第5話 赤色の火
「うわあっ!!」
とある日の朝。住宅街で赤い姿の、マグネットマテリアスと戦闘中のレオン。
レオンはマグネットマテリアスに殴られ、吹き飛んだ。
「痛ってぇ~。」
すると、苦戦しているレオンのもとに玄司が駆け付けた。
玄司はマガジンを起動した。
《ブレイブファイヤー》
そしてカグツチの柄の先端にセットした。
『ローディング!』
和風な待機音が流れ始める。
玄司はカグツチの柄を握り、腰を落として抜刀した。
『イグニッションライズ!』
カグツチの剣先から火の狼が飛び出す。
「うお危なっ!」
「ぐああっ!」
レオンは後ろから接近する火の狼を避け、火の狼はそのままマグネットマテリアスに激突した。
火の狼は振り返り、玄司に接近する。
「ふっ…!!」
玄司はカグツチを振り下ろし、火の狼を斬った。
真っ二つになった火の狼は形を崩し、刀に巻き付き、そのまま玄司に燃え移った。
そして火は赤い鎧となり、玄司の姿が変化していく。
『リバイトウルス ファイヤー アクティブ!』
カグツチが変身完了音を叫び、玄司はリバイトウルス ファイヤーフォームに変身した。
「師匠!助けに来てくれたんですね!じゃあ"アレ"、やりましょう!」
レオンはウルスのもとに駆け寄り、横に並び立った。
「人々を脅かす悪の手先よ!刮目せよ!!」
「…。」
レオンはマグネットマテリアスを指さして叫ぶが、ウルスは無言で走りだした。
「って…、ちょっと!続き!『覚悟しろ!』って言ってくださいよ~!!」
ウルスはレオンを無視し、マグネットマテリアスに斬りかかった。
マグネットマテリアスは右腕でガードした。
「たぁっ!!」
ガードして動けないマグネットマテリアスの腹にレオンはパンチをいれた。
「ぐぉおおっ!!お前ら2対1なんて卑怯だぞ!!」
「確かに!これって卑怯ですよね?」
「馬鹿か、さっさと分離するぞ。」
敵の言葉に納得してしまうレオンを適当にあしらって、ウルスは再びマグネットマテリアスに斬りかかる。
マグネットマテリアスは周辺の金属をかき集め、防御するが、ウルスはすべて切り捨て、マグネットマテリアスのボディを何度も斬りつけた。
「ぐああああっ!!クッソ~…ん?」
マグネットマテリアスは、逃げ遅れた女性が壁に隠れて戦闘を見ていたのに気づいた。
「へっへっへ…来い!」
「キャァッ!!」
女性は身に着けていた金属のせいでマグネットマテリアスに引き付けられ、捕まってしまった。
「てめぇら動くな!この女がどうなってもいいのか!?」
「人質!?お前のほうが卑怯じゃないか!クソ…どうしよう…。」
レオンはなにもできず、立ち尽くしていた。
しかし、ウルスはまったく動じず、マグネットマテリアスのほうに向かって走り出した。
「え!?師匠!!人質がいるんですよ!!」
「イヤアアアアアアアア!!」
人質の女性は、ウルスが止まらないため、身の危険を感じて叫んだ。
「!?お、おい!!止まれ!この女がどうなっても…」
ウルスは飛び上がり、マグネットマテリアスを飛び越えて背後に着地し、マグネットマテリアスの背中を斬った。
「ぐおっ!!!」
マグネットマテリアスは手を放し、女性は倒れ込んだ。
「大丈夫ですか!?早く逃げて!!」
「は…はい…!!」
レオンは女性を起こし、逃がした。
ウルスはカグツチの柄からはみ出しているマガジンを押し込んだ。
『リローディング!』
倒れ込んだマグネットマテリアスにウルスはトドメを刺そうとする。
「オラァ!!」
「っ!?くっ…!!」
しかし、突然青いマグネットマテリアスが現れ、ウルスは殴り飛ばされる。
「マテリアスがもう一体!?」
レオンは突然のことに驚いた。
「遅えぞ曲末!!」
「わりぃわりぃ兄貴!」
赤いほうのマグネットマテリアスは立ち上がった。
「磁石のマテリアス…N極とS極か…。」
ウルスは敵の能力を考察した。
赤い方はマグネットマテリアスN、青い方はマグネットマテリアスSだ。
「兄貴!あれ、いっちゃいますか!」
「よーしいくぜぇ!!」
マグネットマテリアスNは周りにある金属のものをかき集め、大きな塊にした。
塊はN極の磁力を帯びている。
「オラァ!!」
そして、マグネットマテリアスSがその塊を殴ると、反発し、ものすごい勢いで塊が二人のもとに飛んでくる。
「はっ!?うわああああああああっ!!!」
「ぐっっ…!!!」
二人は避けきれず、塊に激突し、かなり吹き飛ばされた。
あまりのダメージに二人は強制変身解除してしまった。
「はっはっは!吹っ飛んだぜ!」
「兄貴!そろそろ帰りましょうぜ!」
「ああそうだな!満足した!」
二体のマテリアスはどこかへ去って行ってしまった。
「くっ…取り逃がしたか…。」
「ちょっと師匠!!」
立ち上がった玄司に零音は詰め寄った。
「人質がいるのにどうして止まらなかったんですか!?もしあの人になにかあったらどうするつもりだったんですか!!」
「やつは初めから人質を殺すつもりはなかった。人質というのは生きているから盾として機能する。人質を殺すという行為は自ら盾を捨てるということだ。」
玄司は零音と目を合わせず、カグツチを鞘に収めながら言った。
「そうとは限らないじゃないですか!!」
「それに、大人が一人死んでも俺にとってはどうでもいい。」
「え?」
玄司は背を向け、歩き始めた。
「…僕、弟子やめます!自分の力で、あなたより強くなってやる!」
「…。」
玄司は何も言わずにどこかへ歩いていってしまった。
――――――――――――――――――――――――
「そっかぁ…そんなことが…。」
「ほんと信じられないよ!!」
家に帰ってきた零音は、咲来にさっきの出来事を愚痴っていた。
「それで、弟子やめちゃったの?」
「やめたよ!あんな人、師匠でもなんでもない!」
零音はクッキーをバリバリとやけ食いしながら言った。
「そういえば玄司さん、『大人が一人死んでもどうでもいい』って言ってたなぁ…どういうことなんだろ。」
「あ~、またあの子の大人嫌いが発動したか。」
「大人嫌い?」
「玄司くんはね、大の大人嫌いなの!ほんと大人は人として見てないって感じ!」
「へ~どうしてそんなに大人が嫌いなの?」
「詳しくは話してくれないからわからないんだけど、親との関係がうまくいってなかったらしいのよねぇ~。」
咲来はクッキーをボリボリ食べながら答えた。
「それじゃあ玄司さんはなんのために戦ってるんだろう…?」
「…玄司くんはね…妹をマテリアスに殺されてるの。氷のマテリアスに。」
「え…!?」
零音は玄司の過去の発言を思い返した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ようやく見つけたぞ!氷のマテリアス!!」
「お前の能力が俺の探してるやつに似てたもんでな。つまり人違いだ。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「そういえば前に氷のマテリアスを探してるって言ってたな…。」
「彼にとってマテリアスを倒すことは、己を鍛えることとしか思ってないのよ。氷のマテリスに復讐するためにね。」
「そうだったんだ…。」
零音はココアを飲み干し、コップを強くテーブルに置いた。
「よし!僕、走ってくる!僕も強くならなくちゃ!」
「いってらっしゃい。私はマグネットマテリアスの動向を調べてみるわね。」
零音は玄関から外に出た。
――――――――――――――――――――――――
「ハァッ…ハァッ…。」
零音は近所をランニングして、公園の前を通りかかった。
公園は遊んでいる子供たちで賑わっている。
「わっ…!え~~ん!!」
公園の中で一人の男の子が転び、泣き始めた。
「あっ…」
零音はそれに気づき、公園の中に入ろうとした。
しかし、別の人影が先に公園に入り、泣いている子供に近寄った。
「大丈夫か?」
その人は、玄司だった。
「!玄司さん…。」
零音はその様子を公園の外から見ていた。
玄司はポケットから消毒液と絆創膏を取り出し、男の子の膝の怪我を応急処置した。
「よし…!これでもう痛くないだろ?」
「うん…!ありがとうお兄ちゃん!!」
男の子は笑顔になった。そして玄司は笑顔で男の子の頭を撫でた。
(玄司さんが…笑ってる…!!?)
零音は初めて見る玄司の笑顔に驚きを隠せなかった。
「ねぇ!お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
「え?俺も?」
「みんなー!このお兄ちゃんも一緒に遊ぶってー!!」
「「いいよー!!」」
玄司はいつの間にか10人くらいの子供たちの輪に囲まれていた。
滑り台、鉄棒、鬼ごっこ、玄司は様々な遊びを子供たちと楽しんだ。
零音は木の陰からその様子を見てほほ笑んだ。
(玄司さん、楽しそうだな。)
「よ~ガキども!邪魔するぜ~!」
「へっへっへ!」
玄司と子供たちが遊んでいるところに、小太りした赤いジャージを着た金髪の男と、同じく小太りした青いジャージを着た金髪の男が乱入してきた。
(なんだあいつら…。)
零音は顔をしかめた。
「あっお兄ちゃん!この人たち僕たちのこといじめてくるんだ!」
「なに…?」
子供の一人は玄司の足に抱き着いた。
「おいおい、いい歳した大人が子供と遊んでて楽しいでちゅか~?」
赤いジャージの男は玄司をおちょくった。
「俺を大人扱いするな…。」
玄司は男を睨んだ。
「は?なに言ってんのこいつ。兄貴やっちゃいましょうぜ!」
「おうよ!フン!!」
すると二人の男の姿は巨大化し、赤と青のごつい姿に変貌した。
マグネットマテリアスだ。
「マテリアス!!あいつらが!?」
零音は木の陰から身を乗り出した。
「キャアアアアアアア!!」
「うわああああああああああ!!」
子供たちは怖がり、泣き叫んだ。
「みんな逃げろ!」
玄司がそう言うと、子供たちは走って公園から逃げた。
「わっ!!」
しかし、さっきの足を怪我した子供はうまく走れず、転んでしまった。
「あ~あ。逃げ遅れちゃったね~。」
マグネットマテリアスNは、転んだ子供にジリジリと歩み寄る。そして、右腕を振り上げた。
「やめろ!!ぐっ…。」
玄司が駆け寄ろうとするが、マグネットマテリアスSに殴られてしまう。
子供にマグネットマテリアスNの腕が迫るその時、零音が横から飛び入り、マグネットマテリアスNの腕を受け止め、そして腹に蹴りをいれた。
「はぁっ!!さあ、逃げて!」
「ありがとー!!」
零音は子供を起こし、子供は公園の外へ走っていった。
「なんだお前らぁ。」
「兄貴、ボコボコにしちゃいましょうぜ!」
二体のマグネットマテリアスは並び立った。
「行きましょう!師匠!!」
「…ああ。」
零音と玄司の二人も並び立った。
「すべての戦えない子供たちに代わって、お前らを倒す…!」
玄司は怒りに燃えた表情をしながらそう言った。
零音はユーティライザーを装着し、二人はマガジンのボタンを押す。
《ジャスティスクリエイト》
《ブレイブファイヤー》
二人はマガジンをセットした。
『《ローディング》!』
零音は変身ポーズをとり、玄司はカグツチの柄を握り、腰を落とした。
「変身!!」
零音は叫び、レバーを倒す。
玄司は無言で抜刀した。
《ユーティライズ》
『イグニッションライズ!』
そして玄司は飛び出した火の狼を斬った。
《リバイトレオン クリエイト アクティブ》
『リバイトウルス ファイヤー アクティブ!』
二人はリバイトに変身した。
「げっ!兄貴!こいつら今朝のやつらっすよ!!」
「おもしれぇ!もう一回ぶっ飛ばしてやらぁ!!」
マグネットマテリアスの二体は、変身した二人の姿を見て驚いた。
『こいつら、意志がコアに勝ってる。』
カグツチはマグネットマテリアスの声を頼りにそう判断した。
「だがリメインになっても大人しくしてくれないだろうな。」
「どっちみち分離するしかありませんね。はぁっ!」
お互い相手に向かって走り出し、衝突した。
レオンはマグネットマテリアスSと、ウルスはマグネットマテリアスNと戦っている。
「はあったぁっ!!」
「うぎっ!イテッ!」
レオンはSの攻撃を避けながら、パンチやキックを繰り出している。
「ふっ…!はっ!」
「オラァ!ぐほっ…!」
ウルスは投げつけられる金属の塊を斬り、そしてNの胸を斬り裂いた。
「おい、曲末、アレ行くぜ!」
「わかりやした兄貴!!」
マグネットマテリアスの二体は並び立ち、Nが金属を集め始めた。
「師匠!アレがきますよ!」
「わかってる。」
今朝、二人が強制変身解除に追い込まれた巨大な塊の攻撃だ。
ウルスはカグツチを発火させ、構える。
「できたぞぉ!!」
「くらいやがれぇ!!」
完成したN極の磁力を帯びた、巨大な金属の塊をSが殴り、塊はものすごい勢いで向かってくる。
「ふっ…!!」
しかし、ウルスがカグツチを振り上げ、塊を斜めに真っ二つに斬った。
火の熱で金属が溶け、斬りやすくなっていたのだ。
真っ二つになった塊は、ウルスとレオンの後ろにある遊具に激突し、大きな音とともに砂煙が舞った。
「!?おいおい嘘だろ!」
「兄貴!どうしましょう!!」
「今だ!!」
レオンはレバーを起こし、ウルスはマガジンを押し込んだ。
『《リローディング》!』
レオンは足にエネルギーを溜め、ウルスはカグツチにエネルギーを溜めた。
「はあああ…はっ!!」
レオンは飛び上がり、空中でレバーを倒した。
ウルスはカグツチのトリガーを押した。
《クリエイトフィニッシュ》
『狼刀 焔斬り!!』
「はあああああああああぁぁぁっ!!!」
「ぐああああぁぁ!!!!」
レオンのキックはSに直撃し、Sは爆発した。
「はぁっ…!」
ウルスは爆炎の中から飛び出し、Nを斬った。
「ぐおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」
そして、Nも爆発した。
――――――――――――――――――――――――
「マグネットマテリアス…近所で有名な悪ガキだったみたいね。」
マグネットマテリアスの正体を知った咲来は部屋でそう呟いた。
(それにしても、チョークやらハサミやら磁石やら、新世界の環境整備には必要のないマテリアスばかりを生み出して、アダムはなにがしたいのかしら…。)
咲来が自分の部屋で一人で考えている間、リビングでは零音がなにやら騒いでいた。
「もう一度弟子にしてください!」
「ダメだ。」
トマトジュースを飲みながら椅子に足を組んで座っている玄司に零音は必死に訴えかけている。
「子供を大切に思う師匠が素敵だって思ったんです!大人はどうでもいいって考えはまだ納得いきませんけど…。とにかく!もう一度弟子になりたいです!!」
『なぁ玄司、いいんじゃないか?もう一度弟子にしても。』
カグツチは呆れたように玄司に言った。
「ダメだ。やはり弟子なんかいらん。」
「じゃあこれからは勝手に師匠って呼びますからね!!」
「ふん…好きにしろ…。」
「好きにしろって言いましたね!これからもついていきますよ!師匠!」
咲来はそんなリビングの様子を見て、笑みを浮かべた。