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43、まさかの救世主

 片付けを済ませて一階に降りると、アレクとジェフリーが隅のテーブル席で頭を悩ませていた。


「どれも悪くはないんだけど、インパクトに欠けるんだよな」

「まぁ、よくありそうなデザインですものね……」

「どうしたの?」


 私が声をかけると、アレクがテーブルの上に散らばるデザイン画を見せながら説明をしてくれた。


「実はフェリーチェをより印象付けるために、お店のロゴを作りたいと思ってるんだ。仕上がってきたデザインを確認してたんだけど、これだ! って思えるデザインがなくてさ……」


 テーブルに視線を移すと、様々なロゴが目に入る。デザインとしては、主に薬品瓶や薬草とかをイメージしてるものが多いようだ。


「あー……確かに、どこかで見たことあるようなデザインばかりね……主に薬屋とかで」

「でしょ? これじゃあただの薬屋だよ! 色んなデザイナーに頼んではみたんだけど、この有り様ってわけさ」


 そう言ってアレクは大きなため息をついた。


 まぁ、フレグランス専門店って言っても馴染みがないからイメージ伝わりにくいわよね。


 さっきの商会の方は、このデザイン画をアレクに持ってこられてたのね。


「お店の魅力が全然伝わらないですね。お姉様のお店ですもの。こんな平凡なものではなく、もっと華やかさと高貴さ、それに洗練された美しさがほしいです」


 デザイン画をじっと見ていたマリエッタが、容赦なく苦言を呈した。


「たとえばマリエッタなら、どんなデザインがいいと思う? ちなみにこのお店のコンセプトは、お客様へ『幸せ』を提供する場所になったらいいなって想いから、【フェリーチェ】って名前にしているの」

「幸せ……それでしたら、幸運を運ぶ白い鳥や天使などをモチーフにするのはどうでしょう? そこに幸せを象徴するお花などを添えてもいいかもですね」

「ジェフリー、紙と書くものはあるかしら?」

「はい、すぐにお持ちします!」


 ジェフリーはカウンターの裏から紙と筆記具を取ってきてくれた。


 受け取ったそれらを隣のテーブル席に置いて、私はマリエッタを手招きして椅子に座らせる。


「マリエッタ、よかったら描いてみてくれない? ここにあるものより、私は貴女のほうが良いデザインを作れると思うの」

「え……私が、ですか?」

「ヴィオ、いくらなんでも素人にデザインはさすがに……」


 戸惑うマリエッタを見て、アレクが止めに入ってくる。


「私は無理だと思うことを、お願いしないわ。マリエッタには、才能があるの」

「お姉様……わかりました、やってみます!」


 私のお願いにマリエッタは力強く頷くと、羽ペンを走らせてサラサラと白い紙に先ほどイメージしたものを描いていく。


 半信半疑といった様子で見守っていたアレクとジェフリーは、完成品を見て目を丸くする。 


「すごいな。これは驚いた……」

「とてもお洒落ですね!」


 思った通りだわ! やはりマリエッタには、素晴らしい絵の才能がある。


「いかがですか? お姉様……」

「とっても素敵なデザインだわ! この白い鳥も天使も、どちらも幸せの象徴って感じでお店にぴったりよ」

「さわりは問題なかったようですね。ではここからもう少しブラッシュアップしてみます!」

「……え? これで完成じゃなかったの?」

「いえ、ここからがスタートですよ」


 私達が完成品だと思っていたデザインは、どうやらマリエッタにとってはまだ未完成品だったらしい。


 デザイナーに頼むより、マリエッタに描いてもらうほうが断然いいものが出来る。


 みんなもそう思ってくれたようで、満場一致でロゴのデザインはマリエッタにお願いすることが決定した。



 嬉しい誤算としては、それからロゴデザインのことで一緒にフェリーチェに顔を出すうちに、出入りする商会の人たちとのやり取りを見て、みんなに慕われるアレクが悪い噂とは違うってマリエッタが気づいてくれたこと。


 そのおかげで以前のように、二人があからさまに敵対することもなくなった。


 すごいと思ったものは素直に認めて褒める。そうして人の才能を伸ばしてあげるのがアレクは得意だから、人脈を広げるのがうまい。


『その才能、磨けばもっと光るはずさ! よかったらデザインの勉強をしてみないかい?』


 そう言ってアレクは、参考になりそうな本をマリエッタに持ってきてくれた。


 勉強が苦手なマリエッタだけど、好きなことに関しては別みたいで、楽しそうに本で得た知識を実行に移していた。


 以前は恥ずかしがっていたけれど、今では描いた絵を堂々と見せてくれるようになった。


 マリエッタはこれまで、自己満足で色々と絵を描いていた。

 だからそうして自分の描いたものが他の人に受け入れられるとは、思っていなかったらしい。


 目標が出来て自信もついたおかげか、マリエッタは明るくなって、以前の元気を取り戻してくれたように感じる。


 そうしてマリエッタがこだわり抜いて作ってくれたロゴのデザインは、香水に祝福を与える天使をイメージしたとてもお洒落なもの。


 お店に込めた想いと、フレグランス専門店を印象付ける見事なロゴに、みんなも大絶賛していた。


 看板や名刺、買い物袋にもロゴが刻まれ、フレグランス専門店【フェリーチェ】を美しく彩ってくれている。

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