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84、家族揃って晩餐会

 夕刻を迎え、リシャールやアレクも到着し、ヒルシュタイン公爵邸の食堂では、久しぶりに祝いの晩餐会が開かれていた。


「レイモンドを祝うために、よく集まってくれた。感謝する。こうして新しい家族を交え、皆でこの席を設けられたこと、誠に嬉しく思う……っ!」


 ワイン片手に口上を述べながら、お父様は始まってもないのに、すでに泣きそうだった。


 無理もないわね。

 この席にお兄様が参加されるのは、十数年ぶりだ。

 そして新たな家族として、アレクとリシャールも参加してくれている。

 閑散としていた食堂が、こうも賑やかになる日を迎えられるなんて、想像もできなかっただろうし。


「父上、そして皆様にも、いろいろご迷惑をおかけしました。こうして光栄な席を用意していただき、お忙しいなか集まっていただけたこと、誠にありがとうございます」


 立ち上がったお兄様は、そう言って深く頭を下げた。


「こちらこそ、招待してもらえて光栄ですよ。レイモンド卿」

「お、俺のような者まで、招待していただき、ありがとうございます……!」


 笑顔で返すアレクに対し、リシャールはとても緊張している様子だった。


『みんな、私たちのために、ありがとう!』


 姿を現したクロノスが、そう言って嬉しそうにみんなの上を飛んでいる。


「レイモンドとクロノスの……、めでたき出会いを祝して、乾杯……っ!」


 こうして晩餐会が幕を開けたのはいいんだけど……だめだわ、お父様完全に泣き上戸じゃない。

 酔ってないのに!

 ワイン飲みたいけど、いまは我慢ね。


 グラスをテーブルに戻そうとしたら、「ヴィオ、僕がアルコール飛ばしてあげる。貸して」と、隣からアレクが手を差し出してくる。


「え、できるの?」

「あれから練習したんだ。まぁ、見ててよ」


 受け取ったグラスに、アレクは集中して雷魔法を注いでいく。

 グラスの中で、瞬間的に小さな雷が駆け巡り、小さくジュワっと音がした。


「はい、飲んでみて」

「…………すごいわ、まったく感じない」

「本当は無音でできるようになりたいけど、それはもう少し練習が必要だな」


 悔しそうにそうぼやくアレクに、「その気持だけで嬉しいわ、ありがとう」と私は返す。

 そうして美味しくワインを飲んでいたら、泣き止んだお父様が血相を変えて尋ねてくる。


「ヴィオラ、大丈夫なのか……⁉」

「ご安心ください、団長。僕が代わりに処置しましたので」

「そうか、それならよかった」


 ほっと安堵のため息を漏らしながらも、お父様はなぜか少し寂しそうな顔をされていた。


 それからみんなで食事を楽しみながら、いろいろなことを話した。

 お兄様とリシャールは、どちらかと言えば口数が少ないほうだ。

 それに比べてアレクとマリエッタは、よく喋る。

 二人が潤滑油のように場を盛り上げてくれたから、お兄様とリシャールの緊張も自然と解けて、和気あいあいとしていた。

 ヒルシュタイン領の近況や、ログワーツ領の復興具合など、色々知ることができた。


「実はいま、一つ悩んでいることがありまして……」


 そこからリシャールが復興で悩んでいることを相談をしたことで、真面目な話が飛び交うようになった。

 リシャールの悩みは、そろそろ領地の収入の要となる産業を始めたいというものだった。


「ログワーツの毛皮は質がよく、王都では加工されて高く売られている。それをすべて自領で行えるようになれば、かなりの収入源になるだろう」

「ですが立地的に、王都の流行を毎年掴むのは難しいでしょう。それに最近では、狩猟の数も減っているという話ですし、それを産業の柱にするには正直厳しいのではないかと」


 お兄様の意見に、アレクが冷静に言葉を返す。

 以前のように食料を自給自足で賄っているなら、毛皮もたくさん入手できたんでしょうけど、いまは近領との交易頻度を増やして食糧もある程度購入しているという話だ。

 領地の近代化を進めている状況において、狩猟ありきの産業を要にするのは確かに厳しいだろう。でも――。


「それなら王都の流行を掴むんじゃなくて、作ればいいじゃない。ここにはほら、将来有望なデザイナーがいるのよ。ブランド化できれば、少量でもその価値は計り知れないわ。ね、マリエッタ」


 私の言葉で、みんなの視線が一気にマリエッタに集まる。


「え、えっと……難しい話はわからないけど、私にできることなら、頑張ります!」

「確かに、毛皮を最初の足掛かりにとどめるなら、それもありだね」と、アレクが私の意見に同意を示す。


 事情を知らないお兄様とリシャールに、フェリーチェのロゴを作ってくれたのはマリエッタなのよと教えると、二人はとても驚いていた。


「そういえば……確かにマリエッタは、結婚式のドレスも自分でデザインしていたな」

「そ、そうなのですか……?」


 戸惑うマリエッタを見て、リシャールは寂しそうに眉尻を下げる。

 でもすぐに笑顔を作り、「ああ、とても綺麗だった」と褒めると、マリエッタは頬を赤らめ、嬉しそうにお礼を述べた。


 その後も色々と意見の交換が続き、その様子をお父様は目を細めながら、嬉しそうに眺めておられた。

 賑やかになったこの光景を、お母様も天国から見守ってくださっているといいわね。

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