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68、悩みを解決するための身辺調査

 数日後、レイラ様の招待を受けて、私は王城に来ていた。


 王太子宮という私空間に案内され、初めて足を踏み入れる場所に緊張するわね。


「ヴィオラさん、来てくれて嬉しいわ。さぁ、こちらにお座りになって」


 けれど、レイラ様が優しく迎え入れてくださって、ほっと胸を撫で下ろす。


「こちらこそ、お時間を作っていただきありがとうございます」

「いいのよ! むしろケレスが迷惑をかけて、ごめんなさいね。おば様のことは、私も気がかりだったから、ヴィオラさんが協力してくれて安心したのよ」


 レイラ様がライデーン産のお茶を淹れてくださり、それを美味しくいただきながら、私は本題を切り出した。


「アデルさんがどんな方だったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「小さい頃、アデルはとてもやんちゃな子だったわ。とにかく好奇心が旺盛な子でね、神聖農園を駆け回っていたわ」

「そうだったのですね。よく夫人とも、お出かけに行かれていたのでしょうか?」

「ええ。よく計画を立てて、お出かけしていたみたいよ。アデルの部屋にはいっぱいお土産が飾ってあったし、手紙でもよく楽しい旅の思い出を教えてくれたわ」

「実は気になっていることがありまして……エヴァリー公爵夫人は、お出かけが好きな方なのでしょうか?」

「いいえ。むしろおば様は普段、インドアな方よ。病気で外出が自由にできなくなったアデルに、昔のようにいろんな景色を見せてあげたくて、色々足を運ばれていたの」

「やはり、そうだったのですね……」


 レイラ様の言葉に、ようやく合点がいった。


 エヴァリー卿が残していった資料、本当に共通点がまったくなかったんだもの。


 観光名所を全てより集めましたって感じで、あれをすべて楽しんでおられたのなら、よほどバイタリティあふれる方なのか、別の目的があったとしか思えなかった。


 やはり、アデルさんのためだったのね。

 それならアデルさんの好きだったものを香りの主軸にしてみる?


 嗅覚は記憶と密接に結びついているし、どうせなら楽しい思い出と結びつく香りがいいわね。


 そんなこと考えていたら、「おば様は昔、植物学者をされていたの。先日の本も、実はおば様が昔書かれた本でね」というレイラ様の言葉に、私は驚きが隠せなかった。


「……え⁉ ザース博士は、女性だったのですか……⁉」

「女性の研究者は珍しいものね、驚くのも無理ないわ。おば様は昔からとても博識でね、量産が難しいとされていたあらゆる作物の安定供給を可能にしたの。次期王にと言われていたくらいすごい方だったのよ」

「ザース博士の本、植物の生態やメカニズムについて詳しく研究してあって、とても面白かったです! まさかエヴァリー公爵夫人が書かれたものだったとは……」

「色々あって、臣籍に降りられたのよ。私もお母様に聞いたことなんだけどね」


 そう前置きして、レイラ様は当時のことを話してくださった。


 夫人は権力には興味のない方で、王位継承権を放棄しようとされていた。けれど先王がそれを許さず、『王位継承権を放棄したいなら、功績を上げてみろ』と夫人は命じられてしまう。


 そこで夫人が目をつけたのが、代々神聖農園の管理を任されていたエヴァリー公爵家だった。


 当時エヴァリー公爵家は、神聖農園で精霊暴走事故を起こし、当主と多数の管理者を失い、まっとうに職務をこなせていなかった。


 このまま神聖農園の管理を任せておくのは危険だと問題視され、お家取り潰しの危険があったそうだ。


 夫人はエヴァリー公爵家に出向き、持てる知識を惜しみなく注いで助力し、わずか三年で神聖農園を見事に立て直した。


 そうして誰もが認める功績を上げた夫人は、『私はエヴァリー公爵家に嫁ぎますわ』と先王に宣言し、臣籍に降りたそうだ。


 誰が王位につくかで揉めて、戦争を起こす国もある。

 アレクもそれが嫌で王位継承権の放棄を主張していたし、陛下に認めてもらうのに苦労していた。


 どこの国も、王族は何かと大変なのね。


「王家の束縛から開放されて自由になったおば様は、おじ様と一緒にある植物園を作ったの。一年間、いつ行っても思い出の花を楽しめる、夢の植物園を」

「もしかして、アデルさんがよく行かれていた植物園ですか?」

「ええ、そうよ。それまでおば様にとって植物の研究は、周囲に望まれたからやってきたことだった。でもおじ様と出会って、そうじゃなくなったの。初めて研究対象じゃなくて、おじ様にもらった花で情緒を感じられたそうよ。それから家族が増えて、おば様はとても幸せそうだったわ」


 確かにザース博士の本、最後の花図鑑はとても情緒あふれたテイストになっていたわね。


 どんな香りがするのかも表現豊かに書かれていたし、すごく堅物な方だと思っていただけに、そのギャップに驚かされた。


 それはきっと、温かい家族が夫人の心を動かしたからなのね。


「レイラ様は、その植物園に足を運ばれたことはございますか?」

「子どもの時に、アデルと一緒に行ったことがあるわ。確か始まりは出会いのフェピア、そしてプロポーズのセリース、ケレスの誕生花アクアム、アデルの誕生花メルーシ、ミーティス植物園では順路を辿ることで、おば様たちの幸せな軌跡を垣間見ることができるの。アデルもそんな両親の思い出が詰まった植物園を、とても気に入っていたのよ」

「では、夫人が香水に興味を示されたのは……」

「もしかすると、香水で情緒をお感じになったのかもしれないわね。おば様に贈ったバラの香水、アデルの誕生花の香りに似てた気がするの。確か先日渡した種にあったはずだから、咲いたら確認してみるといいわ!」


 大切な思い出の詰まった植物園の香りを再現できれば、夫人の心をもう一度動かすことができるかもしれない!


 それにタイムトラベルを楽しめる香水なんて、作るのがとても楽しみだわ!


 こちらを見て、「何かいい考えが浮かんだようね」とレイラ様が微笑んでいらっしゃる。


「はい! レイラ様のおかげです、ありがとうございました」

「役に立てたようで光栄だわ。また何かあったら気軽に連絡してね」


 こうして有力な情報を手にした私は、王太子宮をあとにした。

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