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4、婚約解消祝勝会?

 城下で美味しいと話題のカフェレストラン『ルチェ・アース』のVIP席に、私は来ていた。


「ようこそ、第三回婚約解消祝勝会へ!」


 ここはアレクの経営する飲食店の一つで、私達が秘密裏に会うときの密会場でもある。


「今日はヴィオのために、当店自慢のスペシャルコースを用意してるよ。最後まで楽しんでいってね」

「それは楽しみね。ここの料理はとても美味しいから」

「そうでしょ、そうでしょ! もっと誉めてくれていいんだよ?」

「嫌よ、あんまり誉めると調子に乗るから」

「いいじゃない。ここには僕達しかいないんだし! ヴィオのけちー」

「そんな事言ってると、これあげないわよ?」


 アレク専用にブレンドした香水を、テーブルに置いてみせる。


「ごめん、僕が悪かった。君はスメルの女神だ! 略してスメミ!」


 やっぱりあげるのやめようかしら?

 香水を引っ込めようとすると、その手をがっしりと掴まれる。


「いや違う! 気高きフレグランスの調香師ヴィオラ様だった! あーヴィオラ様、どうか私めに貴方様の誉れ高きフレグランスをお与え下さい」

「しょうがないわね、はいどうぞ」

「ありがたき幸せ! 一生の家宝として飾っておきます!」

「いやいや、使ってよ。蒸発してなくなるわよ?」

「それはもったいない! このアレクシス・レクナード、最後の一滴まで無駄にせず使いきると約束致します!」

「もう本当におおげさね」

「ヴィオ。君は自分の作る商品の素晴らしさをもう少し理解するべきだ。公に君と交流出来たなら、僕はこれを社交界で流行らせて一大ムーブメントを起こす自信がある」


 アレクにそう言われると、何だか本当にそう出来ちゃいそうな錯覚に陥るのが怖いわね。


 国をまとめるのは兄上に任せたーと、早々に王位継承権を放棄したアレクは、第二王子として公務をこなす一方で、経営者としての顔も持っている。


 社会勉強だよーと言って、自分で立ち上げた商会を持っており、今やそれらは大商会と呼ばれるほどに成長した。


 僕の力じゃないよ、周りの人に助けられているだけだからと、決して傲らない姿勢は多くの人に称賛され、王族と市民を繋ぐ架け橋として絶大な支持をされ人気を誇っている。


 たまに忘れそうになるけど、アレクって本当はすごい人なのよね。そんな人に私の作ったものを認めてもらえただけで嬉しいけれど、少し過大評価しすぎよね。身内びいきかしら?


「素人がただの趣味の延長線で作ったものよ。アレクったら本当におおげさなんだから!」

「それくらい、人を引き付ける魅力を持った商品だということだよ。ヴィオ、君は知ってるかい? 今、王国騎士団で人気になっているフレグランスの女神の事を」

「フレグランスの女神?」

「先日、新人騎士達の選抜試合があったんだ。その時、疲れはてた新人騎士達に、団長がどんな疲れも一瞬で吹き飛ぶ魔法のミストをあたりに吹き掛けたそうだ」


 団長っていうのはお父様のことよね。魔法のミストっていうのは、もしかしてこの間私が差し上げたもの、かしら?


「すると、くたくたに疲れはてていた新人騎士達が嘘みたいに元気になったらしい。彼等は言った『極上の香りが楽園へ誘ってくれた』と。彼等は団長に詰め寄った、『それをどこで入手されたのですか?』と。団長は答えた。『これはフレグランスの女神が私のために作ってくれたものだ』と」


 お父様ー!

 なに誤解を招くようなことをなさっているのですか!


 でもリーフの祝福の効果がついているから、あながち間違いでもないのかもしれない。精霊の加護が宿ったアイテムの効果は抜群に良いし。


「フレグランスの女神って、間違いなくヴィオの事だよね? 僕は悔しいよ! 最初に君の香水の素晴らしさに気付いたのは僕だ! だから僕の手で、この商品の素晴らしさを世に伝えてあげたかったのにっ!」

「アレク、とりあえず落ち着いて。貴方が私の作った香水を、とても気に入ってくれているのはよく分かったから」

「市販されている香水は、どれも臭すぎて正直使えたものじゃない。社交場なんて酷いものだろう? ドギツイ匂いがひしめき合って、鼻が折れ曲がりそうだよ」

「そうね、それは私も思ってたわ。だから、自分好みの香りを作ってるし」

「ヴィオが作ってくれた香水を使った時、僕は正直感動で震えたのを今でもよく覚えてるよ。柔らかで繊細で優しい香りが長続きする上に、時間で香りに変化がでるなんて思いもしなかった」

「私の作った香水は精油の揮発性を考慮して、長持ちするようにブレンドしてるからね」


 ただ精油をブレンドしてもそれぞれの香りが邪魔をしあってまとまりのないものになってしまう。そこで重要なのが、精油の揮発性だ。同じようにブレンドしても、揮発性の高いもの、中くらいのもの、低いものを混ぜることで、香りの時間を層のように幅を持たせる事ができる。

 最初に香るのは揮発性の高いトップノート。つけてから5~10分香りが持続し、香水を印象づける香りとなるけど長くは続かない。

 中核を担うのがミドルノート。つけてから30分~2時間ほど香りが持続する。調和した落ち着いた香りとなり、人前に出る時などはこの時がちょうどいいわね。

 最後に香るのがベースノート。つけてから2時間後以降、残り香として余韻を楽しむことができる。全体を調和させてほのかに香る縁の下の力持ちってとこかしら。


 市販されている香水は、ブレンドされておらず一つの香りだけのものが多い。しかもあまり薄められておらず、原液に近い。そのため香りがすごく濃いけれど、蒸発しやすいからすぐ匂いも飛んでしまう。だからお洒落に敏感なご婦人や令嬢達は、お化粧直しの度に香水をつけ直していた。


「ヴィオ、このままでは皆の鼻はどんどん馬鹿になって正しく機能しなくなってしまう。それに、流行に乗るために無理して香水をつけて気分を悪くしている者もいると聞く。だからこのヴィオが作った香水を社交界で流行らせて、世界を変えよう! 皆の健康のために!」


 どうしよう、とてもじゃないが嫌だって言える雰囲気じゃないわ。いつも軽いノリのアレクが、じつに真剣そのものだ。でも流行らせるなんて、そんな簡単に出来る事じゃないけれど、アレクになら出来てしまうのかもしれない。


「具体的にどうするつもりなの?」

「そうだね、ヴィオ。女性ものの香水をいくつか用意してもらえないかな? 出来たらそれをまた僕に欲しいんだ」

「それは構わないけど、アレクにもやっと春がきそうなのね!」

「え……」

「だってプレゼントしたい女性がいるって事でしょ? もう隠さなくていいわよ! 最初から素直に言ってくれればよかったのに!」


 皆の健康のため! なんてそんな大義名分なくったって、友人の頼みならいくつだって香水くらい作ってあげるのに。アレクったら案外水くさいのね。


「ちょっと、ヴィオ……何を勘違いして……」

「安心して、私が腕によりをかけて女性の心を射止める香水を作ってあげるから!」

「あ、う、うん。それは非常に助かるんだけど……」

「ほら、折角の料理が冷めちゃ勿体ないわ! はやく食べましょう!」


 アレクが何か言いたそうにしてたけど、私はわざと話題を変えた。

 今までアレクに浮いた話なんてなかったけど、いい相手が出来たとなればこうやって一緒に食事を楽しむのも最後になるのかな。寂しいけど、それも仕方ないな。気持ちを切り替えて今を楽しもう!


 美味しい料理に舌鼓を打って、第三回婚約解消祝勝会は幕を閉じた。

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