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38、完成した香水

 マリエッタにヒントをもらってから調香に明け暮れること一週間、ついにブルースターの香水が完成した。


 ブルースターの精油は、揮発性が比較的ゆっくりのミドルノート。付けてから三十分後に、気品のあるフローラルな香りを長く楽しめる、中核となる香りだ。


 この香りを自然により引き立てる組み合わせを考えるのに、精油のストックと試香紙をかなり使い果たしてしまった。また補充しないといけないわね。


 それよりも今は、忘れないうちにレシピを書き起こしておこう。


 配合の割合を記したメモ帳を見ながら、ブルースターの香水の調合レシピを丁寧に書く。終わったところでチェストから魔法の誓約封筒と蝋燭、刻印に使う特殊なシーリングスタンプを取り出した。


 普通の人がこれを見てもなんのことかわからないと思うけど、アレクに言われたのよね。


 私の作った調香アイテムのレシピは門外不出だから、絶対に人目がつかないように保管してねって。ご丁寧に特定の人しか開けない魔法の誓約レターセットまで置いていったし。


 レシピを誓約封筒に入れて、封をするように蝋を垂らす。シーリングスタンプを押すと誓約印が浮かび、吸い込まれるように消えた。


 今度お店の内装を確認しに行く時に、エルマたちに渡そう。


「この香りが、お兄様に届くといいわね……」


 お店の商品として売り出す香水は、女性用と男性用で香りや入れ物を分かりやすくしている。


 でもこの香水に関しては、男女どちらが付けても違和感がないように香りを調整して仕上げ、香水瓶もシンプルなものにしている。


 男女兼用の香水が、正直受け入れられるかわからない。


 でも多くの人にお母様の好きだったブルースターの素敵な香りを知ってもらうには、この方法が一番いいと思った。


 それに開店まであと三ヶ月しかない。現実的な問題として、男女別で二種類作るほど、商品に必要な精油の調達が厳しいのが現状だった。


 商品としてよく使う精油に関しては、あらかじめアレクの経営するノーブル大商会で仕入れてもらっている。花農家と直接契約して生花を仕入れ、それを精油に加工してもらっているのよね。


 空調を整えた施設で今から花を育てたとしても、春の花であるブルースターを大量に仕入れるのは、正直難しいだろう。


 その時ふと目についた時計が、昼の二時を指していることに気づく。


 封をした誓約封筒をチェストにしまった私は、慌てて温室に移動した。


 今日も来てくれるかしら? 数日前からマリエッタが絵を描きに来てくれるようになったのよね。


「お姉様、あの……今日も……」


 スケッチブックを両手で抱きしめ、白い息を吐き

がら温室にやって来たマリエッタは、そう言ってこちらを不安そうに見つめている。


 空調を保持する魔道具で温室内は温度を均一に保っているとはいえ、一度寒い庭に出なければここへは来れない。


「いらっしゃい、マリエッタ。遠慮せずに座って」

「はい! ありがとうございます」


 私が椅子を引いて座るように促すと、マリエッタは明るい笑みを浮かべて腰を掛けた。


「寒かったらこのブランケット使ってね。温度上げても大丈夫だから、寒かったら遠慮なく言うのよ? それから温かい飲み物を……」

「ふふ、お姉様。もう寒さは大丈夫ですよ。いただいた温感スプレーのおかげで、外に出ても平気です!」


 どうも心配しすぎたようで、マリエッタはそう言っておかしそうに笑っている。


「でもね、万一ってことがあるじゃない?」

「もう十分、備えてくださってますよ。私付きの侍女がみんな温感スプレーを携帯するよう手配してくださったの、お姉様ですよね?」

「ええ、すぐに使えるように、腰にぶら下げるポーチとセットでみんなに持たせたの。移動の時は、絶対に誰かについてきてもらうのよ?」

「はい。ここに来る時も、きちんと侍女のアリーが付き添ってくれました」

「それならよかったわ」


 その時、リーフが寝床として使っているバスケットの中から「んー」と伸びをする声が聞こえた。


 どうやら賑やかな私たちの声を聞いて、お昼寝をしていたリーフが目を覚ましたらしい。


「おはよう、リーフ。今日はよく寝てたわね」

「ウンディーネに、魔法の扱い方のコツを教わったんだ。それで練習してたら疲れちゃって」


 ふわーと大きな欠伸をしたリーフは視界の先にマリエッタを捉えると、「今日は何を描くのー?」とバスケットから飛んで移動し、興味深そうにマリエッタの持ってきたスケッチブックの隣に腰を下ろした。


「今日はあのお花を描こうと思って」

「ヒメユリ! 白いのはウンディーネが好きなやつだよ」

「そうだったわね。昔、リシャールが集めてて、どこで手に入るのか教えてほしいって聞かれたことがあったわ」

「リシャール様が、このお花を……?」

「ええ。あの時はなんで必要なのか知らなかったけど、ウンディーネ様に献上するためだったみたいね。ログワーツで大規模な精霊暴走事件があって……」


 はっ、しまった!


 慌てて口をつぐむと、マリエッタが核心を突く質問を投げかけてくる。


「私はその影響で、記憶を失っているのですか?」

「まぁ……端的に言えば、そうなるわね……」


 今の状態のマリエッタに、ログワーツのマイナスイメージを与えるのはよくない。そう思ってなるべく話さないようにしてたのに……。


「そ、そうだマリエッタ! 貴女のおかげで理想の香水が完成したのよ! お店のラインナップに増やす予定なんだけど、よかったら試してみない? 取ってくるわ!」


 逃げるように調香部屋に香水を取りに来たけど、どう見ても不自然だったわね。


 折角リシャールに返事の手紙を書いてくれるようになったのに。


 気持ちを落ち着けて温室に戻ろうとすると、話し声が聞こえてきて思わず足を止める。耳をそばだてると、会話が聞こえてきた。


「ごきげんよう、マリエッタ嬢。あれ、ヴィオは居ないの?」

「お姉様は調香部屋です。理想の香水ができたから見せてくださるそうで……」

「ついに完成したんだね! どんな香りか楽しみだな!」

「……どうして殿下は、私のお姉様と婚約されたのですか?」




【お詫び】

本来なら本日が書籍1巻の発売日でしたが、製造の都合により、2月14日(金)に発売が延期となりました。


詳しくは活動報告に記載しておりますので、ご覧いただけると幸いです。


発売を心待ちにされていた皆さまには、大変ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。


どうかあと1週間、お待ちいただけると幸いです。

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