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番外編5、歪んだ愛情(side マリエッタ)

 昔から、お姉様の持つものが何でも眩しく見えた。

 頭の回転がよく機転もきいて、容姿端麗で美人のお姉様は、昔から何でもそつなくこなしてしまう完璧な方だった。


 私の憧れで、自慢の姉だった。お姉様の持つものを真似すれば、私もそうなれると思っていた。だから我が儘を言って、お姉様のドレスやアクセサリー、靴など、何でも欲しいとねだった。


 優しいお姉様は、駄々をこねて泣く私に、それらを譲ってくれた。嬉しくて、お姉様の真似をしてみた。けれどお姉様のスタイルに合わせて作られたドレスは、私には不格好で着こなせるはずもなく、折角の美しいアクセサリーや靴も似合わない。それらはお姉様だからこそ着こなせるもので、私に扱えるような物達ではなかった。





「ヴィオラ様はこの年でもう精霊とご契約されているのね。流石は炎帝様のご息女ですわ!」

「あの美しい気品ある所作も、とても子供とは思えませんわね。将来が楽しみですわ!」

「それに比べて妹のマリエッタ様は……」


 八歳を迎え社交場に出るようになると、自慢だった姉と比べられる事がだんだんストレスになっていった。


「知性も感じられず所作もなっておりませんし、可愛い見た目しか取り柄はなさそうですわね」


 少しマナーを間違っただけで、遠目から夫人達にヒソヒソと陰口を言われ品定めをされる。


 どうしたらお姉様に勝てるのか考えて悩んでいた時、当時のお姉様の婚約者だったセドリック様に声をかけられた。


「なにか悩み事? 僕でよければ相談に乗るよ」


 セドリック様に、私は悩みを打ち明けた。いつも姉と比べて比較されるのが辛いこと。姉を基準として見る父や兄に、もっと頑張りなさいと怒られること。全てを話し終わった後、セドリック様は私にこう言ってくれた。


「比べる必要なんてないと思うよ。ヴィオラにはヴィオラの、マリエッタにはマリエッタにしかない魅力があるんだから」

「セドリック様……」

「僕は君のそういう素直な所に好感が持てるし、追い付きたくて頑張ろうとする姿勢を尊敬するよ」


 なんて、素敵な人なんだと思った。それと同時に、私の中からどす黒い感情が湧いてくるのを感じた。彼とずっと一緒にいたい。彼を私の婚約者にしたい。


 それからセドリック様の好みを徹底的に調べあげ、私は彼の理想の女の子に近付けるよう頑張った。その結果……


「マリエッタ、いけないことだとは分かってるんだ。けれど僕は、君の事が好きになってしまったみたいなんだ」


 彼を手に入れる事ができた。初めてお姉様に勝てた事が、私は嬉しくて仕方なかった。

 セドリック様と手を繋いでお姉様の元へ真実を伝えに行った時の、あの動揺されたお顔を見て、ゾクゾクした。


 まさか自分より劣っている妹に婚約者をとられるなんて微塵も思ってなかった事だろう。間抜けな表情で固まるお姉様がおかしくて仕方なかった。


 社交場では腫れ物みたいに扱われるようになった可哀想なお姉様。けれど数年もたてば、美人で優秀なお姉様にはすぐに新たな縁談がきた。


 面白くなかった。お姉様の新たな婚約者は、セドリック様よりも身分の高い方だった。何だか負けたような気分になった。


 それに最近はセドリック様の束縛の強さに辟易していた。ネチネチと言われる小言も鬱陶しくて、最初に感じたトキメキは消えてしまっていた。


 彼の好みに合わせ過ぎた代償だろうか、ドレスや髪型を変えると酷く不機嫌になられる。


「そんな姿、僕の可愛いマリエッタには似合わない!」


 突然遊びに来られたセドリック様を出迎えた時、開口一番にそう言われて髪の毛を掴まれた。


「だらしない。髪だってきちんと結んでおかないと駄目じゃないか!」

「結んできます! だから離してください!」


 セドリック様を庭園のガゼボに案内させて、私は一旦身支度を整えに戻った。彼好みの白とピンクを基調としたフリルドレスに、髪型は高い位置でのツインテール。毛先をくるくると左右対称に巻いて、大きめのリボンの髪飾りをつけてもらう。


 ショーケースの中で売られている着飾ったお人形のような姿が、彼の好みだった。


「それでこそ、僕の可愛いマリエッタだね」


 うっとりしたセドリック様の眼差しに、次第に私は悪寒を感じるようになっていった。


「次のパーティは、新しく仕立てたドレスを着てもいいですか? 水色の可愛いドレスなんです」


 ヒルシュタイン家の庭園を共に散歩していた時に、私はセドリック様にそれとなくお伺いを立てた。もうピンクのフリルドレスなんて飽きた。着たくない。


 私の言葉を聞いて、途端にセドリック様の目付きが鋭くなった。ジリジリと距離を詰めてくるセドリック様が怖くて後退ると、建物の外壁にぶつかった。

 突然両手を壁に押し付けられて、「君は僕の物だ。僕より優先する事なんてないだろう?」と閉じ込められた。


「私は物じゃない、です」

「君は僕の可愛い人形じゃないか」


 寒気がして、「離して」と必死に抵抗した。けれど力で敵うわけがなくて、虚ろな目をして顔を近づけてくるセドリック様に恐怖を感じて目を閉じた。


「時と場所をわきまえなさい」


 お姉様の声がして目を開けると、ドゴンとセドリック様の頭にじょうろの蓮口がクリーンヒットしていた。


「……っ! な、何をする! ヴィ、ヴィオラ!?」


 頭を押さえながら涙目で後ろを振り返ったセドリック様は、お姉様を見て驚きを露にされていた。


 どうやらお姉様は手に持つじょうろで、セドリック様の頭を叩いたらしい。


「白昼堂々と何してるのよ。セドリック、頭に血が上っているようだから、水でもかけてあげましょうか?」


 怯むことなくセドリック様に立ち向かうお姉様が、まるで英雄のように見えた。


「君には関係ないだろう!」

「お姉様、助けてください!」


 怒鳴るセドリック様から逃げて、私はお姉様に助けを求めた。


「妹が助けを求めているわ。これでも関係ないって、言えるかしら?」


 炎帝と敬われるお父様譲りの凛々しいお顔立ちをしたお姉様はとても格好よくて、迫力が違う。最大限に睨みを利かせ不敵に笑うそんなお姉様に、セドリック様は若干へっぴり腰になられている。


「ま、マリエッタは僕の婚約者だ。少しくらい……」


 お姉様はじょうろを両手で持つと、セドリック様の頭の上で真っ逆さまにひっくり返した。バシャーンと勢いよく頭から水を被ったセドリック様は、一瞬何が起こったのか分からず放心状態のように見えた。


「同意無く、相手の体に触れることなかれ。触れてもいいのは結婚してからよ。そんな幼い頃から教わる常識を、ガルーダ伯爵家では教えてないのかしら?」

「くっ……」


 パンパンと手を二回叩いて、お姉様は執事を呼んだ。


「お客様のお帰りよ。ご案内してさしあげて」

「かしこまりました、ヴィオラお嬢様」


 執事は言いつけ通り、セドリックを出口へ誘った。


「待ってくれ! 違う、僕は……! マリエッタ、どうか話を!」


 こちらに手を伸ばしてくるセドリック様が怖くて、お姉様に必死にしがみついていた。セドリック様から隠すように、お姉様は私を守ってくれた。


「もう大丈夫よ」


 優しく微笑んで、お姉様は何があったのか聞いてくれた。私はセドリック様に束縛され、自由を奪われていた事を訴えた。話しているうちに涙がこぼれてきて、話を聞いたお姉様は、「辛かったわね」と私を抱き締め頭を優しく撫でてくれた。


 その後お姉様がお父様に口添えしてくれて、セドリック様との婚約は無事に解消された。


 それからしばらく、お姉様は私の事を心配してよく気にかけてくださった。一緒に庭園でお茶を飲んだり、街に出てショッピングをしたりと幼い頃に戻ったみたいに一緒に過ごせて楽しかった。けれど……


「こんな所で会うとは奇遇だな、ヴィオラ」

「あら、レイザー。奇遇ね」


 カフェで偶然お姉様の新たな婚約者、フランネル侯爵子息のレイザー様と会った。


「よかったら今度、うちでパーティーを開くんだ。来てくれるだろう?」

「ええ、勿論」


 楽しそうに談笑するお姉様を見て、キリキリと胸が痛んだ。どうして、他の人を見てるの……今は私だけのお姉様じゃないの?


 そうか、この男のせいだ。だったらこの男を奪って、お姉様がこちらを見てくださるようにすればいいんだわ!


 私はレイザー様の好みを徹底的に調べあげ、少しずつ仲良くなって、再び手に入れた。


 さぁ、お姉様。あの顔でまた私を見て。私をゾクゾクさせて。


 けれど二回目は、あまり驚かれなかった。


「分かったわ、幸せになりなさい」と私の頭を撫でて、お姉様は温室に戻って行かれた。まるで興味がないと言わんばかりに、お姉様の瞳に私は映っていなかった。


 失望されたんだと、そこで初めて気付いた。何でこんな馬鹿な事をしたんだろうと後悔しても時既に遅し。


 それからお姉様はより一層温室に引きこもるようになられて、あまり外に出て来られなくなった。


 会話を交わす事も減り、すきま風が吹くような寂しさだけが心に残った。こんなはずじゃなかったのに……


 レイザー様は女遊びが激しい方で、私以外にもたくさんの恋人が居た。その事が露見しお父様が激怒して、結局私の婚約は再び解消された。

明日も番外編、マリエッタサイドを更新予定です。

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