7、婚約して立ちはだかるもの
続編読みに来てくださり、ありがとうございます!
よければもう少しだけ、令嬢姉妹のお話にお付き合いくだされば幸いです。
マリエッタがログワーツ領へ旅立った翌日、仕事から戻ってこられたお父様が血相を変えて私の温室へやってきた。
「ヴィオラ、ヴィオラはいるか?!」
「お父様、慌ててどうなされたんですか?」
「これは本当なのか?!」
差し出されたのは、王国新聞のロイヤル通信。見出しには大きくこう書かれていた。
『第二王子のアレクシス殿下、10年越しの想いを実らせついに婚約か?!』
な、なによこれー!
恐る恐る続きを読むと
『お相手はヒルシュタイン公爵家のヴィオラ令嬢。先日、10年越しの想いを告白し見事成功したアレクシス殿下。二人の結婚は秒読みかもしれない! ロイヤルファミリーの朗報に乞うご期待!』
とりあえず正式な婚約は、マリエッタが嫁いでからにしようってアレクが言ってたけど、嫁いだ瞬間どえらい記事になってるじゃないの!
「ヴィオラ、これは本当なのか?!」
「えーっと、はい、その……アレクに告白されたのは……本当です」
「今朝、陛下と殿下にも婚約の許可をくれと頼まれたのだが、お前の気持ちを確認しないといけないと思ってな、返事はまだ保留にしてもらっている。アレクシス殿下のことを、お慕いしているのか?」
「その……アレクとは昔から、秘密裏にお友達として仲良くさせてもらっていました。告白された時は正直驚きましたが、これから少しずつ良い関係を育んでいけたらなと、思っています」
「そうか、そうなのか! よかったな、ヴィオラ! 本当によかった!」
お父様が、泣いている?!
ああ、そっか。もうどこにもお嫁に行けないと思われてたわよね。そのせいでいっぱい心労をかけてただろうし。
「お父様……今まで心配おかけしました。そして、ありがとうございます」
「お前にはマリエッタの事で、たくさん苦労をかけたからな。どうか幸せになって欲しい」
少しは親孝行できたのだろうか。それなら嬉しいな。
◇
お父様が陛下に婚約の許可を出した一週間後。王城の敷地内にある大神殿にて、私とアレクの婚約の儀が執り行われた。
「エスメラルダ神の名の元に、アレクシス・レクナード様と、ヴィオラ・ヒルシュタイン様の婚約が成立したことを、大神官ルーファス・アダムスが、今ここで見届けます」
今までの婚約の儀と違って、神々しすぎて緊張した。光の精霊と契約されている大神官のルーファス様が立会人をしてくださるとは。
「こちらが婚約証明書となります。どうか大事に保管されて下さい。これにて、婚約の儀を終了致します」
「はい、ありがとうございました」
受け取った婚約証明書までキラキラ輝いている。光の精霊様の加護が宿ってるんだろうな、これは。
「ヴィオ、よかったらお茶でもって……妹が……10分、いや5分でもいいから、少し話し相手になってあげてくれないかな?」
何故だろう、掴まれた手が震えている。どうやらその震えはアレクの方からきているようだ。
「別にかまわないけど、アレク。どうしてそんなに怯えてるの?」
「いや、その……今日こそは絶対に君を紹介してと頼まれてしまって。もし連れてこなかったら、真冬の湖に沈めて凍らせますわって……脅されて……」
な、なんて物騒なの?!
第一王女のシルフィー様は確か、氷の精霊フェンリル様と契約されていたわね。現実的にそうできてしまうのが、少し怖いかも。
「アレク、シルフィー様と仲が悪いの?」
「いや、そうじゃないんだ。仲は良い方だよ。シルはずっと、僕がヴィオに片思いしてたのを知っていたから。君と話がしてみたかったらしいんだ。ずっと前から……」
これはもしや、選定?!
私がアレクの婚約者として相応しいかどうか、試されるおつもりなのかしら。
もし相応しくないと判断されてしまえば、秘密裏に冬の湖で氷漬けにされてしまうのでは?!
シルフィー王女の審美眼は、王国一厳しいと言われている。あらゆる面において目利きのできる方で、彼女に認めてもらえた商品は飛ぶように売れる。だから品評会で多くの職人が自慢の商品を手に彼女に挑み、玉砕してきたと聞く。
私の代わりによくドレスやアクセサリーを選んでくれる侍女のミリアが、シルフィー王女の大ファンで、よく彼女の武勇伝を話していたのを思い出す。
とあるドレスの品評会で、その時ベストオブドレスに選ばれたのは、無名デザイナーの作った安いドレスだった。結果に不服だったらしいとある高級ブティックのデザイナーが、王女に苦言を呈すると
『一流の素材をどれだけ使っても、その良さを引き出せていない物は、三流以下ですわ』
王女はそう言って一刀両断。
『このドレスは、一般的に流通している安い布というハンデを背負いながら、デザインと工夫で素材の持つ良さをうまく生かした素晴らしい一着です。それに比べて貴方のドレスは、時代錯誤の型で高級素材に宝石を散りばめただけのひどい作品よ。素材や宝石の持つ本来の美しさを見事に殺し合い、まとまりのない一着ですわ』
さらにそう付け加えて、高慢な高級ブティックのデザイナーを、正論で完膚なきまでに叩きのめしたらしい。
シルフィー様に、私は認めてもらえるのだろうか……
「どうしたの、ヴィオ。ボーッとして、嫌なら無理しなくてもいいんだよ? シルの機嫌なだめるのに、ちょっと僕が……氷漬けになればすむだけだし……大丈夫、風がきっと、守ってくれるさ……」
「い、行くわよ!」
いくらアレクが風の上級精霊ジン様と契約してるとはいえ、氷に風を吹きかけても溶けないわ。せいぜい転がるだけじゃないかしら……
アレクを氷の塊にしないためにも、何とか認めてもらうしかないわ!
気を引きしめて、私はシルフィー様とのお茶会に臨んだ。