第6話 折り鶴の恩返し
虹林南高校2年1組の教室。
昼休み中、杏樹は折り紙を折っていた。
「なにやってんだ?杏樹っち。」
そんな杏樹にかおるは声をかける。
「折り紙ー!千羽鶴折ってるのー!」
杏樹は大量に作っている鶴の一つを持ってかおるに見せつけた。
「なんだ、誰か入院でもしてんのか?」
「ううん、作りたいだけー!」
「…相変わらず自由奔放だなぁ。お前は。」
かおるは杏樹の自由さに苦笑いした。
「あ!!でっかい鶴!」
杏樹は突然叫んだ。
「あ?どれも同じ大きさじゃねぇか。」
かおるは杏樹の机の上に置かれた大量の鶴を見て言った。
「違う違う。あれー。」
杏樹は窓の外を指さした。
「は!?なんだあれ!?」
かおるも窓の外に目を向けると、そこには目を疑う光景が広がっていた。
窓から見える町の上空に、巨大な白い折り鶴が浮かんでいたのだ。
明日流と話していた零音は、かおるの大声が気になり、窓の外を見た。
「!?あれは!!」
巨大な折り鶴に気づいた零音は窓に近寄った。
(マテリアスだ…!!)
零音は慌てて教室を出た。
「おい、零音!どこ行くんだよ!もうすぐ昼休み終わるぞー!」
明日流は零音に向かって言うが、その声は零音には届かなかった。
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「ハァッ…ハァッ…変身!」
《ユーティライズ》
《リバイトレオン クリエイト アクティブ》
零音は町に出て、走りながらリバイトレオンに変身した。
そして輝石で階段を作り、上空の折り鶴の付近まで登り、階段の先端で飛び上がった。
「はああああああああああっ!!」
折り鶴の真上まで飛び上がったレオンは、折り鶴にキックした。
レオンは折り鶴ごと地面に落下した。
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一方教室では…昼休みが終わり、国語の授業が始まっていた。
「おい、伊武どこ行った。」
「えっと…保健室です…。」
明日流は国語の教師に嘘をついた。
杏樹は窓の外の折り鶴が地面に落下するのを見ていた。
「あ、鶴落ちた。」
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「いって~!」
地面に落ちた折り鶴は、ペチャンコになり、声を発した。
「やっぱりマテリアスか!」
巨大折り鶴の正体は紙のマテリアス、ペーパーマテリアスだった。
「ひぃっ!やめてくれ!!殺さないで~!!」
ペーパーマテリアスは折り鶴の状態から一度一枚の紙になり、体をパタパタと変形させて人型になった。
そして人間の姿に戻り、うずくまった。
「え?あ、いや…。」
レオンは変身解除した。
「殺さないよ!大丈夫大丈夫!」
零音はうずくまっている男を落ち着かせた。
「え?ほんとに…?」
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零音と男は、河川敷に移動し、体育座りして夕日と川を眺めながら会話した。
「僕は伊武 零音。」
「俺は神木 依折っす。」
神木 依折は高校1年生の青年だ。
「なんで折り鶴になってたの?」
「俺の親父…癌で入院してるんすけど…手術しても助かる可能性は低いって…だから病室にいる親父を少しでも笑わせたくて、病室の窓から見える位置で折り鶴に…」
神木は下を向いて悲しそうな顔をした。
「そうだったんだ…。ごめん!突き落としちゃって!」
零音は両手を合わせて謝った。
「いいっすよ…たしかにいきなりあんな巨大な折り鶴が現れたら怪しいっすもんね。」
「どうして直接お見舞いに行かないの?」
「親父と会うのが気まずくて…俺、いつも親父に反抗して迷惑ばかりかけてて…お袋が死んでから男手ひとつで俺を育ててくれてるのに…だから会うのは気まずいけどなにか恩返しをしたくて…」
「…。」
零音は神木の話を真剣な表情で聞いていた。
「…僕の父は、僕がまだ小さいころに死んじゃったんだ。」
零音はうつむいて呟いた。
「…え?」
「星戸府消滅…あの日、父はファルブロスに殺された。」
零音は父親について咲来に聞いた日のことを思い出した。
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10年前、6歳の零音は咲来にあることを聞いた。
「母ちゃん。なんで僕には父ちゃんがいないの?」
「んー?急にどうしたの?」
「学校のみんながお父さんの話してた。」
咲来は暗い表情になった。
「そっかぁ…零音、あなたの父ちゃんはね。あなたがもっとちっちゃかったころに死んじゃったんだ。」
「え!?」
「星戸府消滅…あの日父ちゃんは星戸府にいた。」
「せいとふしょうめつ…?ってなーに?」
「2年前、ファルブロスっていう未確認生命体が星戸っていう府をそこにいる人ごと消滅させたの。」
「みかくにんせいめいたい…?」
「簡単に言うと怪物よ。」
「怪物!?」
「そう、父ちゃんは怪物…ファルブロスに殺された…!!」
咲来はポケットから白いお守りを取り出し、強く握りしめた。
「私はファルブロスを絶対に許さない…!!」
「…母ちゃん??」
いつも優しい顔をしている咲来が珍しく顔をしかめたため、零音は少し怖がった。
「あっ…ごめんごめん!怖かったね!」
咲来は零音の頭を撫でた。
「ねぇねぇ、父ちゃんはどんな人だったの?」
「え?そうね…父ちゃんは…どんな理不尽な目にあっても決してやり返さない、優しくてかわいい人だったよ!」
「父ちゃんかわいかったの!?」
「うん!とっても!」
「へ~!!」
零音と咲来は笑い合った。
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「そうだったんすか…。」
「うん、だから一緒にいた記憶もまったくないんだ。僕は父ちゃんに一回会ってみたい。でももう会えない…。」
零音は立ち上がった。
「僕の場合はどうしようもないけど、神木くんはまだ間に合う!お父さんに会ってあげなよ!」
「…わかりました!俺、親父に会います!」
そして神木も立ち上がった。
「ところで、いつから紙の体になれるようになったの?」
「ああ…それなんすけど…親父が助からないかもしれないって聞いて絶望してたとき、目に仮面をつけた白い髪の人に体になんかされて…それからこうなりました。」
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「そしたら仮面をつけた男に怪物にされたんです。」
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(また仮面の男が…。)
零音はシザースマテリアスだった男の発言を思い出し、心の中で思った。
「神木くん。お父さんに会う前に、君の体は今危険な状態なんだ。」
「え!?俺が!?」
「そう、だから一回…」
「うぐっ…!!」
すると突然、神木は苦しみだした。
「神木くん!!」
『フッフッフ…そろそろ満足しただろ?』
「なんだ!?誰だ!?誰の声だ!!??」
神木から別人の声が出始め、神木は困惑した。
コアの意志だ。
『ハッハッハ…お前の親父を殺して完全に体を乗っ取ってやる!』
「親父を…!?やめろ…!やめてくれえええ!!」
神木の体はペーパーマテリアスに変貌し、体を紙飛行機に変形させ、空を飛び始めた。
「そうはさせない!神木くんと、神木くんのお父さんの未来は、僕が守る!!」
零音はユーティライザーを腰に巻き、マガジンを起動してセットした。
《ジャスティスクリエイト》
《ローディング》
零音は変身ポーズをとった。
「変身!!」
《ユーティライズ》
《リバイト レオン クリエイト アクティブ》
零音はリバイトレオンに変身した。
「ふんっ!!」
レオンは右手に輝石を纏い、空中にいる紙飛行機に向かって伸ばした。
そして輝石の先端をマジックハンドのように変形させ、紙飛行機をつまんだ。
『ぬぅっ!?』
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
レオンは輝石を右手から分離して、その長太い輝石を両手で持って振り回した。
「おりゃあああああ!!」
そしてその勢いのまま、紙飛行機ごと輝石を地面に叩きつけた。
輝石は粉々に砕けた。
『ぐああああっ!!ちくしょうっ!!』
ペーパーマテリアスは、手裏剣に変形して、回転しながらレオンに突撃した。
「うわっ!!」
レオンは寸前で避けたが、手裏剣は背後から再びレオンに突っ込んでくる。
レオンは輝石で刀を生成し、受け止めた。
手裏剣は高速で回転し、火花が散った。
「ああっ!!」
レオンはなんとか受け流し、手裏剣は地面に突き刺さった。
(鉄みたいに硬い…紙ってこんなに硬くなるのか…)
「はああああああああっ!!」
地面に突き刺さった手裏剣にレオンは斬りかかった。
しかし手裏剣は一枚の紙に変形し、攻撃をかわした。
「あれ…?」
そして次はパックンチョに変形して、レオンの全身に嚙みついた。
「うわああああああああっ!!!」
パックンチョはレオンを咥えたまま、空中に浮かび上がった。
「くっそぉ…」
レオンはパックンチョの口の中でレバーを上げた。
《リローディング》
「うああああああああああっ!!」
レオンは力を込めて、パックンチョの口をこじ開けて脱出した。
そして左手でレバーを倒し、輝石の刀にエネルギーを溜めた。
《クリエイトフィニッシュ》
「これで終わりだ!!」
レオンは空中で回転斬りし、パックンチョを斬り裂いた。
『ぐああああああああああああああっ!!!』
レオンは地面に着地し、ペーパーマテリアスは空中で爆発した。
そして空中から落ちてきた神木をキャッチした。
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数日後、2年1組の教室。
「千羽目できたー!!」
杏樹は千羽鶴を完成させた。
「よく一人で作ったなぁ。」
かおるは千羽鶴を見て感心した。
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「だから病室にいる親父を少しでも笑わせたくて、病室の窓から見える位置で折り鶴に…」
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「そうだ!!杏樹!その千羽鶴ちょっと貸して!」
零音は神木の発言を思い出し、杏樹に両手を合わせて頼んだ。
「いいよー。なにに使うのー?」
「みんなも手伝って欲しいんだ!」
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虹林県立中央病院のとある病室。
神木はマテリアスになった反動で入院し、ベッドに座っていた。
「お父様の手術は成功しました…!」
「ほんとっすか!!」
先生が神木にそう伝え、神木は喜んだ。
「依折さんもよくなったらお父様に会ってあげてください!」
「…はい!!!」
神木は大きく返事した。
先生は病室から出ていき、神木は安心した表情で窓の外を見た。
「ん?」
すると突然空から一羽の折り鶴が降ってきた
「なんだなんだ!!?」
降ってくる折り鶴はどんどん増えていき、様々な色の大量の折り鶴が空から舞い降りてくる。
神木は唖然とした。
「それぇっ!!」
病院の屋上で零音たちは、杏樹が折った千羽鶴を下に落としていた。
「うちがせっかく折った千羽鶴~!!」
杏樹はいじけていた。
「ごめん杏樹!あとで全部拾うから!!」
零音は折り鶴を落としながら杏樹に謝った。
「あとで病院の人に謝らないとですね…。」
後ろで見ている大護は苦笑いした。
「おらっ!ほんとに見えてんのか?これ。」
明日流は折り鶴を落としながら零音に聞いた。
「きっと見えてるよ!!」
零音は微笑みながら、さらに折り鶴を落とす。
(笑ってくれてるかな…?神木くん。)
「ふっ…はははは!」
神木はその美しく、おかしな光景に笑った。