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34、朗報

「ヴィオに一番に見てほしくて」


 そう言ってアレクが懐から取り出したのは、一通の書状。


 中を改めるとそこには出店許可証と書かれており、フェリーチェの店名が刻まれていた。


「ついに許可が下りたのね!」

「そうなんだ! 団長がヴィオの作ったものを魔法のアイテムだって広めちゃったから、許可を取るのに中々苦戦してたみたいで。これでようやく、開店できるよ」

「魔道具を扱う店と同じ扱いになるってこと?」

「そうそう。どんな魔法効果があるかを、明確にしないといけないんだ。売り出す香水については、魔法効果はないって何度説明しても信じてもらえなくてさ。結局、ヴィオが作ったものとそうではないものの売場をきっちり分けることで、なんとか話がついたんだ」


 違法な闇魔道具の販売が禁止されているレクナード王国では、魔法関連のアイテムの販売には厳正な審査の上で販売にも許可がいる。


 まさかリーフの祝福がそれに引っかかってしまうなんて、完全に盲点だったわ。


「でも最後にサンプルとして出したものに、リーフの祝福はかかっていないわ。それなのに、魔法アイテム扱いになるの?」

「それがさ、ヴィオが作ったものとエルマとジェフリーが作ってくれたものだと、その効果が目に見えて違ったんだ」

「香水の調合は全て同じレシピで作ってもらっているはずよ。そんなことがあるの?」

「おそらく、リーフとの契約が関係あるんじゃないかな。僕もジンと契約してから、以前より風との親和性が高まったし。【役割】の記憶を継承して、リーフの力は以前より強くなってると思うんだ」

「つまりリーフのおかげで植物との親和性が高くなったから、私の作ったアイテムだけ効果が高いってこと?」

「そうとしか説明つかないんだよね」


 リーフの祝福魔法は、素材の持つ本来の力を高めてくれるもの。


 進化してリーフの力が強くなったことによって、私にもその恩恵が得られていたのね。全然気付かなかったわ。


「それで開店時期なんだけど、三月はどうかな? 四月には王都でデビュタントや議会も開かれて地方から貴族も集まるし」


 フェリーチェは王都の東、静養地として親しまれるシエルローゼンに開店予定だ。


 王都観光のついでに足を伸ばしやすい地区にあり、王都に貴族が集まる時期に合わせて開店するのは一理ある。


「三月に開店してまずは中央貴族に評判を広めてもらって、四月には地方貴族まで取り込もうって考えね?」

「さすがはヴィオ! 話が早くて助かるよ。内装について確認してほしいから、今度お店に行こう」

「ええ、わかったわ」


 開店までおよそ四ヶ月、趣味で作っていたものでまさかお店を開くことになるなんて、人生何が起こるかわからないわね。


 感慨にふけっていたら、やけに前方から視線を感じた。


「えーっと、顔に穴が開きそうなんだけど、他にも何かあるの?」

「ヴィオ……ろくに休まず、何を熱心に作ってるの?」


 お店のラインナップはもう決まってたよね? 誰のために……と呟きながら、アレクは不安そうに瞳を揺らしている。


「お兄様と仲直りしたくて、プレゼントを作ってたのよ。お父様が仰ってたんだけど、今年は領地からお兄様を呼んで、議会のあとに開かれる晩餐会で皆に正式に紹介するらしいわ」

「レイモンド卿が王都に……そうだったんだね……」

「何を作ったらいいのか悩んでたのよ。マリエッタの結婚式でもまともに話せなかったし……そもそも作っても受け取ってくださらないわよね。私、嫌われてるじゃない? 正直会ってくださるかも怪しいわ……」


 マリエッタの結婚式で王都に来られた際も、お兄様はヒルシュタイン公爵邸に一度も顔を出されなかったし。


 重い溜息をつく私に、アレクが慰めるように優しく声をかけてくれた。


「難しく考える必要ないよ。ヴィオの香水は唯一無二のもの。世に広まればレイモンド卿は必ず興味を持つはずさ。いやむしろ、持たざるを得ない。だって君とコネクションを持ちたい者は間違いなく、レイモンド卿に接触するはずだからね」

「それって逆にお兄様を逆撫でしてしまうんじゃ……」

「社交場でわざわざ不仲だって自分の弱点になるようなことを、普通はしないと思うよ。だからヴィオはレイモンド卿の興味をより引き立てる、特別な香りを作ればいいんだ。そうすればきっと、欲しくなって向こうから会いに来るはずさ」

「お兄様が、お店に……⁉」


 こちらから会いにいくんじゃなくて、まさかお兄様を逆に誘い込もうとするなんて。正直私には考えもつかなかった。


 お兄様の興味を引き立てる特別な香り……そう考えた時に真っ先に思い浮かんだのは、お母様から優しく香っていた気品を感じる清らかで甘い香りだった。


 お母様は昔、乾燥させたブルースターを香袋に入れて持ち歩かれていた。その香りをお兄様もとてもいい香りだと褒めていたのよね。


 その香りを再現した香水を作れば、お兄様は興味を持ってくださるかもしれない。


 まぁ、こんなものを作るなとお店に怒鳴り込んでこられる確率が高い気もする。


 それでもまずはもう一度向き合って、今度はきちんとお話がしたい。そうしてお兄様のことを知った上で、何か喜んでいただけるものを贈りたいと思った。


「何かいい考えが浮かんだようだね」

「ええ。アレクのおかげよ、ありがとう。よかったらラインナップにもう一つ、商品を追加してもいいかしら?」

「もちろんだよ! そうだ、ヴィオ。リーフに渡したいものがあるんだけど……」


 アレクとそんな話をしていたら、庭園の奥の方から「いーやーだー!」と叫ぶリーフの声が聞こえてきた。


 ああ、今日も始まったのね……。

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