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虹色のヒーロー  作者: 葛木真時
第1章
3/23

第3話 修行

 ここは虹林市(にじばやしし)の中心街にある焼肉屋〈大倫園(だいりんえん)〉。

 土曜の昼ごろ、ランチタイムで賑わっている店に二人はいた。


「師匠…これ、修行と関係あるんですか…?」


 網の上でジュージューと焼かれる牛カルビを眺めながら零音(れおん)は言った。


「食事は戦闘において最も重要なことだ。いつ食えなくなって力が出なくなるかわからんからな。食える時に食える分を食えるだけ食っておけ。」


 そう言って玄司(けんじ)は充分に焼かれた牛カルビにタレをつけ、口に入れた。


「だからってなんで焼肉…?」


 疑問を抱きつつ零音(れおん)も焼けた牛カルビにタレをつけ、頬張った。


「!?うまっ!!」


 あまりのおいしさに零音(れおん)は大声を上げ、さらにライスを口に掻き込んだ。


「失礼しまーす。卵スープです。」


 店員が卵スープを二つ運び、テーブルに置いた。


「この店は卵スープも絶品だ。飲んでみろ。」


 玄司(けんじ)にそう言われ、零音(れおん)は卵スープを口に運ぶ。


「いただきます…ズズッ…!!コショウが効いてておいしい!!」


 玄司(けんじ)も卵スープを飲み、満足そうに鼻息を吹いた。

 零音(れおん)は肉とライスを同時に頬張り、卵スープで流し込んだ。


「プハァッ!!」


――――――――――――――――――――――――


 完食した二人は中心街を歩く。


「いやぁごちそうさまでした!あんなおいしいご飯が食べれるなんて最高の修行だなぁ。次はどこに行くんですか?」


 零音(れおん)は満腹になったお腹をさすりながら聞いた。


月野山(つきのやま)だ。」

「月野山!?あんな高い山登るんですか!?」

 月野山は標高2125m、虹林県(にじばやしけん)で最も高い山だ。


「そうだ、あそこは酸素濃度が低く、体に負荷がかかりやすい。それに足場も安定しないから体力もつく。体を鍛えるのには打って付けだ。」

「最悪の修行だ…いやいや!これもヒーローになるため!頑張って山登るぞ!!」


――――――――――――――――――――――――


「ハァハァ…ししょ~…ちょっと待ってくださいよぉ~…。」


 月野山を登山中の零音(れおん)は、かなり玄司(けんじ)から離れた位置で、重い足を、ゴロゴロと石が転がる地面に踏みしめ、山を登っていた。


「遅いぞ。遭難したくなかったら早くついてこい。」


 玄司(けんじ)はそんな零音(れおん)を置いてさっさと先に進んだ。


「あ、ししょ~~!一回ちょっと休憩しましょうよ~!」


 零音(れおん)は少しずつ玄司(けんじ)を追いかけた。


 10分後。とっくに玄司(けんじ)の姿を見失った零音(れおん)は無我夢中で山を登っていた。

 霧も深くなり、前はほとんど見えない。

 すると霧の奥に、立ち止まっている玄司(けんじ)がうっすらと見えてきた。


「あれは…師匠…!」


 零音(れおん)は力を振り絞り、玄司(けんじ)のもとに駆け寄った。


「師匠…!ハァ…待っててくれたんですね…!」

「止まれ。」


 駆け寄ってきた零音(れおん)玄司(けんじ)はその一言だけで返した。

 玄司(けんじ)が見つめる先にあったのは、岩が崩れ落ち、途切れていた道だった。


「道が途切れてる…!この先には行けませんね。」


 零音(れおん)が諦めた次の瞬間、玄司(けんじ)は大きく飛び上がり、大きな穴を飛び越え、向こう側の道に着地した。


「お前も飛べ。」

「え…!!?」


 零音(れおん)は穴を覗き込んだ。霧で下はよく見えないが、かなりの高さだ。落ちたら助からないだろう。

 零音(れおん)の顔は青ざめた。


(ただでさえここまでの道で疲れてるのに、そんなの無理だ…。)

「怖いか?」

「いえ!怖くなんか…」


 零音(れおん)の足は震えていた。


「一番の敵は恐怖心だ。敵を恐れていたら戦うことすらできないぞ。」

「…!!」


 その言葉を聞いた零音(れおん)はハッと我に返った。


(そうだ…僕はこれから、僕のことを殺そうとしてくる敵と戦うことになるんだ。いちいち怖がってたらまともに戦えない!)


 零音(れおん)はギュっと拳を握りしめた。


「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


 そして、助走をつけ、思いっきりジャンプした。

 空中で何度か腕を振り、そして向こう側の道に着地した。


「うわっわっ!ああっ!!」


 しかし、着地した零音(れおん)はバランスを崩し、真っ逆さまに穴に落ちた。

 穴に落ちた零音(れおん)の左足を、玄司(けんじ)は咄嗟に掴んだ。


「合格だ。」


 玄司(けんじ)零音(れおん)を引き上げた。


「ハァ…ハァ…ありがとうございます…。」

「もうすぐで頂上だ。行くぞ。」


 玄司(けんじ)は歩き出し、零音(れおん)は立ち上がり、追いかけた。


 5分ほど歩き、ついに頂上にたどり着いた。


「ついたぞ、頂上だ。」

「ハァ…やっとついたぁ…。」


 零音(れおん)は力を抜き、地面に座りこんだ。


「ここからが本番だぞ。気を抜くな。」

「え!?ここから…?」


 完全に気を抜いていた零音(れおん)はその言葉に絶望した。


「お前、能力で刀を作ることはできるか?刃のついていない。」

「刀ですか?やってみます。」


 零音(れおん)は目を瞑り、刀を頭に思い浮かべ、右手を開いた。


「ふっ!!」


 思いっきり力を込めると、右手から刃のついていない、輝石でできた刀が生成された。

 零音(れおん)はその刀を握った。


「それで俺に一回でも攻撃を当ててみろ。」


 玄司(けんじ)狼刀(ろうとう):カグツチを竹刀袋から取り出し、鞘から引き抜いた。


「一回でいいんですか?それなら楽勝ですよ!はぁっ!!」


 零音(れおん)は大きく踏み出し、斬りかかった。

 しかし、玄司(けんじ)はカグツチで攻撃を防いだ。それも片手で。


「え…?」

「弱いな。それになんの計画性もない。」


 玄司(けんじ)零音(れおん)の刀を払いのけ、カグツチの峰で脇腹に打撃を与えた。


「うぐっ…!」


 倒れ込んだ零音(れおん)の顔に玄司(けんじ)はカグツチの先端を突き立てた。


「訓練は終わりだ。今のが実戦だったらお前は死んでいた。」


 玄司(けんじ)はカグツチを鞘に収め、下山しようとする。


「待ってください!!ここまで来て諦めきれるわけないじゃないですか!!」


 零音(れおん)は立ち上がり、刀を構えた。


「もう一度お願いします!!」

「実戦にもう一度はない。死んだら終わりだ。」

「たとえ死んでも、僕は諦めません!!」


 玄司(けんじ)零音(れおん)の言っていることを理解できなかった。しかし、零音(れおん)の熱い眼差しを見てしばらく考えたあと、再びカグツチを鞘から引き抜いた。


「来い…。」

「っ!!うおおおおおぉぉぉ!!」


 零音(れおん)の刀と玄司(けんじ)のカグツチは大きく衝突した。


(いつもより力が入らない…息が苦しい…力押しはできない。それなら…。)


 零音(れおん)は一度後ろに下がり、玄司(けんじ)の横に回り込んで斬りかかった。


「はぁっ!!」

「遅い…!」


 斬りかかる零音(れおん)より先に玄司(けんじ)が急接近し、零音(れおん)の頭にカグツチを振り下ろした。


「ぐぉっ…!!」


 零音(れおん)は白目を剥き、膝から崩れ落ちた。

 玄司(けんじ)は倒れる零音(れおん)を背に、再び下山しようとした。


「も…もう一回…。」


 立ち上がる零音(れおん)玄司(けんじ)は静かに驚き、目を見開いて振り向いた。


――――――――――――――――――――――――


 零音(れおん)は激しい連続攻撃を必死に刀で防御するが、そうしているうちに刀は真っ二つに折れた。


「折れた!?うっ…」


 折れた刀を気にしているうちにカグツチで首を殴打された。


「くっ…もう一回…!」


 零音(れおん)は再び立ち上がり、新しい刀を生成した。


――――――――――――――――――――――――

 

 それから何度倒れても零音(れおん)玄司(けんじ)に挑んだが、一度も攻撃を当てることはできていない。


「もう一回…!!」

(こいつ…何度気絶すれば気が済むんだ。)


 零音(れおん)の刀と玄司(けんじ)のカグツチは再びぶつかった。


(勝てない…でも諦めるな…未来を諦めるな!!)

「うああああああああああっ!!!」

(…!?さっきよりも力が強まってる…?)


 零音(れおん)は力を最大限に振り絞り、押された玄司(けんじ)は、今まで片手で持っていたカグツチを両手で持つ。


(隙を見つけろ…。師匠の隙…いや、見つけるんじゃない!隙を作るんだ!!)


 零音(れおん)は激しい連続攻撃を与え続けた。

 そして、玄司(けんじ)が少しバランスを崩したその時、零音(れおん)は仕掛けた。


(今だっ!!)

「はあああっ!!」


 零音(れおん)は全身の力を腕に込め、カグツチごと刀を上に振り上げた。

 両腕が上に上がった玄司(けんじ)の体はがら空きだ。


「うおおおおおおおおおおぉぉぉっっ!!」


 体制を整えられる前に素早く接近し、玄司(けんじ)の脇腹を刀で殴った。


「くっ…」


 ドスッ…という重い音が玄司(けんじ)の体中に響き渡った。

 玄司(けんじ)は殴られた脇腹を押さえてしゃがみこんだ。


「やった…。ハァ…一撃与えた!!うっ…」


 歓喜した零音(れおん)だったが、疲労によって限界を迎え、気絶した。


「ハァ…世話のかかるやつだ…。」


 玄司(けんじ)はカグツチを納刀し、零音(れおん)を肩に背負い、下山した。


――――――――――――――――――――――――


「う~ん…あれ、ここは…?」

「家だよ。玄司けんじくんが運んできてくれたわ。」


 目覚めた零音(れおん)咲来(さくら)は答えた。

 零音(れおん)はソファーで横になっていて、体はあざだらけになっており、包帯がいたるところに巻かれている。


「そうだ!修行!どうなったんだっけ!?イテテ…」


 急に体を起き上げたため、傷が痛んだ。


「合格らしいわ。毎日の自主練も忘れるなって玄司(けんじ)くんが。」

「よかったぁ…!!」


 零音(れおん)は安心して再びソファーに寝転んだ。


「これでヒーローに近づけたかな…!」

「うん…!きっと零音(れおん)ならなれるよ!」


 こうして、零音(れおん)玄司(けんじ)との修行を終え、いよいよ戦いに踏み出すことになる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2000メートルの山の上で高地トレーニング…!夢のようですね。どのくらい強くなれたのか、すごく楽しみです。
2022/08/11 20:21 退会済み
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