第7話 恋のキューピット大作戦
今日は7月20日。あと二日で夏休みが始まる。
虹林南高校2年1組の教室。
昼休み中の教室には零音、明日流、紫絵理はおらず、かおる、杏樹、斗馬が三人で会話しており、大護は一人でイヤホンをつけて音楽を聴いている。
「…暇だな。」
「ひまー、オリペン面白い話してー。」
「いや無茶ぶりだなおい!」
かおる、杏樹、斗馬は暇そうにしていた。
「そうだ!この前会った変なおじさんの話――」
「あ!うち面白い話あるー!」
「おっなんだ?」
「聞けやあああああああああ!!!」
斗馬は杏樹に勢いよくツッコんだ。
「いいんちょーがね…零音くんのこと好きかもしれないんだよ…!」
「ええええっ!まじか!!あの委員長が!?」
「またまたご冗談を~。」
かおると斗馬は信じなかった。
あの冷徹な紫絵理が人を好きになるなど、ありえない話だった。
「ほんとだよ!うち、いいんちょーの後をつけてみたの!」
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「はい、没収します。学校におもちゃを持ち込まないでください。」
「委員長ーー!!返してーー!!」
6月19日。紫絵理が零音からおもちゃを没収した後、杏樹は紫絵理の後を追いかけていた。
紫絵理は生徒会室に入った。
生徒会室の中には紫絵理以外誰もいなかった。
「伊武さんのおもちゃ没収しちゃった…!どうしようどうしよう…!」
紫絵理は一人でソワソワしていた。
「こうやって遊ぶのかな…?」
そして、おもちゃの変身ベルトを腰に巻き始めた。
「こうして…変身!って――」
「なにしてるのー?」
生徒会室の外からこっそり見ていた杏樹は居ても立っても居られなくなり、生徒会室の中に入った。
「ふぇっ!!!!!か、笠井さん!!!????」
紫絵理は驚き、跳ね上がった。
「今おもちゃで遊んで――」
「いや!あの…これ…はですね…!そのー…没収したものがどんなものか報告しないといけなくてですね!!そのチェックで…」
「ハハーン…なるほど~。」
杏樹はニヤニヤしながら顎に手を当て、考え事をし始めた。
「バイバーイ。」
と思いきや、杏樹は手を振って生徒会室を出た。
「あ、笠井さん!!このことは誰にも言わないでください!!」
「うん!わかったー!」
紫絵理は廊下をスキップしている杏樹に向かってそう言い、杏樹は空返事をした。
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「まじか…委員長が零音のおもちゃで…。」
「…それで、なんで零音のことが好きってことになるんだ?」
斗馬は疑問に思った。
「察しろ斗馬…女の恋ってのはな…そういうことなんだよ…。」
かおるは怪しい表情をしながら斗馬に言った。
「うーん…いや意味わからん意味わからん。」
斗馬は手と首を同時に振った。
「鈍いやつだなぁ、そんなんだから彼女できねぇんだよ。」
「そーだそーだ!」
「いや関係ねぇだろ!」
斗馬は少し怒った。
「そうだ!来月の夏祭り、あの二人をくっつけようぜ!!」
「さんせーい!!かおるちゃん天才!」
「そんな天才だなんて…エヘヘヘ」
かおるはまるでいつもの怖い顔が溶けたかのようにものすごい笑顔になった。
「よし、作戦名は<零音おったまげ!委員長ドキドキ!恋のキューピット大作戦>だ!!」
かおるは腰に手を当て、自信満々に作戦名を発表した。
「いや作戦名ださ。」
斗馬はボソっと呟いた。
数分後…
零音と明日流、紫絵理は教室に戻ってきた。
「なぁみんな!来月の夏祭りみんなで行こうぜ!!」
「いいね!行こう行こう!」
「夏祭りかぁ。しばらく行ってないなぁ!」
かおるの誘いに零音と明日流は応じた。
「よし、じゃああたしと零音と明日流と杏樹と斗馬と大護で…うーんもう一人欲しいな~。」
かおるは白々しく言った。
「いいんちょー!一緒に夏祭り行こー!」
杏樹は本を読んでいる紫絵理に話しかけた。
「え…?私がですか…?」
紫絵理は突然の誘いに困惑した。
「いいじゃん!行こうよ!委員長!」
零音も紫絵理も誘った。
「…考えておきます。」
紫絵理はそれだけ言って、再び本に目を向けた。
かおるはニヤニヤしながら親指を立てた。
それに対して杏樹はキツネの影絵のポーズをした。
「はぁ…」
斗馬は一人、ため息をついた。
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そして夏休みが始まり、二週間が経過した。
8月2日。夏祭り当日。
屋台が並ぶ祭り会場には、太鼓や笛の音が鳴り響き、多くの人で溢れかえっている。
祭り会場の入り口で、零音、明日流、斗馬、大護の男子チームは、女子チームがくるのを待っていた。
「お待たせ~!!」
かおる、杏樹、紫絵理の女子チームが祭り会場に来た。
3人は浴衣を着ている。
「お~浴衣!すごいな!」
明日流は3人を見て驚いた。
「でしょー!ほら!いいんちょーも!」
杏樹は、二人の陰に隠れてもじもじしている紫絵理を前に押し出した。
「え!?…あ…」
「おお!委員長!浴衣似合ってるよ!!」
零音は紫絵理の浴衣姿を見て言った。
「え…!?そ…そうです…か?」
紫絵理は顔を赤らめた。
その様子を見ているかおると杏樹はニヤニヤしていた。
「さて、花火があがるまで屋台まわるよ!私と杏樹。明日流と斗馬と大護。零音と委員長のチームで別行動。花火が上がり始めたら中央で集合な~。」
「え?なんで別行動…」
「い、いいからいいから!」
疑問を持つ明日流の腕を斗馬は引っ張って、祭り会場に入っていき、大護はそれについていった。
「じゃあ、零音!委員長!楽しめよ!」
「あとでねー。」
かおると杏樹も祭り会場に入っていった。
零音と紫絵理は二人、入り口に残された。
「じゃあ、委員長!行こうか!」
「は…はい…行きましょう。」
零音と紫絵理も祭り会場に入った。
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祭り会場近くの駐車場。
隅で一人で線香花火をしている男がいた。
「はぁ…俺にも友達とか彼女がいれば祭り楽しめるのになぁ…」
男は線香花火の火を見つめながら呟いていた。
「綺麗ですね、線香花火。」
そんな男の後ろに仮面をつけた男が現れた。
「え?そ、そうですね…」
「もっと綺麗な花火でお祭りを盛り上げていただけませんか?」
仮面の男は地面に置いてある袋から小さい打ち上げ花火を取り出し、リブ細胞と融合された。
リブ細胞はコアとなり、赤色に光り始めた。
「は?」
花火をしている男は線香花火を持ったまま立ち上がった。
すると仮面の男は、花火をしている男にコアを埋め込んだ。
「うっ…!!??あああああああああ!!!!!」
花火をしている男の体はマテリアスに変化し、持っている線香花火は燃え尽き、地面に落ちた。
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大護は屋台で射的をしていた。
「えいっ!」
景品に向かってコルクを撃った。しかし、三発すべて景品に当たることはなかった。
「はいざんね~ん。」
「貸せ、大護。おっちゃん!俺もやるぜ!」
明日流は大護からコルク銃を受け取り、お金を屋台のおじさんに渡した。
そして景品を狙い、撃った。
コルクは三発すべて景品に当たった。
「おめでと~!お兄ちゃんすごいねぇ!!」
「ふっ…!どうだ大護!」
明日流はおじさんから景品のお菓子を三つもらいながら言った。
「す、すごいですね、明日流くん!」
大護は軽く拍手した。
「斗馬もやるか?」
「え?あ、ああ…」
(あいつら…うまくやってるかな…)
斗馬は零音と紫絵理のことを考えていた。
一方、かおると杏樹は斗馬と同じことを考えていた。
「零音くんといいんちょーイチャイチャしてるかな!」
杏樹はヨーヨーを手でつきながら言った。
「零音のことだからな~。今頃おもちゃでも狙ってくじ引いてるかもしれねぇな…」
かおるはわたあめを食べながら言った。
「おじさん!もう一回!!」
かおるの予感は的中していた。
零音は景品のおもちゃを狙ってくじ引きをしていた。
零音は引いたくじをめくった。
「はい、5番~残念賞!」
「くっそぉ…もう一回!!」
「あの…伊武さん、そろそろ他の屋台に…」
零音と紫絵理の後ろには子供たちの列ができており、紫絵理は列を気にしながら言った。
「もうちょっとだけ!ストロングマンブラザーズの新しいおもちゃ!母ちゃんが買ってくれないからここで当てるしかないんだ!!」
かおると杏樹はそんな零音を発見した。
「やっぱりか…おい。」
かおるは零音のケツを蹴った。
「いて!かおる!なにすんだよ!」
「委員長を退屈させんなよ!」
「え?」
零音は紫絵理が困った顔をしているのに気づいた。
「あ…ごめん委員長!」
「わ、私は別に構いませんが…」
「しっかりしろよ零音。」
「しっかりしなー。」
かおると杏樹はそう言って別の屋台に行った。
「…なにをしっかりするんだ…?」
零音は二人の言葉が理解できず、首を傾げた。
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「この力があれば…リア充どもを爆破できる…!!」
祭り会場に花火のマテリアス、ファイヤーワークマテリアスは接近していた。
ファイヤーワークマテリアスは祭り会場に向かって腕についている砲台を構えた。
「はっ…!」
しかし、そこに玄司が駆け付け、ファイヤーワークマテリアスの腕をカグツチで斬りつけた。
「ぐあああああっ…!!誰だお前!邪魔するな!」
「弟子の夏休みだ…お前が邪魔をするな。」
玄司はマガジンを起動し、鞘に納刀したカグツチにセットした。
《ブレイブファイヤー》
『ローディング!』
そしてカグツチを抜刀し、カグツチから火の狼が飛び出した。
『イグニッションライズ!』
火の狼はファイヤーワークマテリアスに噛みついた。
「いででででで!!」
火の狼は玄司のもとに戻り、玄司は火の狼を斬った。
『リバイトウルス ファイヤー アクティブ!』
玄司はリバイトウルスに変身した。
変身完了したタイミングでウルスの背後で花火が打ち上がった。
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「お、花火始まった!中央に行こう!委員長!」
「はい…!」
零音たちは中央で合流した。
「よっ!花火始まったなぁ。」
「今年は量多いらしいからな!楽しみだな!」
かおると明日流は花火を見上げながら話した。
「綺麗だね。委員長。」
「…!!そうですね…」
零音と紫絵理も花火を見上げた。
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「はぁっ!」
花火がたくさん打ち上がる中、ウルスとファイヤーワークマテリアスは戦う。
ファイヤーワークマテリアスは腕の砲台から花火玉を発射する。
ウルスは花火玉を真っ二つに斬った。
花火玉はウルスの背後で爆発する。
爆音は、空に打ち上がっている花火の音に紛れているため、会場にいる人たちは戦闘に気づかない。
「オラオラオラ!!」
ファイヤーワークマテリアスは大量に花火玉を発射する。
ウルスは回避しながらファイヤーワークマテリアスに近づく。
「ふっ!!」
そして、火を纏ったカグツチを振り下ろし、ファイヤーワークマテリアスを斬りつけた。
すると、ファイヤーワークマテリアスの頭のてっぺんに生えている導火線に火が付いた。
「ぎゃああああああ!!!うっ…」
『…へっへっへ…火をつけてくれてありがとよ…』
ファイヤーワークマテリアスの声色が変わった。
そしてファイヤーワークマテリアスはウルスに抱き着いた。
「…っ!!コアの意志か…」
『俺の体はまもなく爆発する…!』
「え!?なんだそれ!?どうなってんだ!」
人間の意志の方は困惑した。
『貴様もろとも自爆してやる!!』
「やめてくれえええええええ!!!」
「そう言って人間を脅してフェーズ2になるつもりか…コアが破壊されない限り、自爆してもお前は体を復元できるからな!」
ウルスはファイヤーワークマテリアスの腹を斬り、ファイヤーワークマテリアスはおもわずウルスから離れた。
導火線の火は消えず、着々と自爆の瞬間は迫ってくる。
ファイヤーワークスマテリアスが自爆すると人間は死の恐怖によって意志が弱まり、フェーズ2になってしまう。
ウルスはマガジンを押し込んだ。
『リローディング!』
そしてウルスはトリガーを押し、ファイヤーワークマテリアスの目の前に近づいた。
『狼刀 焔斬り!』
「はぁっ…!!」
ウルスは下から斬り上げ、ファイヤーワークマテリアスを人間とコアに分離した。
『ぐああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
ファイヤーワークマテリアスのコアは打ち上がり、上空で巨大な花火となって爆発した。
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「「おおおおおおおお!!」」
会場から歓声が上がった。
「たーまやー!」
杏樹は空に向かって叫んだ。
「ん?花火一発多くないか?」
祭りの実行委員は疑問に思い、そう呟いた。
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ウルスはカグツチを納刀し、変身解除した。
玄司は祭り会場に背を向け、その場を後にした。
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(今だったら言ってもいいかな…?)
「あの…私…伊武さんにずっと言いたくても言えなかったことがあるんです…。」
紫絵理は顔を赤らめ、うつむきながら言った。
(!?きたああああああああ!!!)
かおるは心の中で叫んだ。
「ん?なになに?」
零音は紫絵理の方を向いた。
「じつは私…す…す…」
かおると杏樹と斗馬は期待の目で紫絵理のその発言を心待ちにした。
そして、紫絵理は口を開いた。
「ストロングマンブラザーズが!!!好きなんです!!!!!」
「「「え?」」」
まさかの発言に三人は唖然とした。
「まじでえええええ!!!委員長もストロングマンブラザーズ好きだったの!!??」
「そうだったのか!」
零音と明日流は喜んだ。
「一番好きなキャラは?」
「…ストロングマンです…。」
「やっぱりストロングマンだよね!!」
「俺はパッションマスク派だな~。」
零音と明日流と紫絵理はストロングマンブラザーズの話で盛り上がった。
「あたしたち…なんのために頑張ってたんだ…?」
「ほら見ろ…恋でもなんでもねーじゃねぇか…」
「これはこれでいいんじゃなーい?」
かおる、斗馬、杏樹による<零音おったまげ!委員長ドキドキ!恋のキューピット大作戦>は失敗に終わった。
こうして2034年の夏祭りは幕を閉じた。
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虹林県嵐野市。
「本当にここで待ってればくるのか?」
「アダム様が仰っていました。間違いありません。」
雷が鳴り響き、強風が吹く夜の暗闇。
ビルの屋上に二つの影があった。
「早く来いリバイトレオン…俺が…痺れさせてやる。」
「フフフ…」