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20、世界樹の精霊ユグドラシル

 舞踏会で私の配った試供品は、社交界に新たな香り旋風を巻き起こしていた。


 中でもペアフレグランスの試供品を手に入れたイザベラ様が、婚約者のロズワルト様とそれを周囲に自慢しまくっているようで、社交界では私の作った香水の話で持ちきりだという噂をシルから聞いた。


 イザベラ、たまには役に立つじゃない!


 来月にはお店も開店予定で、香り改革の方は順調といってもいいだろう。その一方で――


「ヴィオ、また怖いおじさん来た!」

「リーフ、怖いおじさんじゃなくて風の上級精霊ジン様よ」


 なんとかリーフに慣れてもらおうと、私の温室にジン様が通っておられる。しかし中々リーフと仲良くなるのが難しいようで、リーフはジン様が来る度に身構えて私の後ろに隠れてしまう。


『リーフ様……』


 がっくりと項垂れるジン様に、アレクが笑いながら声をかける。


「ジン、僕いいもの持ってきたよ」


 じゃんと取り出したのは、ユニークな変装グッズだった。


「劇団の衣装とか小道具扱ってるお店に頼んで作ってもらったんだ」

『これを、我がつけるのか?』

「リーフと仲良くなりたいだろう? 子供と仲良くなるコツをついでに教えてあげるからさ」


 二人でコソコソと作戦会議し始めたアレクとジン様。しばらくして――


『私は英雄王イスタール。旅の疲れを癒せる場所を探しているのだが……』

「英雄王イスタール?! えっ、本物?!」


 瞳を輝かせてリーフが英雄王イスタールに扮したジン様の元へ飛んでいった。


 そういえば昔、英雄王イスタールの絵本をよく読んであげたわね。リーフが正義の味方とか、英雄とかに憧れるのはきっと絵本の影響ね。


「この剣を一振すれば、何でも裂けるの?」

『ああ、もちろん』

「見てみたい!」

『心得た』


 剣を振り上げたジン様に、アレクが「ちょっと、待って!」と止めには入るも時既に遅し。剣から風撃を放ったジン様は、目の前にあった花壇ごと無に帰した。


「ご、ごめん、ヴィオ! こんなつもりじゃ……!」

「……いけ。お前等全員ここから出ていけ! 暴れるなら外でやれ!」


 問答無用で三人を温室から追い出した。

 あぁ、折角愛情込めて育てたハーブ達が……!

 この子達は生命力が強いから、植え直せばなんとかなるかもしれないけど……痛かったわよね。ちぎれてしまったハーブ達の残骸を拾い集めていたら、窓からリーフが入ってきた。


「ごめんなさい、ヴィオ。僕が悪いの、英雄王イスタール様は悪くないの。直すから、綺麗に直すから許して……!」


 泣きながら地面に手をついたリーフは、魔力を送り元通りの綺麗な花壇へと再生させた。


 ……はっ?!

 全て綺麗に戻ってるわ、どういうこと?!


「リーフ、何をしたの?!」

「自然は皆、僕の一部。枯らすのも咲かせるのも、僕の仕事。世界を維持するために、見守るのが……僕の、し……ごと……」

「リーフ!?」


 その場に倒れてしまったリーフをすんでの所で受け止めた。落とさないように、その小さな体を両手で持ち上げる。


「リーフ、お願い! しっかりして! リーフ!」


 呼び掛けても、ぐったりと横たわったまま動かない。


『久々に本来の力を使われて、お疲れになられたのだろう。ヴィオラ殿、すまなかった』

「ごめん、ヴィオ」

「ジン様、リーフは無事なんですか?!」

『しばらく休めば、お目覚めになられるはずだ』


 いくら大切な花壇をめちゃくちゃにされたからって、大人気なかったわね。ごめんね、リーフ。


「ジン様、リーフの事について詳しく教えていただけますか?」

『承知した』





 まさかこの子が、自然の摂理を司る世界樹の大精霊ユグドラシル様の子供だったなんて……


 昼間にジン様から聞いた話が、途方もない架空のお話みたいで頭に入って来なかった私は、手帳に情報をまとめていた。


 リーフの核となるものは、数百年も昔に炎上して焼け落ちてしまった世界樹ユグドラシル。


 最後の力を振り絞って当時ユグドラシル様は、生み出した精霊卵と自身の記憶を四柱である上級精霊達に託した。


 火の上級精霊フェニックス

 水の上級精霊ウンディーネ

 風の上級精霊ジン

 土の上級精霊ベヒモス


 彼等はそれぞれ秩序、愛、役割、過去の記憶を預けられた。そして授かった精霊卵を大事に守っていたが、魔族に奪われてしまった。


 必死に探し回って見つけたのは、精霊卵の残骸だけだった。他の上位精霊はそれに絶望して任された地域で閉じ籠るようになった。


 しかしジン様だけは、その後も必死に行方を探し続けていたと。


 そして奇跡的に生き残ったリーフは、ヒルシュタイン家の庭園で行き倒れていたと。


 しかも私が怒って追い出したのを捨てられたと思って必死で、自身の持つ力で何とかしようとした結果がこれだ。ジン様の保管していた【役割】の記憶だけを自ら継承して、力の一部を使って無理をさせてしまった。


「ごめんね……」


 クッションの上で横たわるリーフに謝っても、返事はない。


 膨大な記憶を馴染ませるのに少し時間がかかるそうで、それが終われば自然と目を覚ますらしいけど……それから数日経ってもリーフは目を覚まさなかった。





 心配な日々を過ごす中で温室の花達に水やりをしていたら、アレクが予想外の人物を連れてやって来た。


「ごめん、ヴィオ。どうしても君に相談したいことがあるみたいで……」

「突然すまない。ヒルシュタイン公爵令嬢、どうしても君に頼みがあるのだ」


 第一王子のウィルフレッド様が、私の温室を訪ねてきた。


 ちょっとアレク!

 そういうのは事前に連絡してよ!

 私、汚れた作業着のままなんだけど!

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