第21話 レイジングフォックス
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2022年6月19日
「明日流!お母さん買い物に行ってくるから、お留守番お願いね!」
「はーい!」
4歳の明日流は買い物に出かける母親を見送った。
『人々を脅かす悪の手先よ!刮目せよ!』
『覚悟しろ!』
『正義のヒーロー!ストロングマン!』
『情熱の相棒!パッションマスク!』
『『ここに、参!上!』』
「いけーー!!パッションマスク!!」
明日流はテレビでストロングマンブラザーズを見ていた。
時刻は17時12分53秒になった。
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大きな音とともに、星戸府の中心で大きな爆発が起きた。
「ウオオオオオオオオオッ!!!!」
爆発の中には白い姿の怪物、ファルブロスがいた。
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『行くぞ!ストロングキィィッ――』
『番組の途中ですが、ここで臨時ニュースです。星戸市に未確認生命体が出現した模様です。また、未確認生命体の周辺で大きな爆発が起きたとのことです。付近の住民は直ちに避難してください。』
「あっ…!」
テレビの画面は、突然ストロングマンブラザーズからニュース映像に切り替わった。
『繰り返しお伝えします。星戸市に未確認生命体が出現ました。未確認生命体の周辺では大きな爆発が――』
次の瞬間、映像に映るスタジオと、ニュースキャスターの体が左半身から消滅していき、テレビの映像はピーという音とともにカラーバーの映像に切り替わった。
「えっ!!?」
それを見た明日流は驚愕した。
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星戸府園ヶ崎市。
「キャーーーーーッ!!!」
人々は悲鳴を上げ、逃げ惑う。
「ウオオオオオオッ!!!」
ファルブロスが腕を振り下ろすと、爪から斬撃が飛び、斬撃が当たった人や建物は消滅していく。
あっという間に星戸府の半分はファルブロスの手によって消滅してしまった。
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明日流がいる隅川市は、星戸府の一番端にあるため、まだ被害を受けていない。
『星戸府が消滅していきます!!星戸府にいる方は直ちに星戸府から脱出してください!!』
チャンネルを切り替えると全国ニュースでは、消滅していく星戸府の映像と、慌てているニュースキャスターの声が流れている。
「ど…どうしよう…ママ…!!」
明日流は震えて母親の帰りを待っていた。
すると次の瞬間、明日流の家が崩壊した。
「うわぁっ!!!」
明日流はその衝撃で吹き飛んだ。
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「うぅ…」
目を覚ますと夜になっており、普段家がたくさんある辺りには何もなく、真っ暗な空間が広がっていた。
「うっ…うぅ…うわああああああああ!!ママああああ!!パパ!!どこぉぉぉ!!」
明日流はその場にしゃがみこんだまま泣き始めた。
「君!!大丈夫か!?」
そんな明日流の前に少年が駆け付けてきた。
「ここは危険だ!早く逃げよう!」
少年は明日流の肩を掴んで言った。
「あっ…」
しかし、明日流は少年ではなく、少年の後ろの方を見て目を見開いていた。
「ん…?」
少年は明日流の視線の先が気になり、振り返った。
「なっ…!!?」
するとそこには、ファルブロスがいた。
「ウウッ…」
ファルブロスは腕を振り上げた。
「っ…!!」
今にもファルブロスの爪が二人を切り裂こうとしているその時、少年は立ち上がった。
「俺は…ヒーローになるんだあぁぁぁ!」
少年は叫びながらファルブロスに向かって走り出し、殴り掛かる。
「ふっ…!!」
するとその瞬間、背後から体が燃えているマテリアスが現れ、少年を飛び越えてファルブロスに突進する。
「えっ…!?」
少年は突然のことに驚き、立ち止まる。
「うおおおおおぉぉぉっ!!!!!」
「ウアアアアアアアアアッ!!!」
燃えているマテリアスは、ファルブロスを押さえつけながら爆発した。
「ぐあっ!!」
「うわぁっ!!」
爆発の衝撃で少年と明日流は吹き飛ばされた。
飛びかかった火は明日流の右腕に触れ、明日流は右腕を火傷した。
明日流はそのまま気を失った。
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「うぅん…」
病院のベッドで寝ている明日流は目を覚ました。
明日流の右腕には包帯が巻かれている。
「ここ…どこ?」
「あっ!橘 明日流くん?」
看護師が目を覚ました明日流に気づき、病室に入ってきた。
「うん。パパとママはどこ?」
明日流は看護師に聞いた。
「明日流くん…落ち着いて聞いてね。君のパパとママは…死んじゃったの。」
「えっ…?」
困惑している明日流の目からは涙が溢れ出していた。
「うっ…うっ…うわあああああああああ!!!」
明日流は泣き叫んだ。
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2か月後。ムーブメント本部。
「こんにちは!今日から君たちを引き取ることになった、金山 小平だ!よろしく!」
そこには明日流、斗馬、大護、かおる、杏樹がいた。
子供たちは全員暗い表情をしてうつむいている。
「君たちの家族を殺したファルブロスは、現在我々が監禁している。」
金山は背中に手を組んで歩きながら話す。
「そこで、これから君たちには様々な訓練、任務を経験してもらう。そして最も成績が良かった者には、ファルブロスを殺す権利を与える。」
「…!!」
うつむいていた子供たちは目を見開いて顔を上げた。
「家族の復讐をするチャンスだ。みんな頑張ってくれ。」
「…」
明日流の表情はこわばった。
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2年後。2024年3月。
「ふんっ!ふんっ!!」
明日流はサンドバッグを殴る。
ほかの子供たちも各々トレーニングをしている。
「集合!!」
「「はい!!」」
金山が号令をかけると、子供たちは金山の前に集合した。
「ファルブロスを小学校に入学させることにした。そこで君たちに任務を与える。同じ小学校に入学し、ファルブロスを監視するんだ。」
「ファルブロスと同じ学校に…ですか?」
かおるは不安な表情で金山に問いかけた。
「そうだ。ファルブロスは記憶を失っているから普通の人間と変わらない。しかし、万が一暴れ始めた場合、君たちに捕獲してもらう。まだ殺してはいけないぞ。」
「…」
子供たちは全員納得していない様子だ。
「わかったか?返事は!?」
「「…了解!」」
子供たちは渋々返事をした。
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2024年4月。
明日流たちは小学校に入学した。
「それじゃあみんな、一人ずつ立って名前と将来の夢を言ってくださーい!」
「「はーい!!」」
生徒が一人ずつ名簿順に立ち上がって、名前と将来の夢を言っていく。
そしてファルブロス、零音の番が回ってきた。
(伊武 零音…あいつがファルブロスか…)
明日流は零音を睨んだ。
「伊武 零音です!将来の夢はヒーローになることです!!」
零音は立ち上がって元気よく言った。
(ヒーローになるだと…大勢の人を…俺の家族を殺したお前が…!?)
明日流は机の下で拳を握りしめ、必死に怒りを抑えた。
「ヒーローだって!」
「ぷぷぷ!バカみたい!」
生徒たちは一斉に笑い出し、零音のことを馬鹿にする。
零音は落ち込み、立ったままうつむいてしまう。
(ふざけやがって…だったら俺は、お前を殺してヒーローになってやる!!)
明日流は机を叩いて勢いよく立ち上がった。
生徒たちはその音に驚き、静まり返る。
「橘 明日流。俺の夢もヒーローになることだ。人の夢を馬鹿にするんじゃねぇよ!!」
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明日流たちはレイジングフォックス本部の廊下を歩いている。
「なぁお前ら、時々任務のこと忘れてなかったか…?」
斗馬はかおると杏樹に話しかけた。
「…なに言ってんだよ。忘れてるわけないだろ。あたしがこの世で一番嫌いなのは、ファルブロスだ。」
かおるは斗馬を睨んで言った。
「その割にはずいぶんと楽しそうだったよな…?委員長とファルブロスを付き合わせようとしたりよ…もし委員長が危険な目にあったらどうするつもりだったんだよ…!」
「それは…」
かおるは黙り込んだ。
「斗馬くんも乗り気だったじゃん!!」
杏樹は怒鳴った。
「俺は反対しただろ!!」
「まあまあ!落ち着いてください!」
大護は三人の喧嘩を止めた。
そして五人は研究室の扉を開け、中に入った。
「それで?その輝石とやらの正体はまだわかっていないのか?」
「はい…無のマテリアスであるファルブロスが物体を生み出すなど…完全に想定外です。」
研究室の中で金山と咲来は会話していた。
「ただいま帰還しました。長官。」
明日流たちは金山に敬礼した。
「来たか。ファルブロスは?」
「申し訳ございません…取り逃がしました。」
明日流は頭を下げた。
「…そうか、まあいい。奴をおびき出す餌はある。」
金山は咲来を見てニヤついた。
「…?」
咲来は困惑した。
「早速だが明日、ファルブロスの処刑を行う。そこで最後の射撃訓練を今から行う。」
「今からですか…!?」
斗馬は驚いた。
「そうだ。この射撃訓練で得た点数で、明日ファルブロスを殺す者が決まる。伊武、現在の成績は?」
「はい。現在の成績は、明日流 95点。かおる 97点。斗馬 85点。杏樹 74点。大護 32点です。」
咲来は各々の成績を発表した。
「と、いうわけだ。それでは皆、頑張ってくれ。」
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五人は射撃訓練場に移動した。
「最後か…これですべてが決まるな。」
斗馬はハンドガンに弾を込めながら言った。
「ぼ…僕はもう無理ですね…みなさん頑張ってください…」
そう言う大護のハンドガンを握る手は震えていた。
『訓練開始!!』
スピーカーから金山の号令が鳴り響く。
五人は一斉に的に向かって発砲する。
「ひっ…!うわっ…!!」
大護はいちいち銃の反動に驚き、照準がブレる。
一方で、明日流はほぼ全弾を的のほぼ中心に命中させる。
『訓練終了!!』
全員が全弾打ち終わると、終了の号令が鳴り響いた。
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「最終成績を発表します。」
咲来は成績表を見ながら言う。
かおるは手を合わせ、目を瞑る。
「明日流 112点。かおる 99点。斗馬 103点。杏樹 92点。大護 35点です。」
「くっそぉ!!さっきまであたしが1位だったのに!!」
かおるは頭を抱えた。
「やっぱり射撃で明日流には勝てねぇな…」
斗馬はため息をつきながら言った。
「ファルブロスを殺すのは、明日流で決定だな。」
「…!ありがとうございます…!!」
明日流は金山に深く頭を下げた。
「では明日流、明日、君は私になりすまし、本部前の広場におびき出したファルブロスを殺すんだ。」
「…えっ?」
明日流は金山の発言に耳を疑った。
「あくまで君は私の代わり。これは、世間に私がファルブロスを殺したヒーローとして認知してもらうための計画だ。」
「そんな…!?」
「ん…?なにか文句があるのか?」
金山は明日流を睨んだ。
「…いえ…ありません…」
明日流は拳を震わせながらうつむいて答えた。
「それでは明日流、君には今からリベライザーのテストを受けてもらう。」
「…!?長官!!リベライザーは完成していますが…マテリアスのサポートなしで人間がリバイトに変身するシステムはとても負荷が大きく、明日流くんでも扱えるかどうか…」
咲来は焦り出した。
「それを確認するためのテストだ。さあ明日流、テストルームに行け。」
「はい…」
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テストルームで明日流は、右手に銃型の変身装置、"リベライザー"と、左手に藍色のマガジンを持っていた。
『それじゃあ明日流くん。マガジンを起動して。』
スピーカーから咲来の声が流れる。
明日流は藍色のマガジンのボタンを押す。
《バーンファイヤー》
『次に、マガジンをリベライザーのスロットにセットして。』
明日流はマガジンをリベライザーの持ち手に空いている穴にマガジンをセットした。
《ローディング》
『トリガーを押して!』
リベライザーを正面に向け、トリガーを押す。
「っ…!?ぐああああああっ!!!」
明日流がトリガーを押した瞬間、明日流は反動で吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。
「うっ…」
『明日流くん!!』
咲来と金山はテストルームの中に入り、明日流のそばに駆け寄った。
「明日流くん!大丈夫!?」
「ええ…このくらい…大丈夫です…」
「ふむ…これではリベライザーは使えないな…それでは当初の予定通り、プロトライザーでファルブロスの処刑を行う。」
金山は冷静に言った。
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「大丈夫ですか?明日流くん。」
休憩室で大護は明日流に話しかける。
「ああ…大丈夫だ…それより大護。お前は明日、基地から出るな。」
「えっ…?」
「戦闘になれば邪魔になるだけだ。」
「明日流くん、やめな。」
杏樹は明日流の言うことにムカつき、言った。
「事実を言っただけだ。」
「大護くんがかわいそうだよ!」
「いや、明日流くんの言う通りです…わかりました。」
大護はうつむいて言った。
「それにしても…ここまで頑張ってきたのに…長官の代わりだなんて…」
かおるは呟いた。
「明日流!本当にお前はそれでいいのか!?」
斗馬は明日流に問いかけた。
「…形はどうであれ、この手でファルブロスを殺せるんだ。」
明日流は右手の拳を握りしめ、左手の平を殴った。
「待ってろ…ファルブロス…!!」




