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74、努力の証

「すごいわね。精霊学について、ここまで深く調べてあるなんて……どうしたの?」


 さっきまでの元気を失ってしまったマリエッタが気になって、私は思わず尋ねた。


「……よほど、悔しかったんでしょうね。私、実は聞いてしまったんです。お兄様には、自然属性の適正がないって。どんなに努力しても、お父様のようにはなれないって」


 精霊騎士になるには、火・水・土・風・氷・雷・光のうち、いづれかの魔法を使える自然元素の精霊と契約しなければなれない。

 どの自然元素にも適正がなければ、精霊騎士になる規定を満たす精霊との契約はできない。


「それ、誰に聞いたの……?」

「お兄様が公爵領に行かれたあと、お父様の部下の方々が話しているのを耳にしたんです。才能がないお兄様より、お姉様に公爵家を継がせたほうがいいんじゃないかって」

「そんなことが、あったのね……」


 幼いマリエッタが耳にしたくらいだ。

 お兄様の耳に届いていた可能性もあるわね。

 剣の稽古を辞めてしまわれたのは、もしかするとそのせいだったのかもしれない。


「子どもの頃からお父様がお姉様に婚約者を紹介していたのだって、お兄様を安心させるためだったと思うんです。まぁそれを、私が邪魔してしまったのですが……ごめんなさい、お姉様」

「気にしないで。マリエッタが幸せになってくれるなら、それでいいと思ったのよ。それに婚約を受けたのも、お父様を安心させてあげたかったからだしね」


 そんな話をしていると、右上にある鍵のついた小さな引き出しが、一瞬ピカっと光った。


「い、いまの見ました……⁉️ 何かありますよ、その引き出し!」

「ダメだわ、鍵がかかってて開かないわ」

「絶対そこに何かがありますよ! お姉様、手分けして鍵を探しましょう!」


 それからマリエッタと二人で手分けして鍵を探したものの、まったく見つからなかった。


「もしかして、鍵はお兄様がお持ちなんじゃないかしら?」

「それならいくら探したって、見つからないですよね。でもお姉様、さっきより光が強くなってますよ」


 いっそのこと壊します? とマリエッタが物騒なことを言った時、光りに包まれてリーフが姿を現した。


「泣いてる。すごく悲しんで、泣いてる声が聞こえるんだ。この中で」


 そう言ってリーフは、鍵のついた引き出しに視線を向ける。


「鍵がなくて開かないのよ。リーフ、なんとかできないかしら?」

「僕が干渉できるのは、自然のものだけ。人の手が加わった無機物だと、指示には素直に従ってくれないんだ。でもこれって鍵があれば開くんでしょ? ないなら作ればいいんじゃない?」

「鍵を作る? そんな簡単に作れるわけ……」

「簡単だよ! ここに手を当てて、茨を召喚したらいいんだよ。うまくイメージすれば、調和の力で適した形と硬さになってくれるよ。僕もサポートするから!」


 そんなにうまくいくのかしら?

 半信半疑ながらも鍵穴に手を当て、中に添うようイメージして慎重に茨を召喚する。

 そのままゆっくりひねると、カチリと解錠音が鳴った。


「ね? できたでしょ!」

「すごいです、お姉様! これで鍵をなくしても安心ですね!」


 リーフとマリエッタはそう言って喜んでるけど、なんだか悪いことをしている気分で、良心が痛むわね。

 まぁ、壊すよりはマシなはず。


 そう気持ちを切り替えて、緊張しながら引き出しを開けると、中には小さなケースが入っている。

 取り出して蓋を開けると、丁重にしまわれた銀細工の懐中時計があった。


「この懐中時計……誕生日にお母様が贈られたものだわ。昔、お兄様に見せてもらったことがあるの」


 表面の蓋に描かれた尾の長い神秘的な鳥が印象的で、よく覚えてるわ。

 確かヒューズを押して蓋を開けると、ベルデライトで作られた淡い緑色の文字盤と、中央に嵌め込まれたブルースピネルのコントラストが美しいのよね。


「わぁ……とても綺麗な懐中時計ですね! 壊れてないのに、お兄様はなぜ置いていかれたんでしょう? それもわざわざ、鍵付きの引き出しに入れて……」

「確かに不自然よね。お兄様、昔は肌見離さず持ち歩かれていたもの」


 その時、懐中時計が何かを訴えるかけるように、再びピカピカと光を放つ。

 デスクに降りたリーフは、懐中時計に寄り添うように耳を傾けて口を開いた。


「この子が、『レイモンドに会いたい』って泣いている」

「リーフ、この懐中時計の気持ちがわかるの?」

「うん。嵌め込まれた天然石が、訴えてるんだ。もう少しで、やっと精霊になれそうなのにって」

「精霊にですか…… でもお兄様は、自然属性の精霊との契約は……⁉」


 はっとするマリエッタに、リーフが諭すように優しく声をかけた。


「この子は懐中時計としての生を受けているから、無属性の精霊になるんだよ。人工物に宿る精霊は、人との深い絆によって生まれるんだ」

「でもそれって、かなりのレアケースなのでは……⁉」

「そうね。人工物が精霊になるのは、とても珍しいことよ」


 それだけこの懐中時計とお兄様には、深い絆があったということなのね。


「ヴィオ、この子をレイモンドに会わせてあげられないかな? 人工物の精霊は、人が強く望まないと生まれない。中途半端に目覚めた意識を放置すると、邪悪なものに騙されて、つけこまれる可能性があるんだ」

「それは大変です! でもお兄様は……」


 悲しそうに目を伏せたマリエッタに、私は動揺を悟られないよう明るく答えた。


「お父様も動いてくださっているし、きっと大丈夫よ。お兄様に、必ずお渡ししましょう」

「そうですよね! きっとお父様が、見つけてくださいますよね!」


 マリエッタが目撃した日、もしかしてお兄様は、ここに懐中時計を置きに来られたのでは?

 大切なものと決別してまで向かわれた先とは……そう考えて、思わず背中に悪寒が走る。

 お兄様、どうかご無事でいてください……!

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