないな。ルル、連携攻撃で行こう!」
「わかったわ!」
ルルは元気よくその提案に応じる。タッキーは「行くよ!」と声を掛けて、バッと地面に両方の手(?)をついた。すると、鎧ネズミの群れがいる地面の下から、ミスリル製の細く先が尖った針が沢山出てくる。ミスリルの針は鎧ネズミの鎧を貫き、体本体へと刺さる。運よくミスリル針を逃れた鎧ネズミはルルが剣で倒していく。3~4回それを繰り返して、鎧ネズミの群れはすべて倒し尽くした。
「はーっ、やっと終わったわ」
と、ルルが汗と血を拭いながら言う。ルルはもう、全身に返り血を浴びて、上から下まで真っ赤になり、血がポタポタ滴っていた。
「…ルル、帰ったらすぐシャワーを浴びようね」
あまりのひどい有様に、タッキーが言う。タッキーの方はと言うと、針を出すのは遠隔操作のようなものなので、あまり返り血は浴びていない。
「あ~、惜しい。あと1匹足りないな」
「こっちは3匹も足りないわ」
と、他の冒険者達が自分達が狩った鎧ネズミの数を数えながら言う。
「皆さん、依頼達成の条件って何匹何ですか?」
と、タッキーが尋ねる。すると冒険者たちは「うちは7匹だよ」「うちもだよ」と口々に答えていく。
「ボク達もです。それにしては数が多かったですね。予想外…でしょうか。いいですよ、足りない分はボク達が倒した中から差し上げます」
とタッキーが討伐依頼数に達していない冒険者達へ提案する。冒険者達は驚く。
「えっ!?でも君達が倒した分だろう?」
「いいですよ。かなり沢山いるんでね。ねっ、いいよねルル?」
「うん、いいわよ」
ルルもタッキーの提案に賛成して答える。ルル達が倒した鎧ネズミは30匹以上なので、確かに何匹か譲っても大した報酬のマイナスにはならない。
「はい、どうぞ。1匹と3匹ね」
ルルは鎧ネズミの頭を切り落として差し出す。倒した証拠としてギルドに頭部を提出するためだ。
「ありがとう!」
「ありがとう、これで依頼達成になるよ!」
冒険者達は皆喜んだ。
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