第8話 黄色の雷と緑色の風
「ここ数日、嵐野市だけで異常な雷雨と強風が確認されている。」
咲来は、零音と玄司にパソコンに映っている雨雲レーダーを見せながら言った。
8月2日から今日までの四日間、嵐野市にだけ雨雲がかかっている様子が雨雲レーダーには映し出されていた。
「部分的な異常気象。マテリアスの仕業よ。それも天候を変えられるほどの力を持っているとなると、おそらく…フェーズ2のマテリアス。」
「フェーズ…2!?」
零音は驚いた。
零音はまだ、カグツチを除いて、フェーズ2のマテリアスを見たことがないからだ。
「彼らの目的は不明だけど、このまま異常気象が続いたら嵐野市は大変なことになる。すでに住民は避難してるけど、なんとしてもここにいるマテリアスは倒さなくてはならない。」
「俺が行く。一人で充分だ。」
玄司は腕を組んで、目を瞑りながら言った。
「待ってください師匠!僕も行きますよ!」
「ダメだ。お前がいても邪魔になるだけだ。」
玄司は零音を軽くあしらった。
『玄司…お前もフェーズ2のマテリアスは倒したことはないだろう。ここは二人で行くべきだ。』
「お前は黙ってろ。」
カグツチは玄司を説得するが、玄司は聞く耳を持たない。
「玄司くん。大人になりなさい。一人で成し遂げられないこともある。そういう時は協力が大事になってくるのよ。」
「…俺を大人扱いするな。」
玄司の大人嫌いに咲来は呆れた。
「わかりました。じゃあ僕一人で行きます。ついていきたかったら勝手についてきてもいいですよ?師匠。」
「くっ…貴様…」
玄司は零音の煽りにイラついた。
「私も同行するわ。フェーズ2の生体を見てみたいの。」
「…勝手にしろ。」
玄司は適当に返答した。
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嵐野市に三人は到着した。
雨が降り注ぎ、強風が吹き荒れ、雷もたまに鳴っている。
「嵐野市に入った瞬間急に風が強くなってきたわね…」
レインコートを着た咲来は強い風を受けながら必死に歩いている。
「一体どこにいる…?フェーズ2…」
玄司は手で風をガードしながら呟いた。
三人は人気のないビルが連なる街を歩き進んだ。
空も曇っているため、昼間なのに暗い。
次の瞬間、三人の目の前に雷が大きな音を立てて落ちた。
それと同時に突風も吹き荒れた。
「うわっ!!」
「くっ…!」
三人は驚き、思わず伏せた。
「ようやく来たか…リバイトレオン。待ちくたびれたぜ。」
雷が落ちた場所に、黄色いコートを着た男が立っていた。
そして突風は、その男の隣で小さな竜巻になり、竜巻は緑色の和服を着た女性の姿に変化した。
「お初にお目にかかります。私の名はフウジン。そして彼はライジン。以後、よろしくお願いいたします。」
女性は自己紹介した後、丁寧に一礼した。
ライジンは雷のマテリアス、サンダーマテリアスだ。
そしてフウジンは風のマテリアス、ウインドマテリアス。
どうやらフェーズ2のマテリアスには名前が与えられるようだ。
「こいつらがフェーズ2のマテリアス…」
零音は初めて遭遇するフェーズ2のマテリアスに少し震えた。
「零音を待っていた…?」
咲来はライジンの発言に疑問を持った。
「二体か…。気を抜くなよ。今までの奴らのようにはいかないぞ。」
「わかってます…」
零音はユーティライザーを装着した。
そして零音と玄司はマガジンを起動した。
《ジャスティスクリエイト》
《ブレイブファイヤー》
二人はマガジンを装填した。
『《ローディング》!』
零音は変身ポーズをとり、玄司はカグツチの柄を握った。
「変身!!」
零音はレバーを倒し、玄司は抜刀した。
《ユーティライズ》
『イグニッションライズ!』
《リバイトレオン クリエイト アクティブ》
『リバイトウルス ファイヤー アクティブ!』
二人はリバイトに変身した。
それと同時に、ライジンとフウジンも怪人態に変化した。
ライジンの怪人態は体の至る所に鱗がついていて、フウジンの怪人態は両腕が鳥のような翼になっている。
「はあああああああっ!!」
一発の雷の音が鳴り響くのと同時に戦いは始まった。
レオンはライジンと、ウルスはフウジンとぶつかった。
「はっ!!」
レオンのパンチはライジンの腹に直撃した。
しかし、ライジンはその場からびくともせず、突っ立っている。
「へっへっへ…」
「!?ぐああああああああああ!!」
ライジンは腹に触れているレオンの拳を通して、レオンに電撃を流した。
レオンは慌てて、ライジンから離れた。
ウルスはフウジンに斬りかかるが、フウジンは腕の翼でガードする。
「お暇でしょう?私が相手をしてあげます。」
「…!!」
フウジンはウルスの耳元にそう囁いた。
「ふっ…!!」
ウルスはフウジンを払いのけ、斬りかかったが、フウジンの体は風に変化し、ウルスの背後に回り込んだ後、再び怪人の姿に戻った。
そして空中で回転したフウジンは、後ろ回し蹴りをウルスの脇腹に当てる。
「くっ…!!!」
ウルスは横に吹き飛び、レオンのいる位置から離れた。
「師匠!!」
「人の心配してる場合か?」
レオンは吹き飛んだウルスを心配していたが、そんなレオンに容赦なくライジンは高速で接近する。
雷の速度を利用して、ものすごい勢いでレオンの顔に掌底を食らわす。
「ぐぁっ…!!!」
レオンは奥に吹っ飛ぶが、なんとか踏ん張って止まった。
「ふんっ!」
ライジンはレオンに向かって腕から電気を放射した。
「はっ!!くっ…!!!」
電気が迫ってくることに気づいたレオンは輝石で壁を作って防いだ。
(輝石は電気を通さない…?そうだ!!)
そう考えていると、いつの間にかライジンはレオンの横に瞬間移動しており、レオンは蹴り上げられた。
「ぐぁあああっ!!クッソぉ…」
レオンは咄嗟に立ち上がり、輝石を両腕に生成し、纏った。
「はあああああああっ!はあっ!たあっ!!」
そして右手と左手で交互にライジンを殴る。
ライジンは電気を体に纏っているが、レオンの腕は輝石で覆われているので、レオンに電気は通らない。
「はあああああああああっはぁっ!!!」
両手で同時に殴り、渾身の一撃をライジンに食らわせた。
両手の輝石はその衝撃で粉々に砕けた。
「ぐっ…なかなかやるな。」
ライジンは腹を押さえてうずくまった。
レオンはもう一度両手に輝石を生成し、足にも輝石を生成した。
(やっぱり、輝石で体を守れば電気を食らわずに攻撃を当てられる…!!)
「いくら攻撃を当てられようが、俺のスピードについてこれるか?」
さっきまでレオンの前でうずくまっていたライジンは、レオンの後ろに移動しており、後ろからレオンの上に馬乗りになり、押さえつけた。
そのままレオンの体に電撃を流した。
「あああああああああああっ!!!!!」
レオンは苦しむが、輝石のトゲを地面から生えさせ、ライジン目掛けて突っ込ませる。
「…んっ!?」
それに気づいたライジンは瞬間移動し、姿を消した。
ライジンはレオンから少し離れた場所に移動した。
「おもしろい能力だな。」
「くっ…」
あざ笑うライジンを前にレオンは立ち上がる。
――――――――――――――――――――――――
フウジンは逆立ちし、足を広げ、両足でウルスに回転蹴りをする。
ウルスはカグツチで回転蹴りを受け止める。
フウジンは回転を止め、腕に力を入れて縦に回転し、かかとでウルスの顎を蹴り上げながら体を起こした。
「…!!」
顎を蹴られたウルスはよろけながら後退し、倒れそうになるが、カグツチを地面に突き刺してなんとか体制を保った。
『大丈夫か?玄司!?』
「…はぁっ!!」
ウルスはカグツチの言葉を無視し、カグツチを地面から抜き、火を纏わせて火の斬撃をフウジンに飛ばした。
フウジンは腕の翼で、風を起こし、火の斬撃を打ち消した。
「フフフ…随分とお可愛い火ですこと…」
フウジンは翼で口元を隠し、ウルスを挑発するように言った。
「くっ…もっと火力を上げろ!カグツチ!!」
『ダメだ!これ以上火力を上げたらお前の体がもたない!!』
ウルスとカグツチが会話していると、フウジンが左足で回し蹴りをしてくる。
ウルスは咄嗟にカグツチで受け止めた。
フウジンは足を折り曲げてカグツチを太ももとふくらはぎで挟み込み、右足で地面を蹴り上げて、その勢いのまま右足でウルスの頭に蹴りをいれようとする。
しかし、ウルスは蹴りが当たる直前でしゃがみ、ギリギリで蹴りを回避して、カグツチに絡みついたフウジンを放り投げた。
「うっ…」
フウジンは地面に叩きつけられた。
「フフフ…楽しくなってきましたね…では、そろそろ本気を出させていただきます…。」
フウジンはゆっくり立ち上がりながらそう言った。
――――――――――――――――――――――――
「はああああああああっ!!!」
レオンは手に輝石を纏ってライジンに殴り掛かる。
ライジンは高速移動してレオンの背後に回り込み、レオンに蹴りをいれようとする。
しかし、レオンは自分の背後の地面から輝石の壁を生やし、ライジンは壁に打ち上げられた。
「ぐっ…」
ライジンは地面に倒れ込んだ。
「今なら…行ける!!」
レオンはユーティライザーのレバーを起こして再び倒し、倒れているライジンに向かって走り出す。
《リローディング》
《クリエイトフィニッシュ》
「はあああああああああああっ!!!!!」
レオンは飛び上がり、ライジンに向かってキックをする。
あと少しでキックが直撃するその時、ライジンに雷が落ちた。
「うわああああぁぁぁぁっ!!」
レオンはその衝撃で吹き飛んだ。
雲から落ちた雷は消えずにそのまま残り、徐々に形を変化させ、そして巨大な龍になった。
「えっ!?龍!!?」
――――――――――――――――――――――――
フウジンは腕の翼を畳み、風に包まれた。
そして風を体の中に取り込み、巨大な鳥、ハヤブサになって翼を広げた。
「なっ…!?」
ハヤブサになったフウジンを見てウルスは唖然とした。
――――――――――――――――――――――――
「あれは…フェーズ2のマテリアスだけがなれる、怪獣態…!!」
咲来は、龍とハヤブサになったライジンとフウジンを見て驚いた。
「グオオオオオオオオオッ!!!」
龍が雄叫びを上げると、辺り一面に雷が降り注ぐ。
レオンは腕を上げ、輝石で自分の上に壁を作って防ごうとする。
しかし、輝石は生まれず、レオンは雷の雨を何発も食らった。
「えっ!?うあああああああああああああっ!!!!」
「零音!!キャッ!!」
レオンを心配する咲来の近くにも雷は落ちた。
「ハァ…ハァ…うっ…」
うずくまっているレオンは龍の尻尾に巻き付かれ、体に電撃を流された。
「ぐあああああああああああああ!!!!」
レオンはもがき苦しんだ。
龍は、レオンを尻尾で空中に投げ飛ばし、口を開いて口の中に電撃をチャージし始めた。
そして、空中に浮かんでいるレオンに向かって口から電撃砲を放った。
レオンは電撃砲に飲まれ、その姿は見えなくなった。
「!?れおおおおおおおおん!!!!!」
咲来は絶叫した。
電撃砲を放ち終わると、強制変身解除で人間の姿に戻った零音の姿が見えた。
その姿はボロボロで、黒焦げになっていた。
零音はそのまま空中から地面に落下した。
――――――――――――――――――――――――
ウルスはハヤブサに斬りかかろうとするが、ハヤブサが翼を羽ばたかせると、強風が起きた。
ウルスはあまりの強風にカグツチから手を放してしまい、カグツチは強風で吹き飛んだ。
『玄司いいいいぃぃぃぃ!!!!』
ウルスは、カグツチと意思疎通が取れなくなったことにより強制変身解除され、人間の姿に戻った。
「はっ…!?くっ…!うおおおおおお!!!」
玄司は変身解除されたことに戸惑うが、すぐにハヤブサに殴り掛かる。
しかし、生身の攻撃はハヤブサにはまったく効いていなかった。
ハヤブサは容赦なく生身の玄司に突っ込む。
「うぐっ…!!」
ハヤブサは玄司の腹に翼をひっかけ、そのまま垂直に上空に飛び上がる。
そして玄司を上空に放り投げた後、玄司の真上から翼を羽ばたかせ、強風を起こした。
強風を受けた玄司は、上空からものすごい勢いで落下し、地面に打ち付けられた。
「がはっ…!!!!」
背中を強く打った玄司は、口から血を噴き出し、白目を剥いて気絶した。
――――――――――――――――――――――――
「玄司くーーーーーん!!!」
その様子も見ていた咲来は再び絶叫した。
「そんな…」
咲来は絶望し、膝から崩れ落ちた。
しかし、今自分にできることはなにかを考え、すぐに立ち上がり、倒れている零音のもとに走った。
「ん…しょっ…」
咲来は倒れている零音を背中におぶった。
そして今度は倒れている玄司のもとに向かう。
「ん?なんだあいつは。」
龍から怪人態に戻ったライジンは、咲来に向かって手から電撃を放った。
「キャアアアアアアアッ!!!」
しかし、電撃は突然軌道が曲がり、咲来には当たらず、地面に着弾した。
「ん!?」
ライジンは咲来に向かって何発も電撃を打ち込んだ。
それでもすべての電撃が咲来を避け、地面に着弾する。
「なぜだ!?なぜ攻撃が当たらない!!」
しゃがみこんでいた咲来は立ち上がり、再び玄司の方へ向かう。
「ライジン、ここは見逃しましょう。」
瞬間移動したフウジンが、ライジンの横に現れた。
「なぜだ!?もう少しで殺せるんだぞ!!」
「『殺せ』という指示はでていません。」
「…ちっ!」
ライジンは納得していない様子だったが、攻撃をやめた。
咲来は玄司を右腕に抱きかかえ、左手にカグツチを持ち、零音をおぶって必死に歩いて嵐野市から脱出した。
「ハァ…ハァ…二人とも…死なないで…!!」