第23話 ヒーローショー
「どうして…母ちゃんが…」
明日、レイジングフォックス本部前に来なければ、咲来が殺されると聞いた零音は、困惑していた。
「罠だな。お前をおびき出すための。」
玄司は冷静に言った。
「……行かなきゃ…!!」
零音は覚悟を決めた表情で言った。
「おい!聞いてなかったのか!?これは罠だ!それにあの女はお前の母親でもなんでもない!行く必要はないだろ!!」
玄司は怒鳴った。
「確かにそうだけど…母ちゃんは恨んでいるはずの僕のことをずっと育ててくれた…僕に名前をくれた…!僕にご飯を作ってくれた…!!たとえ本当の親じゃないとしても…僕は母ちゃんを助けたい!!」
零音は立ち上がり、心の底から叫んだ。
「…」
玄司は思わず黙り込む。
「親は唯一無二の存在だ。俺たちに零音を止める権利はないさ…」
来夢はそう言って玄司に肩を組んできた。
「くっ…!どうなっても知らんぞ…!」
玄司は肩を動かして来夢の腕を引きはがした。
「…だあああっ!!こんちくしょう!!」
その時、突然ウィザーティーチが叫びながらちゃぶ台をひっくり返し、吹き飛ばした。
「うわぁっ!!どうしたんですか突然!!」
零音は飛んできたちゃぶ台を避け、驚いた。
「全員、この畳の上に乗れ。」
ウィザーティーチは自分が座っている一枚の畳を指差す。
「うぉっ!?なんだこいつ!?」
来夢はやっとウィザーティーチの存在に気づいた。
「なにをするつもりだ…?」
「いいからいいから!」
ウィザーティーチは警戒する玄司を手招く。
「…」
来夢とみどりはウィザーティーチが座る、一枚の畳の上に乗った。
零音はすでにその畳の上に立っている。
「おい!……くっ…」
玄司は三人に手を伸ばすが、諦め、畳の上に乗る。
小さい畳の上に五人が乗っているため、ぎゅうぎゅうだ。
「よっと…」
ウィザーティーチが畳の中心の、少し膨らんでいるところを押し込むと、地面が大きく揺れ始めた。
「な、なんだ!?」
驚く零音だったが次の瞬間、全員が乗っている一枚の畳が少しずつ下に下がっていった。
「なんだこりゃ!?」
それには来夢も驚いた。
畳の動く速度は速くなっていき、エレベーターのようにどんどん下に下がっていく。
そのまましばらく下がり、部屋にたどり着いて畳は止まった。
そして開いていた天井は閉じられた。
「ここは…?」
零音は部屋を見渡した。
その部屋は薄暗く、壁についている巨大なモニターの明かりで照らされている。
「ようこそ!俺の秘密基地へ!ここは地下100階だ!!」
ウィザーティーチは手を広げ、部屋を紹介した。
「地下100階!?なんでアパートにこんなところが!?」
零音はウィザーティーチに聞いた。
「ここはアパートに見せかけた俺の家なんだ。だから全部俺の部屋だし、改造も自由自在だ!」
「これは…天晴です…」
みどりは苦笑いしながら言った。
「こんなところに連れ込んで…なにをするつもりだ…?」
玄司はウィザーティーチを睨んだ。
「作戦会議さ。明日本部に行くんだろ?何も考えずに行っても奴らの思うつぼだ。」
「なるほど!」
零音はウィザーティーチの発言に納得した。
「さて…それじゃあ会議を始めよう…目的は伊武 咲来の救出。」
ウィザーティーチはモニターの前の椅子に腰をかけた。
「問題は今の零音の立場だ。ただレイジングフォックスに殴りこんでも、世間からはより危険視されるだけだ。」
「だったら、どうすれば…」
「レイジングフォックスの長官、金山はかな~~~~~り性格が悪いという噂を聞いたことがある。零音を殺したがっているのも、結局は自分をファルブロスを殺した英雄として祭り上げるためだろう。」
「…それで?どうするんだ?」
玄司は腕を組み、ウィザーティーチに聞いた。
「その性格の悪さを利用するのさ!ああいうタイプは権力を得た瞬間暴走する。そこで零音!お前はあえて金山に殺されたふりをし、金山を暴走させ、世間に奴の性格の悪さを明るみにするんだ!そしてそこから復活した零音が暴走する金山を止め、お前の怪物という印象を、金山を止めた英雄という印象に塗り替える!!」
ウィザーティーチは腕を広げ、堂々と説明した。
「そんなにうまくいきますかね…?」
みどりは首を傾げる。
「まあ、印象を塗り替えれるかどうかは…正直賭けだな。星戸府消滅は、史上最大の災害。零音はそれを引き起こした張本人だからな。」
「…」
それを聞いた零音の表情は曇った。
「こいつはやってない。やったのはファルブロスだ。」
玄司はウィザーティーチの発言を否定した。
「それはわかってるよ。ファルブロスと零音の人格は別だ。だが世間にはもう伊武 零音は完全にファルブロスだと報道されている。」
「…来夢とみどりさんはこのこと知ってたの…?」
零音は来夢とみどりに聞いた。
「いや、お前がファルブロスだなんてまったく聞かされてなかった。」
「今思えば…私たちが嵐野市で零音さんと戦わされたのは、ファルブロスの成長度確認だったのかもしれませんね…」
みどりは当時の零音との戦いを思い出しながら言った。
「なぁ。殺されたふりってのは、どうやってするんだ?」
来夢はウィザーティーチに問いかけた。
「うーん…そうだなぁ…」
ウィザーティーチはシャープインジェクターをペン回しのように指で回しながら考え始める。
「殺されたふりなんて…どうすりゃいいんだよ…」
来夢は頭を抱えて考える。
「殺されたふり?…っ!!俺にいい考えがある!!」
玄司がそう言うと、全員が玄司に注目する。
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翌日。レイジングフォックス本部前の広場。
昼下がりの広場は、大勢の人間で賑わっていた。
「わーい!!わっ!!」
広場を走っていた女の子が誰かの足にぶつかった。
「あっ!すいません…」
女の子の父親は、ぶつかった人に頭を下げる。
頭を上げてその顔をよく見ると、その人は零音だった。
「っ!!ファ…ファルブロス!!?」
父親は叫び、子供の手を引っ張ってその場から逃げる。
「お、おい!ファルブロスだってよ!!」
「逃げろおお!!!」
「イヤアアアアアアア!!」
父親の叫び声を聞いた広場にいた人たちは、悲鳴を上げて逃げ出す。
「…」
零音はその様子を見て黙って立ち尽くしていた。
「そこまでだ!!ファルブロス!!」
すると、レイジングフォックス本部の屋上から声が響いた。
その声を聞いた人々は、思わず立ち止まって本部の屋上を見る。
「あ、あれは…?」
本部の屋上に一人の男が立っている。
金山だ。
「私は金山 小平!!今からお前を倒す者だ!!」
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広場の様子は生中継されており、全国のテレビにその様子が映し出されていた。
「おい、なんだあれ?」
「ファルブロスを倒す…?」
ビルに設置された巨大なモニターで中継を見ている人たちはざわついた。
――――――――――――――――――――――――
金山は腰にプロトライザーを装着する。
「行くぞ!変、身!!」
そう言うと、金山が立っている場所から煙が立ち、金山の姿は見えなくなった。
『とおっ!!』
次の瞬間、煙の中から黒いボディの男が飛び出し、屋上から地上に着地する。
その黒い鎧の隙間は、青く発光している。
レイジソルジャーアルファだ。
(っ…!?明日流だ…)
零音はすぐに、それが金山ではなく明日流だと気づいた。
(煙の中で明日流と入れ替わり、あたかも自分が変身したかのように見せているんだ…)
零音は金山のトリックを見破った。
「な、なんだ!?金山長官が変身したぞ!?」
「まさか…ファルブロスと戦うのか!?」
人々は金山が変身したと思い込んでいる。
『行くぞ!!ファルブロス!!』
金山の声は目の前にいるレイジソルジャーアルファからではなく、本部に設置されているスピーカーから流れている。
「…!!」
零音は身構える。
『はあああああああっ!!』
金山の声とともに、アルファは零音に向かって走ってくる。
そしてそのまま零音の顔を殴る。
「ぐっ…!!」
零音は倒れ込むが、すぐに起き上がりアルファに殴り掛かる。
「ふんっ!!」
しかし、生身のパンチは、アルファにはまったく効かない。
『はあっ!!とおっ!!』
スピーカーから流れる金山の掛け声は、微妙にアルファの動きと合っていない。
「い、いけええええ!長官!!やっちまええええ!!」
「ファルブロスを倒して!!」
人々は、戦っているのが金山ではないことに気づかず、応援する。
「がんばれえええええ!!」
さきほどの女の子も、金山を応援している。
「くっ…」
零音は、アルファからの攻撃と、周りの声援で心身ともに傷ついていた。
(なぜだ…なぜ変身しない…?)
アルファは、零音が変身しないことを疑問に思いながら零音を殴る。
「ぐぁっ!!」
零音は吹き飛び、地面に倒れ込んだ。
(よし…そろそろいいだろう…!!)
『行くぞ!トドメだ!!』
「…!!」
金山のその声を聞いたアルファは、マガジンを押し込む。
《リローディング》
そして、プロトライザーのボタンを押して、空中に飛び上がる。
《アルファレイジブレイク》
『たあああああああああっ!!!』
アルファは零音に向かってキックを放つ。
「はっ…!!」
起き上がった零音は、なにも抵抗できず、思いっきりキックを食らった。
すると、その場にあらかじめ仕掛けられていた爆弾が起動し、その場が爆発する。
「うわっ!!」
「キャッ!!」
人々は爆発に驚き、思わず耳を塞ぐ。
「どう…なったんだ?」
爆発の煙で、様子が見えない。
煙の中で、明日流と金山が入れ替わる。
煙が晴れると、そこには金山の姿だけがあった。
「皆様!ご安心ください!!ファルブロスはこのわたくし、金山 小平が倒しました!!」
金山は堂々と宣言した。
「おおおおおおおっ!!」
「ありがとおおおおお!!!」
広場から歓声が上がり、金山に感謝する声で溢れかえる。
――――――――――――――――――――――――
「うおおおおおおおっ!!!」
「ファルブロスが倒された!!これでもう安心だ!!」
中継を見ている人たちも喜び、歓声を上げた。
――――――――――――――――――――――――
「おい!やったな!明日流!!」
本部の中に入った明日流は、斗馬に声をかけられた。
「これで終わったんだね…うちらの戦い…!!」
「最後はあたしが殺りたかったなぁ…」
歓喜する杏樹だったが、かおるは一人名残惜しそうにしていた。
「…」
零音を倒した明日流だが、その表情はなぜか曇っていた。
「ありがとう!!金山長官!!」
「ふっふっふ…はーっはっはっはっは!!!!」
歓声を浴びる金山は大きく高笑いした。
「さあ…お前ら!ヒーローの前にひれ伏せ!!」
金山がそう叫んだ瞬間、広場は静まり返った。
「…え?」
「聞こえなかったのか?ひれ伏せ!頭が高い!!私はあのファルブロスを殺したヒーローだぞ?頭を下げるのが礼儀じゃないのか!?」
金山は人々に向かって叫ぶ。
――――――――――――――――――――――――
「お、おい…あいつやばくね…?」
「ああ…いくらなんでもこれは…」
中継を見ている人たちはざわつき始める。
――――――――――――――――――――――――
「さ、さすがにそれはやりすぎじゃ…」
「そうだそうだ!どういうことだ!ひれ伏せって!」
「ファルブロスを倒したのはすごいけど、調子に乗るなよ!!」
さっきまでの歓声からは一転し、怒号が飛び交う。
「…」
金山はハンドガンを取り出し、空に向かって発砲する。
広場に銃声が響き渡る。
「キャーーーー!!」
人々は銃声に驚き、静まり返った。
「私に歯向かう者は、ファルブロスの仲間だと判断し、殺す。貴様か?それとも貴様か?」
金山はさっきまで怒号を上げていた人、一人ずつに銃口を向ける。
「ひっ!!す、すいませんでした!!」
「わ、私はファルブロスの仲間ではありません!!」
「ファルブロスの仲間ではないと証明したければ、今すぐ私にひれ伏せ!!」
金山がそう言うと、人々はひれ伏し始めた。
「ふっはっはっはっはっは!!そうだ!それでいい!!はーはっはっはっは!!」
金山は人々が自分にひれ伏す様子を見て、高笑いした。
「はーっはっはっはっはっは!!」
「やめて!!」
そんな高笑いを遮るかのように、女の子の声が響き渡った。
「ああ?」
「もうやめて!!あんたなんかヒーローじゃない!!」
女の子は金山を指差して言った。
「お、おい!すいません!すいません!」
女の子の父親は何度も頭を下げた。
「なんだ…?お前は。ファルブロスの仲間か…?」
金山は女の子に近づいてくる。
「ち、違います!!この子は、ファルブロスの仲間なんかじゃ…」
「悪者は…ちゃーんとやっつけないとなぁ…!!!」
そして金山は女の子に銃口を向ける。
「くっ…!!」
レイジングフォックスの本部から、明日流が女の子を守ろうと飛び出す。
「死ねぇっ!!」
女の子は目を瞑り、父親は身を挺して庇う。
金山が銃の引き金に指をかけたその時、何者かが飛び出し、金山の腹にキックを食らわせる。
「ぐぉっ…!!」
蹴られた金山は吹き飛び、倒れ込んだ。
「くっ…!誰だ!?」
金山は起き上がり、顔を上げた。
「なっ…!?」
女の子の前に立っていたのは、零音だった。
「ファ…ファルブロス…!?」
零音の目は金山を睨む。




