エピソード3-㉒
「…で、残る一つなんだが…これはドラゴン、フィールドドラゴンの魔石だ」
「フィールドドラゴン!?」
ドラゴンの魔石まであったとは…いや、ドラゴンから譲って貰ったものなのだから、あっても不思議ではない。ギギルは続ける。
「あまり聞いたことがないだろう?存在が地味なドラゴンでな。数が少ないんじゃなくて、性格が大人しいらしいんだ」
「大人しい…の?」
「まあな。フィールドドラゴンは、ドラゴンの中で唯一草食なんだ。だからドラゴンの中じゃ、のんびりしている方だ。…ただな、怒らせるととんでもなくてな。大地震を起こしたり、津波とか、大規模な火山噴火とか、とんでもない災害を起こすんだ。大人しくしてくれないと、困る」
「「確かに…」」
暴れたら、シャレにならない大惨事になるだろう。ギギルはさらに続ける。
「それだけに、普段は人目につかない所にいるから、まず出会わない。大昔ならともかく、現在出くわしたって話は聞いたことがない。魔石も、王都の博物館の資料室に保管してあるものだけなんだ」
「そんなに珍しい物だったんですか…。道理でこんなに美しい魔石、今まで見たことないはずですね」
タッキーは感嘆したように言う。ギギルは真剣な顔で二人に懇願する。
「これだけは、もう誰にも見せない、って約束してくれないか。俺も今日見たことは誰にも言わない。そうでないと世界中大騒ぎになるからな」
「「は…はい、わかりました…」」
タッキーもルルも、そんな大事とは思っていなかったので、いきなりの事で緊張する。そしてタッキーはギギルから差し出されたフィールドドラゴンの魔石を、再び自身の収納ポケットに仕舞う。おそらくこの魔石はタッキーの生涯が終わるまで、永久封印されることになるだろう。
魔石をポケットに収納し終わると、ギギルの顔がいつもの表情へと戻り
「じゃ、残りは全部買取でいいよな?」
と、にこやかに言い放つ。言われたタッキーは
「えっ!?あ、ハイ」
と、ほぼ反射的に返事をした。
タッキーのほぼ反射的な返事を聞いたギギルはほくほく顔で、石を奥の鑑定室へと運んでいく。しばらくして出てきたギギルは、大きな袋を2つも持っていた。明らかに前回素材を売った時よりも多い。それに、そんな大金を即現金で用意できるギギルも凄い。
「「えっ!?ちょっ…!?多くないですか、ソレ!!」」
あまりの大金に驚くルルとタッキーに、ギギルは涼しい顔で
「ああ、素材の時も珍しいのが多かったが、今回はそれ以上だ。魔石も凄いが、鉱石もミスリル以上のがゴロゴロしてたしな。ホレ、今回の買取価格(前回の買取価格の1.5倍)だぞ」
と言って、カウンターに大きな金貨袋を2つ、ドンッと置いた。
そのボリュームに、ルルとタッキーは目を真ん丸にしている。二人とも、石の輝きに目を奪われて、魔石や鉱石は売ってお金に変えられるのだったと、この時まですっかり忘れていたのだった。
(あれ…?それじゃあハインリヒさんから譲って貰った石って…全部で幾ら位になるんだろう…?)
タッキーはちょっと考えて、結構ゾッとした。
(いや、今は考えないようにしよう、そうしよう)
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