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17、リーフの正体

「へ、変なこと言ってごめん!」


 動揺した様子でアレクは香水を付け始める。ふわりと漂ってきた香りに、何故か胸が激しく高鳴る。


 おかしい。

 これはおかしいわ。


 今回のペアフレグランスは『爽やかさ』に重きを置いた配合にしている。


 どちらかといえば甘さを抑えて清涼感のある爽やかな香調に仕上げている。しかも興奮させるより鎮静させる香りの配合なのよ!


 私のはグリーンライラックに、ピーチブロッサム、そしてホワイトシダーとホワイトムスクを調合。


 花本来の柔らかな香りを楽しむフローラルなテイストに残り香として清潔感のあるホワイトムスクが肌に残るように調合している。


 アレクのはオレンジ、ベルガモット、ライムのシトラス系をトップにして爽やかな印象を与えるように調合。


 ミドルにバイオレットリーフにローズマリーとジャスミンを加えることで香りに深みを出し、残り香としてシダーウッドとホワイトムスクを配合して清潔感を与えつつも温かみの残る香調にしている。


 山を連想させるフローラルな爽やかさと、海を連想させアクアティックな爽やかさ。それら二つを重ねることで、より洗練された爽やかさを感じられるはずなのに!


 ムードを盛り立てるようなセクシーな香りとは真逆なのに、何でこんなにドキドキするの……!


「ヴィオ?」


 心配そうに私を呼ぶその声さえ、色気を感じるなんて……まさか!?


「リーフ!」


 咄嗟に私はリーフを呼んだ。


「どうしたの?! 何かあったの?!」


 私の呼びかけに応じて、リーフが驚いた様子で姿を現した。


「祝福! この香水、何の祝福を与えてくれたの?」


 祝福? と首をかしげながら、状況を理解したらしいリーフは、にっこりと笑顔で答えてくれた。


「それはもちろん、大好きが長続きする祝福だよ! ヴィオ、アレクのこと大切だって教えてくれたじゃない」


 つまりこの香水には今、リーフの祝福効果で互いに媚薬のような効果が付いてるってこと!? 


「ねぇ、ヴィオ……リーフって世界樹の大精霊様だったの!?」

「世界樹の大精霊様……?」

『あぁ、ユグドラシル様! ずっと貴方様の事をお探し申し上げておりました』


 え、どういうこと!?

 リーフを見てアレクが大きく目を見張り、ジン様が頭を垂れている。


「四柱の上級精霊が行方を探し続けている大精霊様だよ! 世界樹の炎上事件後、大精霊ユグドラシル様の消息が絶たれてしまったって、歴史の授業で習ったでしょ?」


 ちょっと待って、色々情報過多すぎる。

 確かに歴史で習ったけども……リーフがユグドラシル様だなんて思うわけないでしょう、普通!


「ヴィオ、このおじさん怖い……」


 リーフはジン様を見てさっと私の後ろに隠れてしまった。


『おじ……!?』


 おじさんと言われた事に、ジン様はショックを受けられているようだ。


「アハハ! ジンの見た目はいかついもんね。これでもまだ風の上級精霊の役目を受け継いで三百年の若造らしいよ。お兄さんって事にしてあげて欲しいな」


 三百年でもすごい年上だと思うけど、精霊様達の中ではそうではないらしい。


「リーフ、貴方そんなにすごい精霊様だったの?」

「分からない。ヴィオに出会うまでの記憶が、僕にはないから……」

『どうかご安心ください。ユグドラシル様の全ての記憶は、我等四柱の上級精霊がそれぞれ預かり受け丁重に保管しております。継承すればすぐにでもこれまでの記憶を思い出されるはず……』

「そんなの要らない! 僕はずっとヴィオの傍に居る!」


 ジン様の言葉を遮ったリーフは、小さな体で私の腕にがしっとしがみついている。


「僕はリーフだもん! ヴィオがつけてくれた大事な名前があるもん! ユグドラシルなんて知らない! 過去の記憶なんて要らない!」


 突然自分が大精霊だなんて言われて、混乱するのも無理はない。私だって頭が追い付いてないんだもの。


 リーフは私が子供の時から共に過ごしてきた相棒でもあるし、家族のようなものだ。今優先すべきは……

 

「ジン様、詳しい事情は後でお聞きしてもよろしいでしょうか? 今はリーフも混乱しているようですし……」

『承知した。リーフ様、突然驚かせてしまい誠に申し訳ありませんでした』


 ジン様はそう言って姿を消した。リーフを刺激しないよう配慮してくださったのだろう。


「もう大丈夫よ、リーフ。ごめんね、私が呼んでしまったばかりに驚かせちゃったわね……」


 混乱していたからって悪いことをしてしまったわ。この子が外の世界を怖がっていたのは、私が誰よりも知っていたのに。


「ヴィオのせいじゃないよ! 僕がお願いしたことだし……傍に居てもいい? ヴィオが普段見てる世界を、僕も知りたい」

「分かったわ。アレク、一緒に連れていってもいいかしら?」

「勿論だよ」

「やった! ありがとう!」

「ところでリーフ、一つお願いが……」

「なーに?」

「出来れば祝福の効果を少しだけマイルドにしてもらえないかしら……」


 このままじゃ、恥ずかしすぎてダンスが踊れないわ!


 「僕の祝福、ダメだった?」とリーフが悲しそうな瞳で尋ねてくるから、私は慌てて否定した。


「だ、ダメじゃないわ! とても嬉しかったわ、ありがとう。でも今日はね、大切な目的があるの。祝福に頼らなくてもアレクの事は大切だから、ね?」


 「ヴィオ……!」って私の名前を呼びながら嬉しそうに破顔してるアレクを横目に、とりあえず今はリーフに訴えかける。今日のために皆で一生懸命準備したものが無駄になっては悲しいもの。


「目的?」

「今日はきっと、レクナード王国史に残る一夜になる。社交界に蔓延る悪臭を一掃するんだよ」

「しゃこうかいにはびこるあくしゅ?」


 難しい言葉にリーフは首をかしげる。


「……悪者をやっつけて綺麗な世界にするんだよ」

「正義のヒーロー!」

「そう! ヴィオの作ってくれたこの香水が、悪(臭)を倒すんだ。まさしく、正義のヒーローだね!」


 子供の扱い上手いわね、アレク……


「分かった! だったら、もっと相応しい祝福に変えるね!」

「え、いや、そんなことしなくていいのよ!?」

「この香水を付けたヴィオとアレクは、正義のヒーローでしょ? だから相応しい祝福あげる!」


 よく分からないけど、媚薬っぽい効果は切れたようね。


「あ、ありがとう。リーフ」

「えへへ、どういたしましてー!」


 一抹の不安は拭えないけれど、時間がない。私達はそのまま戦闘会場へと向かった。

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