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18、悪臭蔓延る舞踏会へ終止符を!①

 会場入口前の扉で「遅いぞ、アレクシス!」と話しかけてくる人影があった。どう見てもあれは、第一王子のウィルフレッド様ね。


 金色の前髪をきっちりと後ろに撫で付け、青地に銀の刺繍の施された礼服を一寸の狂いなく身に纏われている。


「悪いね、兄上。主役は最後に登場するものでしょ?」

「全くお前と言うやつは、いつもいつもギリギリに!」


 は、鼻がもげる!

 ちょっと待って、やっぱりウィルフレッド様、麝香(じゃこう)を薄めずに塗りたくってるじゃないの!


 隣では王太子妃のレイラ様が必死に扇子で口元を隠し、気を失いかけていらっしゃるし……


「別に遅れてはないし、大丈夫だよ」

「お前達が中々来ないから、入場をわざと遅らせておったのだ!」

「いやー出来た兄を持てて、僕は幸せ者だなー!」


 アレクはきっと、ウィルフレッド様を怒らせる天才に違いないわ。


 「ありがとう、兄上」と笑うアレクを見て、ウィルフレッド様の額に刻まれた皺の数が増えていってるもの。


「王家主催の行事で不手際があったらいけないからだ。別にお前のためじゃない!」

「またまたー、僕は知ってるよ。兄上が誰よりもこの舞踏会を楽しみにして開いてくれたか」


 その言葉に、ウィルフレッド様の耳が微かに赤みを帯びた。仲が悪い兄弟じゃないのよね。


「人前で軽々しく身内を誉めるな! 全くお前というやつは、王族としての威厳を持て!」


 ウィルフレッド様の厳しい言葉の半分くらいは照れ隠しでもありそうね。そんな二人の様子を観察していたら、ウィルフレッド様と目が合った。


「王国の若き太陽ウィルフレッド王太子殿下、王国の麗しき月光レイラ王太子妃殿下にご挨拶申し上げます」


 さっと淑女の礼をとって挨拶をする。


「ヒルシュタイン公爵令嬢か」

「申し訳ありません、王太子殿下。アレクシス殿下は私の緊張を和らげるために、ゆっくりと歩幅を合わせて歩いてくださいました。そのせいで到着が少し遅くなってしまったのです」


 隣でアレクが驚いた顔をしてこちらを見ている。余計なお世話だったかもしれないけれど、アレクが色々気遣った上で会場入りの時間を逆算しているのを、私は知っている。


 彼がいつも時間ギリギリを狙って会場入りするのは、自分の価値を必要以上に上げすぎないためなのよね。そしてウィルフレッド様を立てる意味もある。


 優秀な王太子と少し抜けてる第二王子。


 社交界でその関係性を壊さないためだって、私は知ってるのよ。ウィルフレッド様がアレクの真意に気付いておられるかは、関わりがないため正直よく分からない。でもせめて、貴方の弟は誰よりも優しくて気配りが出来る人なんだよって分かって欲しかった。


「ふむ、そうか。それなら仕方ないな」


 そしてウィルフレッド様は、女性に対しては紳士で有名だもの。男性に対しては厳しい面もあるけど、そんな彼を認めて慕い付いていく部下も多い。その上で女性人気も博しているから、王太子としての地位を磐石なものとされている。


「二人とも、改めて婚約おめでとう」

「ありがとうございます」

「ありがとう、兄上」


 お礼を言いつつ、ものすごく気になる事に触れてみた。


「ところで、王太子妃殿下の顔色が優れないようにお見受けするのですが、大丈夫でしょうか?」


 私の言葉で、ウィルフレッド様は隣のレイラ様に視線を落とされた。その横顔はとても心配そうに見える。


「レイラ、具合が悪いのか?」

「い、いえ……滅相も、ございません……公爵令嬢と一緒で、緊張しておりますだけですわ……」

「何も心配せずともよい。安心して俺にその身を委ねてくれ」

「お気遣いいただき、ありがとう……ございます……」


 ウィルフレッド様のレイラ様を見つめる優しい眼差しには愛情が見受けられるけど、逆は悪臭に遮断されて視線すら合わないわね。


 レイラ様は少しでもウィルフレッド様から距離をとりたかったのか、こちらに小走りでやって来て声をかけてくださった。


「二人とも、ご婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「姉上、ありがとうございます」


 レイラ様、今のうちに必死に息を吸っておられるわ……肩を激しく上下させる姿を見て、何だか気の毒になってきた。


「お二人から、とても良い香りがしますわ」

「流石は姉上、よく気付いてくれたね。この香りはヴィオが作ってくれた香水なんだ」

「まぁ、この素敵な香りをご自身で?! よかったら今度……」


 レイラ様が何かを仰りかけた時、「レイラ、そろそろ入場だ」とウィルフレッド様がお呼びになられた。


「かしこまりました」


 力なく返事されたレイラ様は、ウィルフレッド様にエスコートされて会場の中へ。


 パーソナルスペースを保っていても香る、強烈な匂いだ。隣を歩くレイラ様の気苦労は絶えなさそうねと、そんな二人の背中を眺めていたら、アレクがボソッと呟いた。


「ヴィオ、鼻は無事かい?」

「ええ、なんとか……アレク、今までよく耐えてきたわね」

「昔はそうでもなかったんだけどね。姉上が出来てからかな。あそこまで酷くなったのは」

「レイラ様、具合悪そうだったけど大丈夫かしら?」

「悲しい事に、それがいつもの事なんだ。離縁されやしないかと、こっちはヒヤヒヤしてるんだよ」


 王太子妃のレイラ様は確か、隣国のライデーン王国から嫁いでこられた王女様だったはず。


「もし愛想を尽かしてレイラ様が自国に戻られてしまったら、国際問題に繋がるわね……」

「そうなんだ。レクナード王国は隣国から、悪臭王国って呼ばれそうだよね」

「嫌よ、悪臭王国なんて!」

「大丈夫。こっそり後ろからジンを向かわせたから。根こそぎ除去する予定さ」


 根こそぎ除去?!

 一体何をするつもりなのよ……


 ウィルフレッド様達の入場が終わったようで、扉番に「準備が整いました」と声をかけられた。


 そうか、アレクと並んで入場するって事は、名前を呼び上げられながら注目されて会場入りするのね。

 今まで王族の入場をただ拍手しながら迎える立場だったから忘れてたわ。


「僕達も行こうか。ヴィオ、名前を呼ばれたら三秒だけ入場を待って」

「分かったわ」


 ホールの大扉が開かれる。眩い光を放つシャンデリアが会場を明るく照らし、盛大に私達の名が呼ばれた。


「アレクシス・レクナード第二王子殿下、ヴィオラ・ヒルシュタイン公爵令嬢のご入場です!」


 盛大な拍手に包まれる中、床から天井に向けて風が吹き抜けるのが見えた。

 会場の中に居る当人達は気付いてなさそうだけど、微かにふわりと広がるドレスの裾が一斉に揃っていて、こちらから見たら一目瞭然だった。


 これはもしや、アレクの策略では?


 風につられて視線を上げると、天井では何故か白いもやが発生。なんとシャンデリアの上に優雅に佇むフェンリル様が、口から冷気を放って空気を凍らせていた。


 なるほど、ジン様の風魔法で悪臭を上空へ飛ばして、フェンリル様の氷魔法で瞬時に凍らせたのね。そのおかげでいつもならどぎつい悪臭漂う会場が、清潔な空気で満たされている!


「これ、ウィルフレッド様にバレたらヤバいんじゃないの?」

「僕もシルも、しばらく謹慎くらうだろうね。ハハッ、天井高いし大丈夫だよ……たぶん」


 たぶんって言いながら目を泳がすのやめて!

 本当に危ない橋を渡るのが好きね!

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