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8、王女様とお茶会①

 アレクに連れられやってきたのは、王城のプライベートサロン。王族が私的に招待した方をもてなす際に使われる場所らしい。


「僕達しか居ないから、緊張しなくても大丈夫だよ」


 アレクはそう言うけれど、これから選定されるかもしれないと思うと緊張せずにはいられない。


「シル、ヴィオを連れてきたよ」

「お招き頂きありがとうございます、王女でん……かはっ!」


 挨拶してる途中で、急にシルフィー様が目の前から消えた。そして体に感じる何かに突進されたかのような衝撃。


「本物ですわ! 本物のヴィオラ様ですわ! あーやはりとてもいい香りがしますわ!」

「こら、シル! ヴィオが苦しがってるだろう!」


 その原因がシルフィー様だったと判断できたのは、アレクが物理的に距離をとってくれたおかげだった。


「はっ! 申し訳ありません、ヴィオラ様! つい我慢できなくて……お怪我はありませんか?」


 何だか思っていた展開と違うわね。目の前で瞳をうるうるとさせているシルフィー様は、小動物のように可愛らしい。


「少し驚いただけで、何ともありませんよ」

「よかったですわ! やっとこうしてお会いできて、本当に夢みたいですわ!」

「シル、嬉しいのは分かるけど、席に案内してあげて?」

「そうでしたわ! ヴィオラ様、どうぞこちらへお掛けください」


 案内された席についたはいいものの、何故だろう。すごくキラキラした眼差しでシルフィー様はこちらをご覧になっている。私の顔に何かついているのだろうか……


「シル、そんなに見つめてちゃ失礼だよ」

「だって、夢のようなんですもの! 憧れのヴィオラ様と一緒にお茶を飲めるだなんて!」


 憧れのヴィオラ様?!

 思わぬ言葉に、危うくお茶を吐き出すところだったわ。危ない危ない。


「アレクお兄様ったら、ヴィオラ様を独り占めして、全然私に紹介して下さらないのですよ?」

「そ、それは、公務が忙しかったし、ヴィオの都合もあるからね?」

「もし今日もヴィオラ様を連れてきて下さらなかったら……分からず屋のお兄様に、真冬の湖のように凍てついてしまった私の心を分かってもらうために、少々氷漬けにしてやろうって思ってましたのよ!」


 シルフィー様はそう言って、ティースプーンをカチコチに凍らせてしまった。私が来なかったら、アレクがああなるところだったのね。

 そ、それほどまでに私に会いたかったんですか?!


「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ありません、シルフィー様」

「とんでもありませんわ! ヴィオラ様、よかったら私の事は本当の妹のように接して下さると嬉しいです。是非親しみを込めてシルとお呼びください。その代わりに私も、ヴィオお姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 いきなり愛称呼び?!

 い、いいのかしら?


「(ヴィオ、言うとおりにしてあげて)」


 シルフィー様に聞こえないように、アレクが自身の声を風にのせて、私にだけ聞こえるよう囁いてきた。


「は、はい。勿論ですよ、シル」

「ありがとうございます! ヴィオお姉様!」


 シルフィー様は嬉しそうに笑っている。どうやらこれでよかったらしい。

 色々質問攻めにされるのかと構えていたものの、その気配は微塵もない。美味しいお茶とスイーツを頂いて、胃が幸せで満たされている。


「ところでヴィオ、覚えてるかい? 昔、豊穣祭で迷子になってた女の子を助けたこと」

「豊穣祭で女の子……?」


 珍しい植物なんかも売りに出されるから、毎年参加してるのよね。

 そういえば会場の外れで、不安そうに周囲をキョロキョロとしながらぽつんと佇んでる女の子がいて、保護してあげたこともあるわね。


「それ、お忍びで豊穣祭に参加してたシルだったんだよ」

「え……」

「ヴィオお姉様。このハンカチに見覚えはございませんか?」


 差し出されたのは、私が下手くそに縫ったバラの花が刺繍されたハンカチだった。


「こ、この刺繍は! お恥ずかしながら、この歪さは確かに私が昔縫ったものですわ」


 なんて恥ずかしい物を!

 穴があったら入りたい!


「僕、これ見て一目で分かったよ。シルを助けてくれた人の正体がね」


 私の縫ったハンカチを見て『四角い花びらなんて初めて見たよ』ってお腹抱えて笑ってた事、今でも覚えてるわよ、アレク!


 『君にも苦手なものがあったんだね』って目の端にたまった涙を拭いながら笑うから悔しくて、これでもかなり練習して何とかバラと分かる程度までには上達した。


 相変わらず花びらは角張っているけどね!

 曲線を縫うのが苦手なのよ、仕方ないじゃない!


 悲しき事にそこが私の限界点だったらしく、それ以上の上達は見込めなかった。

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