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75、再会

 お父様が必死に捜索してくださっているものの、あれから二週間経ってもお兄様の消息はつかめなかった。


 十月の中旬。

 豊穣祭を明日に控え、私にはもう一つ気がかりなことがあった。


「マリエッタ、緊張してるの?」

「……はい。この服装おかしくないでしょうか?」

「安心して、いつもどおり可愛いわよ」


 豊穣祭は精霊へ感謝を伝える祭典だ。

 ウンディーネ様への感謝を伝えるため、ログワーツからリシャールが来るのよね。


 一緒に豊穣祭を巡る約束をしているらしく、リシャールは公爵邸に数日間滞在する予定だ。


 あと三十分もすれば、リシャールが到着する約束の時間になる。

 一時間以上も前に準備を済ませたマリエッタは、そわそわしてとても落ち着かない様子だった。


「大丈夫、普通にしていればいいのよ」


 なんて励ましていたら、私はテラス窓の外に信じられないものを目撃した。


 は? 嘘でしょ⁉

 今のって……目を擦り、もう一度外に視線を向けると、それは紛れもなくリシャール本人だった。


 まさか私の渡したリストの中で、一番実現が難しいことを叶えてくるなんて、なかなかやるじゃない。


「マリエッタ、どうやらリシャールが来たみたいよ。ほら、振り返ってみて」


 バルコニーへ続くテラス窓を開けて、私はマリエッタに声をかけた。


 バサバサと翼のはためく音が聞こえる。

 まるで絵本に出てくる白馬に乗った王子様のように、精霊獣ペガサスにまたがるリシャールの姿が外にはあった。


 ちらりとマリエッタに視線を向ける。

 マリエッタは一瞬驚きを露わにするも、キラキラと瞳を輝かせている。緩んで弧を描く口元は、とても嬉しそうに見えた。


「すまない、予定より早く着いてしまって……っ!」


 マリエッタを視界に捉えた途端、リシャールは頬を赤く染める。

 ハッと息を呑み、どうやら見惚れているようだった。


 手紙で少しずつ親睦を深め、今はまったく知らない相手ではない。

 たとえマリエッタが記憶を思い出せなくても、この二人ならきっと、これから良い関係を築けそうね。


「ほらマリエッタ、リシャールをお屋敷に案内してあげたら?」


 前へ進むよう背中を押してあげると、「はい、お姉様!」と軽い足取りでマリエッタは玄関へと向かい始める。


 下に降りて待ってるよう、私はリシャールにも声をかけた。

 すると頷きお礼を言った彼は、ペガサスを操縦して颯爽と庭園に着地する。

 リシャールに頭を撫でられて、ペガサスは嬉しそうに尻尾を左右に振っている。


 あれは野生の精霊獣よね?

 一体どうやって契約したのかしら……まぁ、その疑問はおいおい聞くとしよう。


 侍女たちに二人のサポートをお願いして、私は温室へと向かった。


「リーフ、お兄様の懐中時計は無事かしら……?」


 懐中時計の入ったケースに寄り添うように座るリーフに、私は声をかけた。


「うん、安心して。泣き出したら僕が励ましてるよ! レイモンド、早く見つかるといいね」

「そうね、面倒を見てくれてありがとう。豊穣祭までにお渡しできたらよかったんだけどね」


 リアムさんにお願いして、ノーブル大商会関連のお店に、お兄様が来店してないか調べてもらったりもしたけど、結局手がかりは掴めなかった。


 アレクともあれからまた連絡がつかないし、あまり王城に帰ってこないアレクをシルも心配していた。

 どうやらシルの話によると、ある機密任務のために部下の精霊騎士を数人連れて、各地を転々としているらしい。

 無理してないといいわね……。


「ねぇ、ヴィオ。豊穣祭、レイモンドも来ないかな?」

「お兄様が、豊穣祭に……? 確かに、可能性はあるかもしれないわ。お兄様の精霊への信仰心は、とても強かったもの」

「だったら明日、この子も一緒に連れてこうよ! もし近くにレイモンドが居たら、きっと教えてくれると思うんだ」


 少しでも可能性があるなら、やってみる価値はあるわね!


「ええ、わかったわ」





 豊穣祭当日の朝、私は温室で白いヒメユリの花を二本収穫して、一輪ずつブーケを作った。


「お待たせ。お祈りにはこれを使うといいわ」


 精霊に感謝を伝える豊穣祭では、まず始めに一輪の花を捧げてお祈りする風習がある。

 花は会場でも売ってるんだけど、折角ならウンディーネ様好みの花を捧げたほうが、喜んでいただけるだろう。

 マリエッタとリシャールに、それぞれ一つずつ白いヒメユリのブーケを渡した。


「ありがとうございます、お姉様!」


 笑顔で受け取ってくれたマリエッタとは対照的に、「俺の分まですまない」とリシャールはすごく申し訳なさそうにしていた。


「今日一日、マリエッタをしっかりエスコートして、屋敷まで無事に送り届けてくれたらいいのよ?」

「それはもちろんだ、約束する!」


 いまのリシャールなら、ボディーガードとしては申し分ないわね。

 ログワーツからここまで精霊獣に乗って来たらしいし、ウンディーネ様とも契約している。

 過酷な環境で身体も鍛えてられていることを考えると、普通の精霊騎士より強そうね。


「そうですわ! 豊穣祭、よかったらお姉様も一緒に行きませんか?」


 マリエッタの思わぬ提案に、リシャールが「え……」と困惑した様子で固まっている。


 そりゃあ、ショックよね。

 私だってわざわざ邪魔したくないわよ。


「ありがとう。誘ってくれるのは嬉しいけど、今日はリーフと回ろうと思ってるの。一緒に行くのは初めてだから、いろんな景色を見せてあげたいのよ」


 それに途中でお兄様を探すからとは、言えないわね。

 心配かけるといけないし。


「はっ! そうですよね、今日は精霊に感謝を捧げる日……ですものね!」

「ええ、だから二人で楽しんでいらっしゃい。きっとウンディーネ様も、そう望まれてるわ」


 二人の仲を取り持とうと、ウンディーネ様は毎日手紙を届けてくださっているものね。

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