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81、力を合わせて

 一個目の爆破物はたしか東区――メインストリートに面した雑貨屋、ヴィゼの裏路地にある民家の青い屋根、だったわね。


 ラオの背に乗って空から目的の民家を探すと、赤い物体が載った青い屋根を見つける。


「あったわ! あの青い屋根の家よ」


 頷いたアレクはラオを操り、そっと屋根の上に着地した。

 屋根にはいくつか出窓があり、そのうちの一つに赤いボックスのようなものが設置されている。


「危ないからヴィオはそこで待ってて。僕が見てくるよ」


 風を纏ったアレクは、勾配のきつい屋根を軽々と移動し、目的の出窓まであっという間にたどり着いた。

 移動には本当に便利ね、風魔法……私はラオを支えにしないと立てないし、ここは任せて大人しく待っていた方がよさそうね。

 

 平たい出窓の上に設置された赤いボックスに、アレクはそっと耳を近付ける。


「時を刻む音が聞こえる。どうやらこれで間違いなさそうだ」


 アレクが慎重に風を操り浮かせて運んできた赤いボックスのサイズを確認して、私は茨を召喚してカゴを作った。


「え、そんなこともできたの……⁉」


 目を丸くするアレクに、私は答える。


「【愛】の記憶を継承して、リーフの力が強化されたおかげよ」


 調和の力の恩恵で、以前より自在に召喚した茨を操れるようになったのよね。


「アレク、ここに入れてくれる? 茨で動かないように固定するわ」

「うん、任せて」


 風を操ったアレクは、慎重に時限式魔道具を浮かせてカゴに移してくれた。

 新たに召喚した茨で時限式魔道具が動かないよう固定して、さらに運びやすいよう持ち手も作った。

 直接触れないから温度が上がることもないし、これで少しは安心ね。


 それにここに来るまで、アレクは結構魔法を使っているのだろう。彼の額には、微かに汗が滲んでいた。

 負担を減らすためにも、アレクが使う魔法は最小限にとどめた方がいいわね。


「このまま私が運ぶわ。さぁ、次の回収に向かいましょう」 


 無事に一個目を回収した私たちは、そのまま二個目の回収場所へと向かった。


 確か二個目は菓子店エメルの前にある、ベンチの下だったわね。

 近くで地上に降りた私たちは、目的のベンチを探す。


「ヴィオ、あのベンチだ! でも……」


 視線を向けると、ベンチにはマリエッタとリシャールの姿があった。

 楽しそうにお喋りをしている二人はとてもいい雰囲気で、邪魔するのは憚られる。


「アレク、二人に気付かれずに風を操ってこっちまで運べる?」

「やってみるよ」


 アレクは風を操り、少しずつベンチの下から赤いボックスを出すことに成功した。しかし――。


「見て、ママ! この赤い箱、動いてる!」


 近くにいた幼い男の子が、そう言って時限式魔道具に触れようとする。

 それをアレクがなんとか風を操り避けるものの、人の間を縫うように移動する赤いボックスは余計に目立ってしまった。


「まずいわ、アレク! 上よ、一旦上に浮かせるのよ!」


 触れられると大変だ。

 目立っても触れないところにある限りは大丈夫なはず。そんな私の指示がいけなかった。


「あ、まずい……遠すぎて制御が……っ!」


 上に浮かせすぎたボックスが制御を失い、真っ逆さまに落ちる。その下には――。


「マリエッタ! お願い、避けて!」


 いまの私には、あれを爆発させずに安全に受け止める方法がない。


 その時、異変に気付いたリシャールが咄嗟に手から氷魔法を放った。

 彼の手から連なって伸びた氷は、間一髪のところで赤いボックスを氷の中に閉じ込め落下を阻止した。


 え、リシャール、氷魔法まで使えたの……⁉

 そっか、精霊獣ペガサスの属性が氷だったのね!


「あ、ありがとうございます、リシャール様」


 お礼を言いながらリシャールを見上げるマリエッタの頬は、ほんのりと赤く染まっていた。


「これくらい、どうってことないよ。怪我がなくてよかった」


 奇跡的にマリエッタの危機を救ったリシャールに、周囲からは拍手が寄せられる。


「待って、魔法を解かずにそのまま! 二人とも、そのままこちらに来てくれるかしら?」


 リシャールが魔法を解かないよう強調して、私は二人を人のいない路地裏まで呼び寄せた。


「衝撃を与えないように、赤いボックスをこのカゴに入れてほしいの」


 頷いたリシャールは指示通り、カゴに時限式魔道具を置いて氷魔法を解いた。


「ありがとう、助かったわ」

「お姉様、何かあったのですか?」


 ほっと胸を撫で下ろすと、マリエッタが心配そうに尋ねてきた。


「色々まずい状態でね。失敗すると、この会場が火の海になってしまうのよ。そうだわ、リシャール! マリエッタを連れて、今すぐここから離れて避難してほしいの」

「会場が火の海に……⁉ 嫌です、お姉様たちをそんな危険な場所に残していくなんて!」

「そうだな、人手が要るなら俺も手伝うよ。何をすればいい?」


 しまった、焦って伝え方を間違ったわ!

 二人を危険に巻き込みたくなかったのに……


 どうか断ってくれと願いながら、仕方なく私は要約して事情を話した。


「この会場には、十九時に爆発する時限式の魔道具が仕掛けられているの。時間内に爆発物を集めて、一斉に空に飛ばして、精霊たちに処理してもらう予定よ。安全は保障できないわ。だからいまのうちに……」

「もしかしてそれが、爆発物ですか……⁉」


 マリエッタが私の持つカゴに視線を落とした。


「ええ。熱を感知すると、爆発するわ。だから直接触ると危険なのよ」

「だからさっき、凍らせたままにしてくれと言っていたのか。二つも運ぶのは大変だろう? 俺が一つ代わりに運ぼう」

「でもリシャール様、ペガサスを操縦しながらでは危険ですわ! 落とさないように、私も手伝います!」


 逃げるどころか手伝う算段で二人の会話は進んでいた。

 どうやら避難させるのは無理そうね。

 時間もないし、それならいまは素直に手を借りよう。


「それじゃあ、頼んでもいいかしら?」


 私の言葉に、二人は力強く頷いた。

 それからリシャールは、時限式魔道具を二つとも氷魔法で爆発しないように凍らせてくれた。

 そのうち一つをマリエッタに預ける。


 大丈夫かしら?


 心配だけど、「任せてください、お姉様!」と笑顔のマリエッタを見ていたら、心強く感じた。

 そうよね、マリエッタもいつまでも子供ではないものね。


「ありがとう。くれぐれも気をつけてね。アレクが先導するから、付いてきて」


 二人がペガサスに乗ったのを確認して、アレクはゆっくりと地上を飛び立つ。

 そうして私たちは、お兄様たちが待つ北の街道へと向かった。


 ふと空から地上に視線を落とすと、祭客が豊穣祭を楽しんでいる様子がよく見える。

 もし失敗したら闇の業火に包まれて、一気に会場は地獄絵図と化すだろう。

 この手に多くの人の命を抱えていると思うと、時限式魔道具を持つ手が震えていた。


「大丈夫だよ、ヴィオ。精霊たちを信じよう」


 手綱を握っていたアレクの手が、そっと私の手に添えられる。

 どうやら震えていることがバレてしまったらしい。


「約束したでしょ? 家族みんなで食卓を囲むって。無事に終わったら、祝いの晩餐会を開こうよ」

「そうね、楽しみだわ」

「それにね、僕はヴィオと一緒に、まだやりたいことがいっぱいあるんだ。こんなところで、君との未来を諦めるつもりはないからね」


 アレクのその言葉に、胸が詰まったように苦しくなった。

 結婚なんてどうでもいいと思っていた。

 でもいまは、隣にはアレクが居てほしい。


 改めてそう自覚したら、顔に熱が集まるのを感じた。

 スカートのため横座りしているいま、私の赤くなっているであろう顔は、アレクに丸見えなのじゃなくて?


 恥ずかしくなって俯いた私は、ぽすっとアレクの胸に頭を預けた。


「……諦めたら、許さないから」


 小さく呟いた言葉がアレクに届いたのかは、わからない。

 けれど添えられたアレクの手に、すこしだけ力がこもったように感じた。

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