第4話 変心
虹林県立中央病院。真夜中の病室。
ベッドで横たわり、右腕にギプスをつけている患者はブツブツと呟いていた。
「クソッ…こんな腕じゃもうギター弾けねえじゃねえか…。」
すると病室に突然、白い仮面をつけた白髪の男が現れた。
「もう一度その腕を動かせるようにしましょうか?」
「はっ!なんだあんた急に!?医者か?」
患者は体を起こし、驚いた。
「私はあなたを正しい方向へ導く、希望の光です。」
仮面の男はそう言って、ベッドの横の花瓶の近くに置いてあるハサミを手に取り、光る赤い球体。リブ細胞と融合させた。そして出来上がった銀色に光るコアを患者に埋め込んだ。
「ぐおっ!!?おおおおおおおアアアアアアアア!!!!!」
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「おはよ~…。」
教室に入ってきた零音は真っ青な顔で、足がガクガクしていた。
「お、おはよう…どうしたお前。」
5人で話をしていた明日流たちは不思議そうな顔で零音を見た。
「ちょ、ちょっと運動したら筋肉痛がひどくて…。」
(ほんとは修行の筋肉痛なんだけど…言えないよなぁ…)
零音は咲来と、ある約束をしていた。
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「いい?零音、あなたがリバイトであることは学校のみんなに言っちゃダメよ。」
「えーなんで?自慢しようと思ってたのに!」
「いろいろと大騒ぎになっちゃうでしょ!みんなの前で変身するのも、ダメだからね!」
「はーい…。」
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零音はのっそりと自分の席まで歩き、机の上にリュックを置いた。
席に向かう途中、零音のズボンのポケットからお守りが落ちた。
それに気づいたかおるはお守りを拾った。
「おい、お守り落としたぞ。そういえばこのお守り昔から持ってるよな。もうボロボロだぞ。」
「あっ!」
零音は急いでかおるからお守りを受け取りにいった。
「このお守りは昔母ちゃんからもらった大切なものなんだ。」
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10年前の4月。
この日は小学校の初日。
零音は初めて一人で外に出ようとしていた。
零音はランドセルを背負い、玄関で靴を履いていた。
「零音!お外に行くときはこの母ちゃんが作ったお守りを持っていくんだよ?」
咲来は零音に〈いつも見てるよ〉と刺繍で書かれている小さい袋型のお守りを渡した。
「お守り?なんで?」
「このお守りは零音を守ってくれるからよ!母ちゃんも持ってるんだ!お守り!昔父ちゃんがくれたものなんだけど…。」
そう言って咲来はズボンのポケットから古びた白いお守りを取り出した。
「母ちゃん昔ね、信号無視したトラックに轢かれそうになったことがあるの。でも奇跡的にトラックは母ちゃんの目の前で止まって、母ちゃんは無傷だった!それもきっとこのお守りのおかげだって、母ちゃんは思ってるの!」
「へ~!お守りすげー!僕大事にするね!」
零音はお守りをギュッと握りしめた。
「これ、中になに入ってるんだろう。」
しかし次の瞬間、零音はお守りのヒモをほどこうとした。
「いや開けるなああああぁ!!!」
咲来はヒモをほどこうとする零音を止めた。
「いい?お守りには神様が入ってるの!神様が出て行っちゃったらお守りの意味がないから絶対に開けちゃダメよ!!わかった?」
「うん、わかった!」
「よし、じゃあ学校いってらっしゃい!」
「いってきまーす!」
零音はお守りを握りしめ、玄関を出た。
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お守りをもらった日を思い出している零音に、明日流は話しかけた。
「なぁ零音、最近この辺りでハサミ男が出るって噂、知ってるか?」
「ハサミ男…?」
「両手がハサミみたいになってて、車も真っ二つに切られたって噂だぜ?」
「車が!?」
そんな話をしているとチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。
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「えー元素記号には簡単な覚え方があります。水兵リーベ僕の船…」
1時間目、担任の久夛良木が化学の授業をしている。
しかし零音の頭には授業の内容が一切頭に入っていなかった。
「ハサミ男…もしかして、マテリアスかも…」
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「「さようなら」」
「はい、さようなら。」
帰りのホームルームが終わり、下校時間になった。
「零音!今日飯食いに行かね?大欅通りにいい店が…」
「ごめん、今日用事あるから!!」
零音は明日流の誘いを断り、走って教室を出た。
「なんだあいつ、なにそんなに急いでんだ?」
零音は走って家に帰った。
「母ちゃんただいま!!」
「おかえり~、早かったわね。」
玄関からリビングに入ってきた零音に、キッチンで料理をしている咲来は答えた。
「母ちゃん!ハサミ男の噂知ってる?」
「私もニュースで見てその話しようと思ってたわ。間違いなくマテリアスね。」
咲来はエプロンを外しながらキッチンからリビングに来た。
「早く倒さないと!」
「慌てないで。慌ててもマテリアスの居場所はわからないんだから。」
「じゃあどうすれば!」
「うーん…カグツチがいれば匂いセンサーでマテリアスの位置が特定できるんだけど…玄司くんが気まぐれだからな~…。」
狼刀:カグツチには匂いセンサーが搭載されている。
目はついていないため、カグツチは匂いと音だけで状況を判断している。
「なにかマテリアスの行動に特徴はないかな…。」
「ニュースだと車が数台真っ二つにされたってやってたわね。車を狙う理由がなにかあるのかしら。」
「じゃあ車の多いところにやつは現れる…?」
咲来は目を瞑り、しばらく考えた。
「…大欅通りの十字路、私が昔車に轢かれそうになった場所。あそこは交通事故が多い…。」
「え?」
「マテリアスになった人間が交通事故で車に恨みを持ち、車を襲ってるんだとしたら、そこで事故った可能性が高い。もしかしたらそこに現れるかも。」
「ほ、本当にいるかな…?」
「母ちゃんの勘は当たるわ。行きましょ!」
二人は家を出て、大欅通りに向かった。
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二人は大欅通りに到着した。
十字路では、多くの車が走っている。
「マテリアスいないよ?」
「う~ん、母ちゃんの勘外れたかなぁ。」
すると突然走っている車が真っ二つに切れ、車の前面だけが少し先に進み、地面を削り止まった。
「キャアアアアアッ!!」
運転席に乗っている女性は叫んだ。
周りの車はその光景を見て止まったり、Uターンして逃げる車もいた。
真っ二つになった車の間には、両手がハサミになっているハサミのマテリアス、シザースマテリアスがいた。
「ほんとに現れた!」
「勘、的中ね。」
零音は現れたマテリアスに驚いた。
『どうだ?最高の切れ味だろう?』
「ああ!車が紙みたいに切れるぜ!!」
シザースマテリアスは一人で二つの声を発し、会話し始めた。
『フォッフォッフォッ…この手じゃギターの弦も切れちまうかもなぁ…』
「!?…そうだ…俺はギターが弾きたくて…こんなことしたら…」
『もう二度と弾けなくなるなぁ!フォッフォッフォッ!!』
「ああっあああああああぁぁぁぁ!!」
シザースマテリアスは自分が切った車を見て、頭を抱えてうずくまった。
「なんだ!?独り言で苦しんでる?」
それを見ている零音はマテリアスの行動に疑問を持った。
「コアの精神攻撃だ。意志を弱らせて体を乗っ取ろうとしてる。さっさとコアと人間を分離しろ!」
「玄司くん!」
駆け付けた玄司は咲来の横に立ち、零音に助言した。
「師匠…!わかりました!今こそ、修行の成果を見せるときだ!」
零音はユーティライザーを腰に装着し、マガジンのボタンを押した。
《ユーティライザー》
《ジャスティスクリエイト》
そしてマガジンをユーティライザーにセットした。
《ローディング》
零音の周囲に青いエフェクトが表示される。
零音はピンと指を立てた両腕を交差し、右腕を斜め上に高く上げた。
そして両腕を大きく回転させ、右手をユーティライザーのレバーの上に、左手は顔の零音から見て右斜め前に止めた。
「変身!!」
その掛け声とともに、右手でレバーを倒し、零音は腕をおろして仁王立ちした。
《ユーティライズ》
脚から徐々に零音の体に白い鎧が纏っていく。
《リバイトレオン クリエイト アクティブ》
零音はリバイトレオン クリエイトフォームに変身した。
「決まったあああ!!変身ポーズ考えてきたんだぁ!」
『邪魔をするなあああああああ!!』
「うわっ!」
レオンが咲来と玄司の方を向いていると、シザースマテリアスのハサミの峰で殴られた。
「「はぁ…。」」
咲来と玄司はため息をついた。
『玄司、お前は戦わないのか?』
カグツチは竹刀袋の中から玄司に話しかけた。
「ああ、訓練の成果を見物させてもらう。」
玄司は腕を組んでレオンの戦いを見ている。
『フォッフォッフォッフォッ…まもなくこの体は俺のものになる。』
「そうはさせるか!!」
レオンは立ち上がり、地面を蹴ってシザースマテリアスに殴り掛かった。
『フォッ!!』
「わっ!!」
しかし、レオンに腕を伸ばしたシザースマテリアスに、ハサミで体を切られそうになったため、ジャンプしギリギリで回避した。
レオンは空中で一回転し、シザースマテリアスの後ろで着地して回し蹴りを脇腹に食らわせた。
『ぐっ…』
(そうだ…まっすぐ突き進むだけじゃ勝てないんだ…!)
シザースマテリアスは何度も切りかかり、レオンは後ろに跳ねて回避する。
(まずはあのハサミをなんとかしないとな…よし!)
レオンは輝石を作り出し、左腕のハサミに挟ませた。
『!?』
「固まれ!!」
そして挟ませた輝石を変形させ、ハサミをぐるぐる巻きにして固定した。
『くっ…フォオオオオオッ!!!』
シザースマテリアスは咄嗟に右腕のハサミで切りかかる。
「ふっ!おりゃああああああああ!!!!」
レオンは避け、右腕を掴んで背負い投げた。
「よし…今助けるからな!!」
レオンはユーティライザーのレバーを斜め上に上げた。
《リローディング》
ユーティライザーから待機音が流れ始めた。
レオンは左手に輝石を生成してボクシングのグローブのように纏って走りだした。
「はあああああああああっ!!!」
『フォオオオオオオオオ!!!』
シザース・マテリアスは迫ってくるレオンに対して右手のハサミを伸ばした。
レオンは左手で殴り掛かるが、ハサミで手を挟まれてしまう。
しかし、輝石で手を纏っているため、手は切られない。
「はあっ!!」
レオンはそのまま左手を上に突き上げ、アッパーをした。
右腕を上げ、左腕のハサミは固定されているシザースマテリアスは完全に無防備になった。
レオンはレバーを下に倒し、右手にエネルギーを溜めた。
《クリエイトフィニッシュ》
「はあああああぁぁぁぁあっっ!!!!」
レオンは腹に思いっきりパンチを食らわせた。
『フォオオオオオオオオォォォォォ!!!!」
シザースマテリアスは爆発した。
そして爆風の中で、シザースマテリアスは人間に戻った。
「よし!分離できた!」
レオンはユーティライザーからマガジンを引き抜き、変身解除した。
「いてててて…」
人間に戻った男は、右手を押さえて苦しみだした。
「どうしてこんなことしたの?」
咲来は男に近づき、聞いた。
「うう…俺、バンド目指してて、ギターの練習してるんですけど…ここで信号無視した車に轢かれて右腕を骨折して、ギター弾けなくなって、バンドの夢も遠のいて…そしたら仮面をつけた男に怪物にされたんです。俺は事故の鬱憤を晴らそうと思って車を狙って…」
(仮面をつけた男…まさかそいつがアダム…?)
「わかったわ、とにかく今は病院に行きましょ。」
咲来は男を起こした。
「それじゃあ私はこの人を病院に連れてくから、先帰ってて!」
「うん、わかった!」
咲来は男の腕を肩に乗せ、歩いていった。
「どうでした?師匠!!」
零音は玄司のもとに駆け寄った。
「敵の特性を理解し、自分の能力も駆使できていた。」
「おおっ!」
零音は褒められて喜んだ。
「ただ、あの変なポーズと掛け声はなんだ?なんの意味がある?」
「変身ポーズですか?そりゃあ変身するときはポ―ズがあったほうが決まるじゃないですか!それに、『変身!』って叫ぶのはヒーローものの定番なんですけど、なんか言うと気合が入るんですよね~。これから戦うぞ!って。ほら!『変わる心』って書いても変心って読めるじゃないですか!」
熱弁する零音だったが、玄司はまったく聞かずに歩き出していた。
「って、ちゃんと聞いてくださいよ!師匠!!」
零音は玄司を走って追いかけた。