13、ここって本当に孤児院?
「アレクシス様だ! 皆、アレクシス様が来てくれたぞ!」
馬車を降りるなり、子供達から熱烈な歓迎を受けたアレク。
「皆、久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「うん! とっても元気だよ!」
「僕も!」
「私も!」
「それならよかった。今日はね、皆に紹介したい人が居るんだ。ヴィオ、おいで」
アレクにエスコートしてもらって馬車を降りると、子供達のキラキラした眼差しに囲まれた。
「うわー、すっごく綺麗!」
「そうだろう? リック、君はよく分かっているね! この綺麗なお姉さんは、僕の婚約者なんだ」
「ヴィオラ・ヒルシュタインです。皆、よろしくね」
「俺、リックって言います!」
「私はニーナだよ!」
「僕は……」
子供達が次々に、自分の名前を教えてくれた。そうしてふと奥の建物を見て、私はすごく疑問に思っていたことを口にだした。
「あの、アレク……ここって本当に孤児院なの?」
アレクシス様! って子供達に囲まれている彼の姿だけ見れば、確かに孤児院っぽく見えるだろう。しかし、その背景にある立派な施設はどう見ても普通ではない。
「うん、そうだよ。子供の可能性って無限大だと思うんだよね。だからいろんな経験をさせて、その中で自分の得意な事を伸ばして行けるように、学舎も併設してるんだ」
まぁそれならと半分は納得できた。でも残り半分は、それでも説明つかないと思うんだけど。
「じゃあ、あっちのエリアは何なのかしら?」
どう見ても商店街にしか見えない。規模の小さい商店街が敷地内にあるから、孤児院にも学舎にも見えなかったのだ。
私の視線の先をみて、アレクは答えてくれた。
「あっちはね、学んだことを生かす場だよ。孤児院を経営するのにも費用がかかるし、それを税金や寄付だけで賄おうとしても貧しい生活しか出来ない。だから足りない分を補って、自分達で稼ぐ手段を身に付けながら社会勉強できる場所さ」
「つまりここの孤児院の子供達は、ここで暮らしながら、勉強して、働いてもいるってこと?!」
「そんな感じかな。将来困らないように、大人になれば即戦力として使える人財の育成を目指してるんだ。培ったノウハウは上の子から下の子達へと受け継がれていくよ。最近は外部からもここで学ばせて欲しいって申し出が殺到してるみたいでね、上手く行っているか様子を見に来たんだ」
一通り見学させてもらって、院長室でひと息つく。この孤児院すごい。改めてアレクの凄さを思い知った。こんな事が出来るの、彼以外きっと居ないわ。
孤児院の隅々に至るまで、子供達の長所を伸ばしながら意欲的に学びたくなる工夫がされていた。
例えば生活面においては、ありがとうボックスというのが設置されていて、週に一回集計してそれを配っているそうだ。書く方は自然と相手に感謝を伝えながら褒める癖がつく。もらう方は、それで自分の長所が見えてくる。
一ヶ月に一回、一番多くのありがとうカードをもらった子には御褒美がある。その御褒美は、学舎で使える特権カード。一ヶ月間、他の子より体験学習の時間を少し長く学べたりと、勉強面において優遇されるというもの。
子供達が自然と円満な人間関係を築けるようになり、長所を磨きながら、自分の興味のある分野をもっと学びたいという意欲に繋がる。
この他にも様々な工夫が施されており、外部の子がここで学びたいって殺到する理由がよく分かった。
これだけの設備投資をする財力もだけど、幼いうちからこれだけ世界の仕組みを学びながら楽しく働ける場所なんて、きっと他に存在しない。
しかも売られている商品にもランクがあって、子供達が切磋琢磨しながらよりよくしていきたくなる工夫も施されていて、向上心がぐんぐん育つ。
ここの子供達の目が皆キラキラ輝いているのは、本当にここが楽しくて仕方ない証拠だろうし。
まさしくハイブリット孤児院……アレクが国王様の出した難題任務をクリア出来た理由が分かった気がした。彼は一時しのぎでやってたんじゃない。将来を見越して、本当に人々が困らないよう自分達でやっていく術を身に付けさせていたのだ。徹底的に、隅から隅まで。この孤児院は、そのほんの一角に過ぎないのだろう。
「アレク、貴方本当にすごいわ……」
「今日はよく僕の事褒めてくれるね。嬉しいな」
「これも普段からお城を抜け出して社会勉強に励んだ日々の賜物ね!」
「あれれ、それ褒めてないよね?」
「いいや、褒めてるわよ。王族の中でここまで一般市民に寄り添えるのは、きっとアレクしか居ないもの」
「貴族達は兄上がきっちりまとめてくれるし。何も持ってなかった僕は、自分に出来る事を必死に探すしかなかったからね……」
アレクがこの采配を貴族社会でも遺憾無く発揮していたら、それこそ王位継承権を巡ってかなり酷い争いになっただろう。
自分の立場を理解した上でアレクは、どうすれば争わずに皆が平和に暮らせるか、考えて実行してきた。
アレクは何も持って無かったんじゃない。持とうと思えば簡単に持てた物をあえて持たずに、別の道を必死に頑張って探して掴んだ優しい努力家なのよね。
「アレク。私は貴方のその優しくて努力家なところが大好きよ」
ただそのせいで、随分遠回りもしちゃったんだろうけど。得られたもの大きいのだろう。
「き、急にどうしたの、ヴィオ……」
「ただ思ってたことを素直に伝えただけよ。おかしいかしら?」
「いや、嬉しい。ヴィオに褒めてもらえるのが、一番嬉しい!」
頬を上気させてアレクは満面の笑みを浮かべている。本当に可愛いわね。
「それで、アレク。私の助手をこの孤児院の中から見つけたいのでしょう?」
「うん、そうなんだけど。誰か気に入る子は見つかった?」
「そうね、どの子もレベルが高いっていうのは分かったわ。三人、気になる子がいるの」
壁には孤児員名簿が貼られている。似顔絵と名前、好きな事や苦手な事が書かれた簡易プロフィール付きで。
「まず一人目はエルマ。同じ植物好きとして、是非採用したいわ!」
「エルマか。確かに、ヴィオの助手には最適かもしれないね」
エルマは緑色の髪を三つ編みにした可愛い女の子。年齢は十五歳。花壇の水やりや、小さい子達のお世話を率先してやってくれる優しい女の子だ。
「二人目はガジル。彼の優れた嗅覚は調香にすごく役立つと思うの。ただ、夢は料理人って書いてあるから無理なら大丈夫よ」
「カジルの鋭い嗅覚は天性のものだからね。一応話だけしてみようか」
ガジルは赤い髪のやんちゃなイメージの男の子。年齢は十六才。料理が趣味みたいで、彼の作ったパンやお菓子は商店街で大人気の商品のようだ。スカウトのハードルは少し高そう。
「三人目はジェフリー、彼の優れた接客技術には目を見張るものがあるわ。彼ならきっと、お客様にぴったりの一品を提供してくれそう」
「ジェフリーの物腰柔らかな接客は、確かに多くの人に好まれる。優れた容姿も相まって彼のファンは多いんだ」
ジェフリーは金髪の容姿端麗な男の子。年齢は十六歳。人と話すのが好きみたいで、お客さんと会話しながら的確におすすめの商品を選び出して販売に繋げている。高い接客スキルを持って人気も高いようだし、こちらもスカウトのハードルは高そうだ。
「院長。エルマとガジルとジェフリーの三人と少し話をしたいんだけどいいかな?」
「はい、勿論です」
館内放送で三人を呼び出してくれて、いざスカウトタイムの始まりだ。
 












