家訓其の一、挨拶はしっかりしましょう
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始めに『認識操作』の概要について説明させてください。
1つ、認識をずらすことができます
2つ、認識を変えることができます
3つ、認識を消すことができます
4つ、認識を生み出すことができます
5つ、認識を入れ替えることができます
6つ、…………
以上が能力の詳細になります。
ではここから、実際の能力使用例として、この能力の所有者であり、現在首チョンパの後、生首になっている少女を例にお話をしたいと思います。
数時間前……
「やった!ついにできた!」
夏の日差しが人の形をしていれば、ニ度と足腰が立たなくなるであろうリンチを拝受できていたであろうという猛暑日。
少女のものと思われるとても大きく、欠片も知性を感じられない、騒音まがいの歓喜の声が、石造で二階建ての家々が並び、その前で数多くの屋台が賑わいを見せている繁華街の一番通りに響き渡った。
声が大きかっただけに、道ゆく人やそこで商売をしていた人、井戸端会議中の婦人たち、膝汁ごま油の正など多くの人々が声のした方向を振り向いた。
そして、その視線は少女の並外れた風貌によって固定された。
少女の主な外見の特徴として、車椅子に乗っており、頭には顔が見えないほど大量の包帯が巻かれているなどがあり、一見すれば、ただの物乞いのような格好なのだが、人々の気をひいた要因は次のことが挙げられる。
1つ目は、身なりが異様に綺麗だということだ。服装は下町にはとても似つかわしくない貴族のように豪華で綺麗なドレスを纏っており、髪は包帯の間から覗いていることからは考えられない綺麗な銀髪であった。
2つ目はその少女が膝に抱えていたものだ。黒く丸い球。遠目から見ればそれくらいの情報しか得られないその物体は数秒後、少女の口から答え合わせが行われた。
「さぁ!さぁ!皆さん!
見てください!この輝き!
何を隠そう、これらは私が一月前から丹精込めて作り上げた泥団子……いや、私のfamilyたちになります!」
そう言って少女は観衆の前に自分の制作した泥団子を突き出して見せる。
「アダム!ウィリアム!バレンタイン!穀潰し!どの子をとっても一級品ですよ!」
一人、愛情の供給が十分ではなさそうなものもいたが、そことは無関係に観衆たちは唖然としていた。泥団子で生計を立てようとしている少女の考えの甘さに反した一流の職人のような制作時間にドン引きする様に。
そんな観衆を尻目に少女は続ける。
「いやー、これがまた大変だったんですよ!まずは土選びからなのですが、これがまた難儀で……なんせ足の状態がこれなのでね。それはもう悪戦苦闘で……結論から言うとあそこに見える山の頂上から取ってきたのですが…………」
少女は泥団子の作業工程を初めら説明し出したが、観衆たちは一人一人とその場を離れていった。その理由は、少女がしてきた苦労があまりにも壮絶で、聞くに堪えないものだったからだ。
最初の方の観衆の反応は
(ハハハ!なんで泥団子なんかにそんな本気になってんだか)
と嘲笑うようなものだったが、終盤になんに連れて
(なんで泥団子なんかにそんな本気になってしまったんだよと!)
と、あるものは、少女の不憫さに怒り、涙が止まらなくなり、あるものは血が滲むほど拳を握りながら、あるものは神に少女を救うよう懇願しながら、あるものは嗚咽を吐きながらその場を去っていくこととなった。
「……で、私が肝臓を売って手に入れた布で、仕上げの磨きを行い、先ほど完成させたということなのですが……
さぁ!それでは!
今までの話を踏まえて、皆さまいくらでお買い求めいただけます…………か?」
話が終わり、少女が値段交渉を始めようとした時、少女の周りには誰もいなくなっていた。それどころか、さっきまで賑わっていた出店すら一つ残らず畳まれており、街は一瞬でゴーストタウンのようになっていた。
その様子に少女は
「はぁ、ここまで才能がないとは…自分を過信してたな…
全力で同情を誘えば、早朝から休み休みこねくり回しただけの泥団子でも飯の種くらいにはできるのではないか!と思ったけど……
まさか、いくら相手の反応が面白かったからって、団子の価値を引き上げるという本分を忘れて、相手をどこまでドン引きさせられるかなチャレンジ!に走るなんてなぁ……
ハハハハ……心底ダメだなぁ、私って……
せめて、泥団子たちを助けるために、祖父の年金を全て掻っ払ったというところまでで止めておけばよかったなぁ……」
と、項垂れる形で頭をかきながら心にも思っていない反省をしていた。
すると、そんな少女の目の前に一匹の柴犬が通りかかった。犬は少女と目が合うや否や
「ワン!」
と無邪気に元気よく吠えた。犬としては少女と遊びたかったのだろう。そんな犬の期待を
「ああぁ!!」
と、少女は全力で制するという大人気なさで返した。
制された犬は、予想外の反応に驚いてしまい、その場をさろうと恐る恐る振向こうとしたが、少女に首根っこを掴まれてしまい、膝の上で拘束された。
「ちょっと、聞いてもらっていいですか?」
と、少女は犬の背中に自分が制作した団子を並べながら喋り出す。状況を飲み込むことができない犬はひどく震えている。
「つい先ほどの話なんですけどね……
私、自分の自分自身に対する好奇心に負けて失敗してしまったのですよ………」
と、少女はまた一段と項垂れ出した。
そして、それを感じ取ったのか、先ほどまで怯えに怯えていた犬の緊張感が少しほぐれ出した。
「でも、そんな失敗はしましたが、自分の限界を決めず取り組んだ姿勢は、我ながら評価されるべきだと思うのですよね!」
背中を撫でられて喋りかけられ続けるだけの変わらない状況に、犬はついにあくびをしていまった。
「よし!なんだかやる気が出てきたぞ!
それじゃあ、自分の限界を知るためという大義名分はできたので!
早速!犬は食料としてカウントできるのか試みようかな!」
動物というものは殺意に対して敏感である。
殺気を感じ取った柴犬は少女の膝の上から懸命に離脱しようと試みようとしたが、少女の細腕からは考えられないほどの力により阻止された。
「そうはしゃがないでくださいよー!
ちょっと、お命頂戴するだけじゃないですか!
何まじになってんだかー!
ボケじゃんないですかBOKE!
あはははは!
……それでは、いただきます。」
少女が髪をかき上げ、犬の尻尾を口に運ぼうとした時
ガン!!
と鈍い音と共に、少女の頭から鮮血が飛び散る。
数秒、少女の血液が落ちる音だけがしたあと、
「王族のウミが手間をかけさせるなよ……」
と、殴打の主はそう言い、警棒に付着した血を少女の服で拭った。そして、連れている数人の部下に少女を連行するよう促す。
少女は一つため息をついてから、犬を抑えていた手を離し、離すと同時に颯爽と逃げていく犬を見てニヤけつつ
「罪状は?」
と殴打の主に聞いた。
だが、その質問は無視され、少女はそのまま数人の男たちに連行された。
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