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57、英雄のご息女という肩書き

「ライデーン王国では普段、香水を付ける風習がないから、こちらに来たばかりの頃は、香りの刺激が強くて私も本当に苦労したわ。学生時代、それでキャシーの風魔法にはよく助けられたものね」

「わかりますわ、レイラ様。私のように地方から来てる者たちも、当時の王都でなんであんなに臭いものが流行していたのか、理解できなかったんですもの。反論しても『この良さがわからない田舎者』扱いされるだけでしたし、むかついたのでよく風で香りを吹き飛ばしてあげましたわ!」


 そう言って軽快に笑うキャシー様の言葉に、私の隣ではイザベラが気まずそうに視線を逸らしていた。


 王立アカデミーでもそうだったけど、王都に滞在する中央貴族は排他的な思考を持つ人が多い。


 そのため地方貴族との間には、少なからず溝が存在してたのよね。


 そして中央貴族の中でも、そうして流行のものを好んで買い漁ってよく自慢していたのが、ブリトニア公爵家とそれに連なる派閥の人たちだった。


 イザベラのお姉様はレイラ様たちと歳も近いし、相容れなかったであろうその頃の情景が目に浮かぶわね。


「久しぶりに王都へ来たら、流行も様変わりしてますし。その革命を起こしたのが有名な炎帝のご息女ヴィオラ様とお聞きして、もう納得ですわ! やはり、英雄の子は英雄ですのね!」


 なるほど、キャシー様はお父様のファンなのね。


 立派な英雄であるお父様の娘であることは、私の誇りだ。

 そしてその言葉をかけてくださる方に、悪気がないのもわかっている。


 それでも……外でその言葉をかけられる度に、お兄様が私に向ける鋭い視線を思い出して、胸にチクリと痛みが走る。


 褒められるのが苦しいと感じるなんてばれてしまえば、高慢な印象を与えてしまうだろう。その場の空気を壊したくなくて、


「お褒めいただき、ありがとうございます」


 と、私は決して感情を悟られないように笑顔を作ってお礼を述べた。


 まずは相手の言葉を素直に受け入る。

 そうしてワンクッションおいた上で、話の主役を別の方へずらすべく、笑顔を崩さず言葉を続けた。


「ですがキャシー様、香り改革は皆さんの協力があったからこそ、成しえたことなんです。特にシルやイザベラ様には、香水を広めていただいて感謝しておりますわ」

「ふふ、素晴らしいものを勧めるのは、当然のことですわ!」


 笑顔でそう言葉を返してくれたシルとは対照的に、イザベラは驚いたように目を丸くして、こちらを見ている。


 いつものイザベラなら、自分が主役になれるタイミングを逃すはずはないと思ったんだけど……予想外の反応ね。


 シルとレイラ様の前だから、遠慮しているのかしら?


 ほら、今よと私がにっこりと微笑んで合図を送ると、口をぱくぱくさせたイザベラは、なぜかさっと視線を逸らしてしまった。


 な、なんでそうなるのよー!


 話題の主役をイザベラに向けようと思ったのに、失敗してしまったわ。


 かくなる上は、少し早いけど秘密兵器の投入ね。


「そ、そうでしたわ! 実は新作香水のテスターをお持ちしましたの。要望の多かったペアフレグランスを、夏の新作としてラインナップに加えようと思ってまして……」


 腕輪の中心にある宝石に手をかざして、収納魔道具からテスターを取り出してテーブルに置いた。


 色の違う四つの香水瓶を前に、「ヴィオお姉様の新作! どんな香りがするか、楽しみですわ!」と、シルが目を輝かせる。


「テスターはたくさんありますので、ぜひ試していただけると嬉しいですわ」


 シルのおかげで話題の切り替えもスムーズに済んだわね。


 新作香水の宣伝もできたし、充実したお茶会の時間はこうして過ぎていった。



「レイラ様。今日はお招きいただき、ありがとうございました」

「こちらこそ、皆さんとお話できて楽しかったわ。ありがとう」 


 挨拶を終えて帰ろうとしたら、「待って、ヴィオラさん。よかったらもう少しだけ付き合ってくれないかしら?」とレイラ様に呼び止められた。


「香水の宣伝も終わったことですし、改めて女子会しましょう!」


 本番はここからだと言わんばかりに張り切ったシルに手を掴まれ、そのまま王族専用のプライベートサロンへと案内された。


「麝香の件では本当に世話になったわ。嬉しそうに麝香の魅力を語るウィルフレッド様を、私は否定することができなくて困っていたから……」

「私やアレクお兄様が言っても、ウィルお兄様はぜーんぜん聞く耳を持ってくださらなかったですしね」


 そう言って口を尖らせるシルに、レイラ様はそうねと同意しながら、慣れた手つきでプレートから皿にとりわけたショコラを差し出す。


「シルも色々話聞いてくれてありがとう」

「ふふ、ありがとうございます!」


 ショコラをフォークに刺して、ぱくりと口に含んだシルは、美味しいと頬を緩めた。


「よかったらヴィオラさんもいかが?」

「このショコラ、ライデーン王国のお菓子なんですけど、すごく美味しいんですよ!」


 正直、さっきのお茶会で結構お腹は満たされている。


 でもレイラ様とシルに勧められた手前、断るのも失礼よね。一個くらいなら大丈夫だろう。


「はい、いただきます」


 取り皿に取って、レイラ様が手渡してくださった。


 お礼を言って一個食べると、口の中に上品な甘さが広がる。舌の上でとろけるショコラを堪能していたら、じんわりと広がるリキュールの苦み。


 まさかこのショコラ、アルコール入りだったの……⁉


 慌ててティーカップに手を伸ばし、紅茶を飲んでアルコールの濃度を薄めようと試みる。


 しかしそれも無駄な抵抗だったようで、急速な眠気に襲われた私は、そこで意識を手放してしまった。






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