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42、香り作り体験

「新しい商品のラインナップに一つ追加したいものがあって、これがその調合レシピよ」


 誓約封筒を渡すと、エルマは嬉しそうにそれを受け取った。


「わー! ヴィオラ様の新作! どんな香りがするか楽しみです! あとでジェフリーと一緒に確認しますね」

「材料については手配してもらっているから、届いたらお願いね」

「お任せください!」

「よかったら香水を作ってるところを見学したいんだけど、お願いできるかしら?」

「はい、もちろんです!」


 誓約封筒を鍵付きの引き出しにしまったあと、てきぱきと必要な精油と道具を準備してテーブルに集めたエルマは、早速香水作りに取り掛かる。


 私はマリエッタと一緒に、その様子を見学させてもらった。


「あれは何を入れているのですか?」


 無色透明の液体が入ったビーカーに、別の液体を数滴垂らすエルマを見て、マリエッタが不思議そうに尋ねてくる。


「無水エタノールに香りのもとになる精油を入れてるのよ。精油単体だとすぐに蒸発してしまうから、油分に溶かして蒸発する時間を遅くするの。そうすれば、香りが長続きするようになるのよ」


 なるべく難しい言葉を使わないように、私はエルマの作業の説明をしてあげた。


 少量の精製水で薄めたあと、エルマはそれを香水瓶に移して蓋をする。


「完成です!」


 あっという間に完成した香水を見て、マリエッタは驚きを隠せないようだ。


「え、もう出来たんですか⁉」

「あれは商品で、あらかじめ決められた調合レシピ通りに作ってるからすぐ出来るのよ」

「ああ、なるほど! お姉様が作ったレシピ通りに作っているというわけですね」

「でもね、マリエッタ。調香の一番楽しいところは、香りを作っている時なの。よかったらやってみない?」

「……私がですか⁉」


 驚くマリエッタの手を引いて、私は目的の場所へ移動する。


「エルマ、少し実験室を借りてもいいかしら?」

「はい、もちろんです!」


 フェリーチェの二階には商品を作る作業場とは別に、香りの調合の研究が出来る部屋が別途作られている。


 元々は休憩時間や休みの日なんかに、エルマとジェフリーが調香の勉強が出来るようにと作られた、通称『実験室』だ。


「難しく考える必要はないわ。自分の好きな香りを組み合わせるだけでいいの。そうすれば世界に一つしかない、マリエッタだけの香水が完成するわ」

「世界に一つ、私だけの香水……! お姉様、やってみたいです!」


 特別感のあるものに、マリエッタは弱い。

 案の定、私の言葉はマリエッタに響いたようだ。


「じゃあまずは、主軸となる香りを決めましょう。これはマリエッタが一番好きな香りがいいと思うわ」


 棚にある精油の説明をしながら実際に香りを確認しつつ、選んでもらった。


「……! この香り、なんだかとても懐かしいです」


 マリエッタが手にしているのは、春の花【ミモザ】の精油だった。心を落ち着かせて安心感を与えてくれる、爽やかで優しい甘い香りが特徴だ。


 そういえば、ミモザは王立アカデミーにも植えられていた。

 運動部の部室棟、特に騎士部の部室の近くに大きなミモザの木があったわね。

 春になると可愛い黄色い花を咲かせて綺麗だった。


 マリエッタは騎士部によくお手伝いに行ってたみたいだし、リシャールとの記憶は思い出せなくても、楽しい経験をした香りの印象は残っているのかもしれないわね。


 それからマリエッタと一緒に、ミモザに合う香りの組み合わせを色々試した。


 試香紙に精油をたらして香りを確認して、あれでもない、これでもないと、悩みに悩み抜くこと約一時間、ようやく世界に一つだけのマリエッタの香水が完成した。


「お姉様、いかがですか?」

「爽やかで優しくて、とてもいい香りだわ」


 出来上がった香水を嗅いで、私は確信した。

 やはりマリエッタは、無意識のうちにリシャールを彷彿とさせる香水を作っていたんじゃないかって。


 マリエッタが自分用に作る香水としては、あまりにも爽やかすぎるわ!


 昔はもっと甘くてフルーティな香りが好きだったわよね?


 この安心感を与えてくれて爽やかな中で、ほのかな甘みを感じる香りって、まるでリシャールに包まれたマリエッタの香りみたいなイメージだわ。


 色々聞きたいことはあったけど、無理に聞き出しては負担になってしまう。私はあえて質問を一つに絞った。


「ねぇ、マリエッタ。この香水、自分で付ける……のよね?」

「はい、そのつもりです!」


 嗅覚は思い出と密接に結びついている。

 この香りに包まれて、いつかリシャールのこと、思い出せるといいわね。


「お姉様! 大変だったけど、調香って楽しいですね!」

「……そうでしょ! 自分だけの香りをアレンジできるの、夢が広がるでしょ! 毎日やったって飽きないわ!」

「さ、さすがに毎日はちょっと……た、たまになら!」

「ふふ、やりたくなったらいつでも私の温室にいらっしゃい。歓迎するわ」

「はい、ありがとうございます!」

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