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12、それって本当にご褒美?

「緊張しなくて大丈夫だよ、ヴィオ。何かあったら僕がフォローするからね」

「ええ、お願いするわ」


 まさか、アレクの視察に同行する事になるなんて思わなかった。助手を見つけにいこうと話してた一週間後、会わせたい子達がいると言われて視察に同行することになったのだ。


 向かっているのは、王都の北側に位置するスラム区画と呼ばれていたアムール地方。


 北から北西に伸びるグレイス山脈に近付くにつれ、カンカン、コンコンと、甲高い金属音が聞こえてくる。


 崩落事故のまま放置された鉱山はきちんと整備されているようで、流れるように採れた鉱石が見慣れない乗り物で運ばれている。


「ねぇ、アレク。あの乗り物は何?」

「あれは運搬用の魔道列車だよ。重たい鉱石を人力で運ぶには限界があるからね。作業を効率化するために作ったんだ。あそこの建物で採れた鉱石から魔石を選別してるんだ」


 魔道列車に立派な作業場。こんな大がかりな魔道設備なんて、アレクの大商会にしか作れないでしょうね。


「ここって宝石鉱山じゃなかったの?」

「宝石も採れるけど、良質な魔石の宝庫でもあるんだ。魔道具に魔石は欠かせないし、加工技術を知っておけばその知識は彼等の財産になる。我がノーブル大商会にとって今やアムール地方は、大事なビジネスパートナーなんだよ」


 復興して新たな仕入先と人材を確保したのね。流石というか、抜け目がないというか。こうして人脈の和を広げて手堅く商売しているのね。


 そんな話をしながらグレイス山脈のふもとに近付くと、人々の住む集落が見えてきた。


「殺伐として怖いイメージがあったんだけど、とてもスラムだったとは思えないわね」


 市街地は露店も賑わいとても活気にあふれていた。浮浪者の姿はなく、行き交う人々の身なりも整っており、城下にある市街地と生活レベルの遜色はないように見える。


「ここに来たばかりの頃は、いつも背中を狙われていたよ。特によそ者には厳しくてね。人々は今日を生きるのに必死で、家族や友人、恋人のために窃盗や恐喝は当たり前だったんだ」

「え……怪我とかしてない? 大丈夫だったの⁉」

「ラオやジンのおかげで魔法が使えるし、剣術の心得もあるから問題はないよ。心配してくれてありがとう」


 確かに雷の精霊獣や風の上級精霊と契約を交わしているアレクは、雷と風の魔法が使える。でも背後からの攻撃よ! そんな危険と隣り合わせの生活をしていたなんて思いもしてなかった。


 しかも悪政を強いて逃げ出した領主のせいで、領民は領主に良いイメージを持っていないだろう。反発も強かったに違いない。


 それこそ集団から袋叩きに……って恐ろしい想像をしていたら、なぜか街道には人が集まってきていた。


「アレクシス様よ!」

「ようこそお越し下さいました!」


 馬車に向かって笑顔で手を振る領民たちの姿があった。なによこれ、まるで英雄の凱旋パレードみたいじゃない。


「アレク、すごい人気ね」

「僕はもう、ここの領主ではないんだけどね」

「偉大な功績を残したんだもの、謙遜しなくてもいいじゃない」

「僕はただ、困ってる人達の声を聞いてどうすればいいか考えただけだよ。ここまで発展させられたのは、彼等自身の頑張りがあったからなんだけどな……」


 昔から思ってたけど、アレクって私の香水はすごく評価してくれたのに、自己評価が低すぎるのよね。


 誰でも出来ることじゃないことを涼しい顔でやってのけるのに、皆に助けられたからだよって自分の力だとは全く思ってない。それが親しみやすい第二王子の良い所だと言ってしまえばそうではあるんだけど、何だか勿体ない気がした。


「困ってる人達に寄り添って、同じ立場で考えて改善しようと努力してきた貴方の頑張りは、本当にすごいと思うわ。だからアレク、貴方はもっと誇ってもいいのよ!」


 今まで使命された領主達は、その任務を罰ゲームのように捉えていたと聞いた事がある。現状維持を最高の目標として掲げ、根本から問題を解決させようとする臨時の領主なんて居なかった。任期が終われば、もうそこに住むことなんてないんだから。


 でもアレクはそこに住む苦しむ領民達を助けるために、三年と言う短い期間で出来る限りの事をした。アムール地方がここまで発展できたのは、そんな基盤を作り上げたアレクの功績が大きい。陛下もそれが分かっているから、シエルローゼンの領地をお与えになったのだろうし。


「ヴィオにそう言ってもらえると嬉しいな。もっと褒めて?」

「本当にすごいと思うわ。よく頑張ったわね……って、なんでそんなマジマジとこっち見てるのよ」

「だって、ヴィオがツンツンしてない。デレデレしてる」

「デレデレって、私だってすごいと思うことは素直に褒めるわよ! アレクこそ、こういう時は素直に認めなさい!」

「うん、ありがとう!」


 キラキラとした笑顔が眩しい。眩しすぎるけれど、あまり誉めすぎると……


「じゃあさ、ヴィオ。頑張ったご褒美ちょうだい」


 すぐ調子にのるのも、相変わらずなのよね。でもまぁこれだけ凄いことをしたんだから、お祝いとして何かしてあげたくはあるわね。


「何がほしいの?」

「ヴィオにドレスを贈りたいんだ」

「えっと、それのどこがご褒美なの? アレク、熱でもあるのかしら?」

「ずっと、夢だったんだ。その……ヴィオと対になる衣装を着てパーティーに参加するのが……」


 そういえば、仲の良い恋人や夫婦はペアとなるように衣装を仕立ててよくパーティーに参加しているわね。よくイザベラ様が自慢していたのを思い出したわ。


「それは全然構わないけど、他にないかしら? それだとご褒美とは言えない気がするのだけど……」

「僕にとっては素晴らしいご褒美だよ! ヴィオの魅力をもっと引き出すと同時に、君が僕のレディだって皆に主張出来るんだから!」


 アレクがそれを望んでいるのはよく分かったけれど、私も何かしてあげたいんだけどな。ペアのものを喜ぶんだったら……


「分かったわ。それなら私は、ペアフレグランスを作るわ」

「ペアフレグランス?」

「それぞれが異なる香りだけど、重なることで調和して一つの香りになるの。どうかしら?」

「ヴィオと、香りが一つに……」


 アレクが顔を手で隠してしまった。嫌だったのかしら?


「い、嫌なら違うのにするわ!」

「嫌なわけないよ! すごく嬉しくて、想像したら恥ずかしくなって……」

「変なアレクね。お揃いの衣装を着てる方が目立って恥ずかしそうなものだけど」

「僕は今、ジンと契約して心底よかったと思ってるよ」

「どうして?」

「だって一つになった僕とヴィオの香りを、どこまでも風に乗せて運べるじゃないか! そして皆に知らしめて自慢できる!」

「そんな事にジン様を使っちゃいけないわ」

「ジンは協力してくれるよねー?」


 小さな竜巻の中から雄々しい人型をした風の上級精霊ジン様が現れた。


 人型の上級精霊なんて久しぶりに見たわ。昔お父様が見せてくださった火の上級精霊イフリート様以来ね。


『それがアレクシスの望みならば、叶えてやろう』

「ほら、大丈夫でしょ?」

「いけません、ジン様。それは力の無駄遣いです!」

『ふむ。しかしアレクシスは、我を救ってくれた。望みは全て叶えてやりたい』

「ジンは本当にいい子だね」


 ぐぬぬ。どうにかして止めさせないと、恥ずかしいじゃない!

 どこに言っても私達の香りがしたら、通った場所をその都度教えるようなもの。そんな香りの目印なんてごめんよ!


「アレク、そんなに広範囲に香りを充満させてしまったら、貴重性が失くなってしまうわ」

「貴重性?」

「香水の香りっていうのは、近くにいないと分からないものでしょ?」

「うん、そうだね」

「言わばその香りを嗅げるのは近しい者の特権よ! 私はその特権が失われてしまうのは悲しいわ。だってアレクの傍に居て良いのは、私だけでしょ?」


 伏し目がちに悲しさを再現して訴えてみた。


「ごめん、ヴィオ。僕が間違ってた! ジン、さっきのはなしで!」

『承知した』


 よし、これで阻止できたわ。作戦成功ね!


「ふふふ、言質はとったわよ」

「……え? もしかして、ヴィオ……僕を騙したの?!」

「騙してはないわ。本当の事しか言ってないもの」

「本当に?」

「ええ、言ったでしょう。私は香水とアレクの合わさった香りが好きだって。好きなものは、一人占めしたくなるでしょ?」


「……うん。やっぱりヴィオは、ずるい……」


 そう呟いて、アレクは赤く染まった頬を片手で隠しながらそっぽを向いた。


『アレクシス、顔が赤い。冷やすか?』

「あー、うん、お願いできる?」

『承知した』


 ジン様は、風で優しくアレクの火照った顔を冷やしていく。


 ふふふ、本当に仲の良いコンビね。


 微笑ましいアレクとジン様のやり取りを見ていたら、どうやら目的地に着いたようだ。

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