番外編3、義両親とは仲良くなれません(side マリエッタ)
冬になると、より一層の寒波がきて、森の動物達も冬眠してしまうため、狩りができなくなる。その間の飢えを凌ぐには、冬がくる前に、獲物を多くしとめて保存食にしておく必要があるとリシャール様が言っていた。
領民が飢えないように、いざという時には分け与える事が出来るように、領主であるログワーツ伯爵家では特に多くの保存食を作らなければならない。
作業はリシャール様が一つずつ丁寧に教えてくれたから、やることは大体覚えた。
通いで作業しに来てくれる従業員と一緒に、朝から晩まで獣を解体しては、塩漬けにしたり、干し肉にしたり、保存している食料が腐っていないかチェックをしたりと、やることが山積みだった。
それが終わると今度は剥いだ毛皮を洗って干さなければならない。すでに干し終わった毛皮は、防寒具になるよう縫って加工する必要がある。どれも同じようなデザインで、ただサイズが違うだけだから、皆で並ぶと熊が並んでるように見える。
使用人に任せればいいような仕事を、ここでは伯爵夫人自らが指揮を執って行っている。
「マリエッタ、将来は貴方が私の代わりにここを守っていかなければならないのよ。ぼさっとしてないで、手を動かしなさい」
「はい、お義母様」
今日も私は考えることをやめ、ただただ手を動かして作業をする。生きるためには、やるしかなかった。
「マリエッタ様、大丈夫ですか? 後は私がしておきますので、少し休まれて下さい」
心を無にして黙々と作業をしていた私に話しかけてきたのは、作業員の一人、名前は確か……
「アリサ……」
「私の名前、覚えててくださったのですね! ありがとうござます!」
あんなに面倒でつまらない作業をいつも笑顔で楽しそうにしている変わり者だ。
「それじゃあお言葉に甘えて、助かるわ。ありがとう、アリサ」
「はい、お任せください!」
お義母様も今はいないし、少しくらい休憩してもいいわよね。やりたいっていうもの好きな子もいるんだし。休憩室で横になった私は、疲れていたようでそのまま眠ってしまった。
「マリエッタ! マリエッタはどこだい!」
目が覚めたのはお義母様の金切り声だった。
いけない、私どれくらい眠っていたんだろう。慌てて作業場にいくと、鬼の形相のお義母様がいた。
「アリサに作業を押し付けて、一人で休むなんて何やってるんだい!」
「違います、ヒルデガルダ様! マリエッタ様はとても疲れていらしたので、私が申し出ただけです。マリエッタ様は悪くありません」
「そうです、お義母様。私はアリサの提案を受け入れただけで……」
「どうせ、お前がそう言うように命令したんだろう! アリサ、一人で大変だったね。後はマリエッタにさせておくから、家に帰ってゆっくり休みなさい」
「ですが、ヒルデガルダ様!」
「お前はいつも頑張ってよくやってくれてるんだ、たまにはゆっくり休む事も必要さ。気にすることはないよ」
「はい、分かりました……」
どうしてこうなるのよ。アリサはお義母様に言われた通り申し訳なさそうに帰っていった。
まぁいいわ。幸いなことに、作業はほとんど終わっている。後は切られた肉を瓶詰にすれば終わる。そう思っていたのに
「マリエッタ! 今帰ったぞ!」
リシャール様が大量の獲物と共に帰ってきた。最悪だわ。でも生きていくためにはこれを保存食にするしかない。飢え死になんてしたくないもの。
「おかえりなさい、リシャール様」
「量が多いから、俺も解体手伝うよ」
「ありがとうございます!」
リシャール様は、こうして私の事を気遣ってくれる。けれど──
「リシャールは狩りで疲れてるんだ、これはマリエッタがやるから無理しなくていいんだよ」
「そうだぞリシャール、お前がそうやって甘やかすから、マリエッタの作業がいつまで経っても遅いんじゃないか」
お義母様とお義父様は、それが気に入らないらしい。
「俺なら大丈夫。マリエッタは今までやったことのない事を、頑張ってやってくれているんだ。大変な時は、助け合うのが家族じゃないのか?」
リシャール様には強く言えないようで、義両親はそれ以上口出して来ることはなかった。まぁどうせ、彼が居ない所ではネチネチと嫌みを言われるのは変わらないけれど。
最初のうちは義両親に気に入られようと頑張ったこともあったけど、今はそれが無駄だと悟ってしまった。
私の話をまともに聞いてくれない上に、まず最初に疑いの眼差しを向けられる。
どこか粗を探してやろうと言わんばかりの態度に、嫌われているのがよく分かる。
それもそうか。お姉様じゃなくて私が嫁ぐことになって、義両親はとてもがっかりしていた。
姉から婚約者を奪った妹という現実が、泥棒のように見えてしまうのかもしれない。
リシャール様と共に居られれば幸せだったあの頃には、もうどうしたって戻れない。