11、アレクからの提案
一呼吸して新聞を開くと、見出しにはこう書かれていた。
『あのシルフィー王女が認めた幻の香水の作り手、いま王室で話題のフレグランスの女神とは?!』
またもや変な記事になっているじゃないの! 恐る恐る記事を読むと
『今回はレクナード王国一の審美眼を誇るあのシルフィー王女が大絶讚! 時間で香りが変化する幻の香水を作ったフレグランスの女神の正体を探る。何でもその香水は第二王子のアレクシス殿下の贈り物で、特別に依頼して作ってもらったものだそうだ』
王女様が大絶賛だなんて、こうして改めて文面で見ると照れるわね!
『また王国騎士団では、ジークフリード団長の持つ魔法のミストも話題となっていた。空間に一吹きするだけで、疲れを一瞬で吹きとばす強力な癒し効果を持つもので、その香りを嗅いだものは楽園へ誘われるような幸福感を味わえるそうだ』
ちょっと待って、これほどの効果が出るのは私が作ったからじゃなくて、リーフが祝福してくれたおかげなのよ!
すごいのは、私じゃなくてリーフなのよ!
『両者で共通するのが、どちらもそのフレグランスの女神が作った商品だということだ。アレクシス殿下やジークフリード団長と懇意にしているというフレグランスの女神。その正体は、ヒルシュタイン公爵家のヴィオラ令嬢ではないかともっぱらの噂だ』
「アレク、これは……」
「いい感じで外堀が埋まってきたでしょ? ヴィオの香水に皆が注目するのはもう時間の問題さ。そこで一つ提案があるんだ」
「提案?」
「ヴィオ、僕と一緒にフレグランスの専門店を開こうよ! 社交界に蔓延る悪臭を、一掃するために!」
わ、私の香水を売りに出すの?!
とても冗談で言っているようではないし、アレクは本気のようだ。
「ヴィオ。最近、やたらと招待状がきたりしていないかい?」
「そういえば、前よりかなり増えてたわね。アレクと婚約した効果かしらね」
「多少はそれもあるだろうけど、彼等はヴィオと繋がりをもって今話題の香水を作ってもらおうとしているんだよ」
「確かに、試しに開封した招待状にも『香水の事でお聞きしたい事がある』と書かれていたわね」
「それらを全部引き受けていたら、ヴィオが過労で倒れてしまうよ。それに、僕と過ごす時間も減ってしまうでしょ?」
「もしかしてアレク、寂しいの?」
「うん、寂しい!」
清々しいくらいに言い切られてしまって、少しテレるじゃないか。
「それに今まで散々腫れ物扱いしておいて陰口叩いてた癖に、立場が変わった途端に近づいてくるような奴等なんかに、ヴィオの大切な時間と労力を無駄に使ってほしくないんだ」
「アレク……貴方って意外と、独占欲が強かったのね」
「安心して、ヴィオ限定だよ! 今まで傍に居れなかったから、一分一秒でも長く君と過ごしたいんだ」
それだけ私の事を好きでいてくれる事に喜んでいいのか、少し重たすぎると悲しんでいいのか、よく分からなくなってきたわ。
逆の立場で考えたらいいのかしら?
もしアレクが、他の誰かのために無理してずっと何かを作っていたとしたら──想像して、心に少しモヤモヤしたものが生まれた。
「そうね、私もアレクと一緒に居たいわ」
「ヴィオ……」
嬉しそうな顔でこちらを見つめているアレク。そのバックには私の育てた花達が咲いていて、切り取ったらなんて美しい絵画になるだろう。
「だってお花に囲まれたアレクはとても絵になって格好いいもの。この美しい花たちにも負けない王子様にはどんな香りが似合うのか考えてると、とてもワクワクするわ。新たなインスピレーションを得られるもの!」
「結局そっちに行っちゃうんだね?! 僕の束の間の喜びを返して!」
「どうして? 貴方と一緒に居たいって気持ちは同じなのに?」
「それはそうなんだけど……ううん、いいや今はそれでも。少しでも僕の事を考えてくれてるなら、それだけで嬉しいから」
「でもアレク、お店で香水を売るってなると、結局たくさん作らなくてはいけないでしょ? 一人だと大変だから、手伝ってくれる人が欲しいわ」
どれくらい売れるのかもわからないけれど、販売するってなると種類も揃えないといけないだろう。全てを私一人でやるのは、さすがに無理がある。
「そうだね。だから今度、ヴィオの助手を見つけにいこう!」
どうやら、アレクの中ではすでに候補がいるようだ。












