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24、精霊獣で空の旅

 あれから三日が経って、今日はログワーツ領の視察に同行させてもらう日がやって来た。


 マリエッタへのお土産の準備はばっちりしたし、旅支度も整えた。


 鏡に映る自身の姿を見ながら身支度もそろそろ終わるだろうと予測していたら、「完成しました!」とミリアが嬉しそうに報告してくれた。


「ありがとう、ミリア」

「ヴィオラお嬢様、まるで百戦錬磨の騎士様のように格好いいです!」


 白地に金の刺繍が施された騎士服に、黒のロングブーツを履き、邪魔にならないよう長い髪は結い上げられている。


 上から黒い外套を羽織れば本当に女騎士のようだ。自然と背筋が伸びて身が引き締まる思いがした。


「大袈裟ね、見た目だけよ」


 そもそも帯剣してないからね。


 アレクの視察に付いてログワーツ領に行くと言ったら、動きやすく安全性に優れているからとお父様が用意してくださった女性用騎士服。


 特別な魔法糸で縫われて作られたこの騎士服は、耐火性、耐水性などあらゆる耐久面に優れているらしい。その上から防寒に優れた外套を羽織れば、ログワーツ領の寒さにも耐えれるそうだ。


 正直今は外套まで羽織ると暑いわね……でも荷物が増えるから我慢しよう。


 外套の内ポケットが便利で色々詰めちゃったし。寒いのは嫌だから温感スプレーも量産して、念のために傷薬なんかも忍ばせている。


 それに今回の視察は陸路ではなくて、空路を飛んで行く事になるだろう。上空は風を受けて寒いだろうし、ちょうどいいはず。


「ミリア、リーフの事頼んだわね」

「はい、お任せください!」


 出発する前にリーフの様子を確認したけれど、相変わらずスヤスヤと眠ったままだ。

 返事がないのは分かってるけど、優しく頭を撫でながら話しかける。


「行ってくるわね、リーフ。ウンディーネ様を見つけて、貴方の大切な記憶をいただいてくるわ」


 思い返せば庭園でも温室でも、私以外の人が居る時リーフは警戒して滅多に姿を現さなかった。外で怖い思いをして警戒心が強いせいだと思っていたけど、愛情に飢えていたのかもしれない。


 精霊は本来、モチーフとなった核の記憶を持って生まれてくるらしい。それが全く無いリーフはとても心細かったはずだ。


 私にだけは心を開いてくれていたけど、それは一種の刷り込み効果みたいなものだったのかもしれない。


 愛の記憶を思い出せば、自分はたくさんの人々に愛されて必要とされていたんだってきっと自信がつくだろう。


 世界樹は昔から神聖な木として大事に奉られてきた。自然を司る大精霊ユグドラシル様の核となる存在だというのは、子供でも知っている有名な話だしね。


 世界樹の大部分が炎上してしまってからというもの、多くの人々が何とか再生させようと研究し尽力しているって、歴史の授業で習った。


 皆がこの子を、自然を司る大精霊ユグドラシル様の復活を待ち望んでいる。


 全ての記憶を継承したら、今までのように傍に居ることは難しくなるだろう。自然を司る大精霊様を、人間との契約などに縛らせておくわけにはいかないだろうし。


 寂しくなるわね……感傷に浸っていると、外からノックの音が聞こえた。


「お嬢様、アレクシス殿下がお越しになりました」

「分かった、今行くわ」


 呼びに来た執事に返事をして、ミリアに声をかける。


「後の事は頼んだわ」

「はい、勿論です! ヴィオラお嬢様。どうかお気をつけていってらっしゃいませ」

「ええ、行ってくるわ」


 執事が荷物を運んでくれて、共にエントランスを抜けて外に出ると、「キュキュ!」っと元気に鳴く精霊獣の声がした。


「おはよう、アレク。迎えに来てくれてありがとう」

「おはよう、ヴィオ。それくらいどうってこと……」


 こちらを見て、アレクは何故か目を見張り途中で言葉を失った。


「私の顔、なにか付いてる?」

「いや、流石は炎帝のご息女。騎士服もよく似合うなって見惚れてただけだよ」


 今のヴィオ、格好いい! と褒められ、恥ずかしくて調子が狂うわね。


「う、動きやすくて安全性も高いからって、お父様が準備してくださったのよ! だってほら、空から行くんでしょ?」


 アレクの隣でふさふさの尻尾をフリフリしながら「キュキュルー」と鳴いている聖霊獣。艶のある橙色(だいだいいろ)の毛並みをした獅子のように荘厳な見た目と違って、随分と可愛い声で鳴くのね。


「うん。ログワーツ領は遠いし、雪が積もってて途中で馬車は使えなくなるからね」


 お父様が聖霊獣に乗って空を飛ぶ姿を見て、密かに憧れていたのよね。


 精霊獣の扱いは、意志疎通を図るのに高度な魔力操作が要求される。普通は王国騎士の中でも、訓練を積んだ一部の精霊騎士と呼ばれるエリートにしか乗れないもの。


「キュキュ」


 スリスリと精霊獣がアレクに頭を押し付ける。


「ははっ、くすぐったいよ。ラオ」


 アレクはよしよしとラオの頭を撫でる。

 もふもふのたてがみが気持ち良さそうね。頭を撫でられて嬉しそうに目を細める姿は、まるで大きな猫みたいだわ。


 お父様の精霊獣グリフォンは、厳格に命令をきいて規律を守り大人しく待機してる。誘惑しても決してなびかないのよね。


 それは他の精霊騎士達の精霊獣も一緒で、ラオ以外の精霊獣達は微動だにせず待機している。類は友を呼ぶってやつかしら。


「精霊獣がそんなに甘えている姿、初めて見たわ」

「ラオは僕の相棒だからね。お忍びで出かける時にもよく……いや、何でもない!」

「なるほど、ラオに乗って城を抜け出していたのね」

「いやーそんなことは……」


 めちゃくちゃ目が泳いでるわよ。


「さ、さぁ! そろそろ行こうか! 部下達も首を長くして待ってるし!」


 誤魔化したわね。


 任務以外での精霊獣の私用は禁止されているってお父様が言っていたけど、追求したらもっと色々ボロが出てくるんでしょうね。昔からアレクは抜け道を探すのが上手だったし。


「そうね、行きましょう」

「ラオ、乗りやすいように少し屈んでくれるかい?」

「キュキュ!」


 アレクの言葉を聞いて、ラオは伏せの体勢を取った。


「おいで、ヴィオ。(あぶみ)に足をかけて上に登れるかい?」

「やってみるわ」


 アレクが手を貸してくれて、補助されながら何とかラオの背中にまたがった。その際、ふわふわで絹のようになめらかなたてがみが手に触れた。


 なんて気持ちよさなの!


 触り心地抜群のたてがみを堪能していると、アレクが後ろに乗ってきた。


「それじゃ行こうか。しっかり掴まっててね」

「ええ、分かったわ」


 後ろから手綱を握る両手に閉じ込められ、密着した体。耳元で囁かれるアレクの声に、心臓がバクバクと激しく鳴るのを感じた。い、色んなものが近い!


 そんな事を考えていたら、アレクが精霊騎士達に合図を出しいざ空の旅へ。


 最初に聞こえたのは、力強く翼をはためかせて風を切る音。重力に逆らい浮く体に驚き、「ひっ!」と短い悲鳴を漏らしながら思わず目を閉じた。


「大丈夫。ゆっくり深呼吸して」


 アレクが咄嗟に後ろから私の腹部に片手を回して、優しく声をかけてくれた。

 恥ずかしさはいつの間にか安心へと変わり、言われた通りに深呼吸すること数回。揺れが収まってゆっくり目を開けると、視界には美しい街並みが広がっていた。


「わぁ……とても綺麗ね!」

「そっか、空を飛ぶの初めてだっけ?」

「精霊騎士にならないと、この絶景は拝めないじゃない」

「ジークフリード団長が乗せてくれたりとかは?」

「規律に厳しいお父様がすると思う?」

「あー確かにしなさそう。そっか、それなら初めてなんだね!」


 なんとなく、声色だけでアレクが喜んでるのが分かった。


「どうして嬉しそうなの?」


 そう尋ねながら、私は視界にとある男性を捉えてしまった。あ、あの方は!


「だって、ヴィオの初めてをもらったのが嬉し……」

「誤解! 誤解を招きそうな言葉は慎んで!」


 一緒に来ている精霊騎士の中に、お父様の右腕がいる!

 忠実な部下のリカルド卿が居る!


 騎士としての腕前はお父様が認めるほど確かな方だけど、寡黙であまり喋っておられる所を見た事がない。とにかく薄い影と反して、筆を持たせたらその右手は止まらない。


 口にされない分、紙にしたためられる思いの強さよ。お父様がお疲れ気味に書斎で報告書を読んでおられる時、大抵はリカルド卿からのぎっちりと詳細の書かれた報告書なのよ!


 今回の視察の詳細は間違いなく、お父様に筒抜けだと思った方がいいわね。


 まぁリカルド卿を視察の動向メンバーに選んでいただいたってことはそれだけ、お父様もマリエッタのことを心配されているのだろう。


 気を引き締めて、ログワーツ領へと向かった。

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