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虹色のヒーロー  作者: 葛木真時
第1章
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第2話 敵と味方

「ぐああっ!ちょっと待ってって!」


 レオンはウルスに体を斬られ続ける。

 レオンのアーマーから火花が飛び散る。

 レオンは透明な壁を生成してウルスの攻撃を一度止めた。


「また姿を変えているのか…。相変わらず趣味の悪いやつだな。」

「なんの話だよ!」


 ウルスは壁を横から回り込み、レオンを下から上に斬り上げた。


「ぐわああああああぁぁぁ!!」


 レオンは空中で縦に一回転し、倒れこんだ。

 ウルスは刀の柄からはみ出しているUSBメモリのようなものの先端を押し込んだ。


『リローディング!』


 刀は激しく燃え上がり、和風な待機音が鳴り響く。

 ウルスはレオンにジリジリと迫り、刀を振り上げた。


「終わりだ。」


 ウルスは刀の柄についているトリガーを押し込み、思いっきり刀を振り下ろした。


「待って玄司(けんじ)くん!その子は氷のマテリアスじゃない!」


 咲来(さくら)がそう叫んだ瞬間。ウルスの姿は人間に戻り、刀の火も消えた。


「っ!?カグツチ!なぜ変身解除した!!」

『そいつからはなんの匂いもしない。お前は今何と戦ってるんだ?』


 どこからか、もう一人の男の声が聞こえた。

 目の前の状況を理解できず、レオンは唖然としていた。

 そんなレオンと、玄司(けんじ)と呼ばれる男のもとに咲来(さくら)が近づいてきた。

 咲来(さくら)はレオンのベルトのレバーを斜め上に上げ、USBメモリのようなものを抜き出した。

 すると体の鎧は消滅し、レオンは人間の姿に戻った。


「この子は私の息子!氷のマテリアスなんかじゃない!」


 咲来(さくら)玄司(けんじ)零音(れおん)の姿を見せ、そう言った。


「息子だと?ババア、お前子供いたのか?」

「またその呼び方!私はまだ31よ!!」

「か、母ちゃん、この人知り合い?」


 零音(れおん)は初めて会う男、それも変身し、自分に襲い掛かってきた男と母親が知り合いであることが不思議で仕方なかった。


「う~ん、ちょっとね。これは1から説明したほうがよさそうだなぁ。」


 咲来(さくら)は頭を抱え込み、目を瞑るが、すぐに目を開けた。


「よし!一回家に帰ろう!ほら!玄司(けんじ)くんも来て!」

「なんで俺も…」

「あなたにも話があるから!さあ早く早く!」


 咲来(さくら)零音(れおん)玄司(けんじ)を手招きした。

 そして三人は零音(れおん)の家まで歩いた。

 辺りはすっかり日が沈み、暗くなっていた。


――――――――――――――――――――――――


「さあ!というわけで!お勉強のお時間です!」


 家についた三人。リビングで咲来(さくら)零音(れおん)玄司(けんじ)を前に、張り切ってホワイトボードを取り出した。


「まずは零音(れおん)!あなたにいろいろと説明するね!」

「うん。」

「あなたを襲ったあの怪物、あれは"マテリアス"と呼ばれるものよ!」

「マテリアス?」

「マテリアスっていうのは"リブ細胞"と呼ばれる不思議な細胞によって物が意志をもち、そしてその意志を持った物が人間に寄生し、怪物に変貌したもののことを言うわ。」

「物が意志を持って人間に寄生する!?」

「そう、例えば…」


 咲来(さくら)はテーブルの上に置いてあった消しゴムを手に取った。


「この消しゴムとリブ細胞が融合すれば、消しゴムは意志を持って、そして人間に取りつくと消しゴムの怪物になる。さっき零音(れおん)が戦ったのはチョークのマテリアスかな。」

「じゃあ、チョークが意志を持って渡辺(わたなべ)くんに…そうだ!渡辺(わたなべ)くんは!?」


 零音(れおん)は怪物からもとに戻り、倒れていた渡辺(わたなべ)のことを思い出した。


「大丈夫よ、私が救急車呼んでおいたから、今頃病院にいるはず。」

「そっかぁ、よかった~。」

「なぜ心配する?やつはお前を殺そうとしていたんだぞ?」


 安堵する零音(れおん)玄司(けんじ)は水を差す。


「え?ただ暴れてただけじゃないの?」

「そうね、渡辺(わたなべ)くんは自らの意志で、零音(れおん)に襲い掛かった可能性が高い。」


 咲来(さくらは)ホワイトボードに図を書き始めた。


「リブ細胞と物が融合して物が意志を持った状態、この状態を"コア"と呼ぶの。でもコアは生きているだけで知能がない。そこでコアは知能を得るため、知能が高い人間を本能的に狙い、寄生する。そうして寄生された人間はマテリアスになる。そして、マテリアスには2つの段階があるの。"フェーズ1"と"フェーズ2"。」

「段階?」

「フェーズ1は寄生されて間もない状態。この間は寄生された人間の意志と、寄生して知能を得たコアの意志。その二つの意志が同時に存在することになる。二重人格みたいなものね。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


伊武 零音(いぶ れおん)…殺す…」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 零音(れおん)はチョークマテリアスが言葉を発したことを思い出した。


「あのマテリアスは僕の名前を呼んでた。じゃあ渡辺(わたなべ)くんは自分の意志で僕に襲い掛かってきたってことなのか。」

「なにかしら恨みがあったのかもね。」

「でも、たとえ僕に恨みがあったとしても無事でよかったって僕は思うよ!」


 零音(れおん)の純粋な眼差しから玄司(けんじ)は目をそらした。


「それで、フェーズ2は?」

「フェーズ2はね、人間の意志とコアの意志、どちらか弱いほうの人格が消え、完全に同化することでさらに強力な力を持った状態なの。」

「え…!?」


 零音(れおん)咲来(さくら)の発言に耳を疑った。


「どちらかの人格が…消える…?」

「そう、だから倒しても人間とコアの分離は不可能。もう手遅れね。」

「じゃあどうすれば…!?」

「そうすぐにフェーズ2になるわけじゃないの。だからフェーズ2になる前、フェーズ1のうちに倒さなければならない。」

「もし、フェーズ2になっちゃったら…?」

「フェーズ2はフェーズ2でも、二種類に分類されるの。人間の人格が消え、コアの人格に完全に体を乗っ取られたマテリアス。これを"エボルヴ"。そして、コアの人格が消え、人間の人格が残って、体だけが完全にマテリアスになった個体。これを"リメイン"と呼ぶ。」


 咲来(さくら)はホワイトボードに書いたフェーズ1の文字から矢印を二つ引き、それぞれの矢印の先に『エボルヴ』、『リメイン』と書いた。


「フェーズ2がリメインで、力を悪用しないと約束してくれるんだったら倒さなくてもいいけど、エボルヴだった場合は…乗っ取られた人間はすでに死亡している。だから倒すしかないわね。コアはエボルヴになるために全力で寄生した人間の意志が弱まる行動をするわ。だからリメインになる確率は非常に低いの。」

「なるほど…それなら、やっぱりフェーズ1のうちになんとかしないと!」

「さて、ここまでがマテリアスの生体のお話。理解できた?」

「うん、なんとかね。」


 咲来(さくら)はホワイトボードに書いたマテリアスの情報を消した。


「じゃあ次はそのマテリアスを使って悪事を働いているやつらについて話していくわよ。」

「悪事を?…悪の組織!?」

「まぁ、そんな感じね。マテリアスの出現は自然に起きるものじゃないの。誰かが故意に生み出しているのよ。そいつらの名は"ムーブメント"。そしてそのボスは"アダム"と名乗っている。」

「ムーブメント…なんでそんなことを?」

「彼らの目的は"新世界の創造"…らしいわ。選ばれた人間以外を殺し、マテリアスたちに環境を整えてもらい、争いのない世界で生活すること。」

「マテリアスたちが環境を整える…?」

「ええ、例えば火のマテリアスだったら火を自由自在に操れるから火には困らないし、電気のマテリアスなんかいたら無限に発電できてだいだいは生活に困らないしね。」

「それがムーブメントの目的…。」

「馬鹿げた理想郷だな。」


 玄司(けんじ)はボソッと呟いた。


「じゃあつまり、そのアダムってやつを倒せばいいんだね!」

「ええ、まぁそうね。でもそんな簡単にはいかないわよ。アダムのもとにはすでにフェーズ2のマテリアスが何体もいるって話だし。」

「フェーズ2が何体も…。そういえば母ちゃんはなんでそんなこと知ってるの?」

「えっ?ああ…じつはね、数年前からMr.INDIGO(ミスターインディゴ)と名乗る人物から敵についての情報が送られてくるのよ。」

「ミスター…いんでぃご…?」

「そいつは信用できるのか?」


 玄司(けんじ)は腕を組み、壁に寄り掛かりながら咲来(さくら)に聞いた。


「わからない…だけど情報源がこれしかないから信用するしかないのよ。」

「あ、そうだ!あんた!さっきなんでいきなり襲い掛かってきたんだよ!」


 零音(れおん)はさっき襲われたことを思い出し、玄司(けんじ)を指さして言った。


「お前の能力が俺の探してるやつに似てたもんでな。つまり人違いだ。」

「人違いって…こっちは死にかけてるんですけど!!」

玄司(けんじ)、たとえリバイトだったとしても間違えて攻撃したんだ。ちゃんと謝れ。』


 その時、この空間にいる三人のうちの誰でもない声がリビングに響いた。


「ん?今誰か喋った?」


 零音(れおん)はあまり聞き覚えのない声に戸惑った。


「ああ、二人の紹介がまだだったわね。この子は西街 玄司(にしまち けんじ)くん、7年前からリバイトウルスに変身してマテリアスと戦ってるの。」

「7年前から!?てことは先輩ヒーローじゃないですか!すいません!これからは敬語使います!」

「鬱陶しいやつだな。さすがババアの息子だ。」

「またその呼び方……!!!はぁ…、冷たいやつだけど昔からそうだから気にしないで。それから、さっき喋ってたのがこの刀。狼刀(ろうとう):カグツチ。」


 咲来(さくら)はリビングのテーブルに置かれた刀の鞘に手を置いて言った。


『カグツチだ。さっきは玄司(けんじ)がいきなり襲い掛かってすまなかったな。俺ももっと早く変身解除させるべきだった。』

「刀が喋ってる!!??これどうなってるの!?」

「この刀の中にはマテリアスのコアが埋め込まれているの!火のマテリアスのね。」

「火のマテリアスが!?」

「カグツチはエボルヴだけど人間に友好的なマテリアスなの。あることで体を失ったから私が刀に改造したのよ!」

「え、母ちゃんが!?母ちゃん何者!?」

「ふっふっふ…母ちゃんじつはね…」


 咲来(さくら)は丸眼鏡をかけ、ぶかぶかの白衣を羽織った。


「天才科学者なの!!」

「ええええええええ!!!母ちゃん科学者だったのおおおおお!!???」

「家族なのに知らなかったのかよ…。」


 玄司(けんじ)は苦い表情をしながら呟いた。


零音(れおん)が使った変身ベルトを作ったのも私でーす!」

「これも母ちゃんが!?母ちゃんすげえ!!」


 零音(れおん)は輝いた目でベルトと咲来(さくら)を交互に見た。


「ちなみにその変身ベルトには名前があるの!"ユーティライザー"それがそのベルトの名前よ!」

「へ~これユーティライザーっていうのか~。」

「そしてユーティライザーにセットしたそれ!」


 咲来(さくら)零音(れおん)が変身に使用したUSBメモリのようなものを指さした。


「あ、これ?そういえばこれなに?」

「それは"弾倉(マガジン)"といって、能力のデータが込められているものよ。玄司(けんじ)くんが使ってるのは"ブレイブファイヤーマガジン"。火の能力のデータが込められてるの。零音(れおん)のやつは…えーと…〈JUSTICEジャティス CREATEクリエイト〉って書いてあるから"ジャスティスクリエイトマガジン"かな!」

「おいババア。」


 ジャスティスクリエイトマガジンを手に取り、見つめている咲来(さくら)玄司(けんじ)は話しかける。


「な ん で す か!!!??」

「そいつは本当にお前の息子なんだな?」

「ええ、そうよ。零音(れおん)は私の息子よ。」

「つまり人間なんだな?だったらさっきの能力はなんだ?あれはマテリアスのそれにしか見えなかったぞ。」


 玄司(けんじ)零音(れおん)が生み出した透明なトゲや壁のことを思い浮かべ、聞いた。


「それなんだけど…わかんない。」

「は?」

「一応サンプルとして欠片はとってきたんだけど、冷たくもないし溶けることもないから氷ではないのよね~。」

「母ちゃん、僕の体はどうなっちゃったの?」


 零音(れおん)は不安そうな顔で咲来(さくら)に聞いた。


「…大丈夫!零音(れおん)零音(れおん)!きっと奇跡が起きただけよ!」


 咲来(さくら)は明るく答えた。


「そうだ!零音(れおん)が生み出すこの物体!これから輝石(きせき)って呼ばない?奇跡的に生まれたものだし!綺麗だし!」

「輝石…!いいね!」

「洒落かよ…。」


 二人は盛り上がってる中、玄司(けんじ)は呆れた顔で言った。


「あ、そういえば零音(れおん)!いくら変身できたとしても戦闘経験なんてないから玄司(けんじ)くんに戦い方を教わったら?」

「は?なんで俺が!?」


 壁に寄り掛かっていた玄司(けんじ)は身を乗り出した。


「これから"リバイトレオン"として戦うんだから、戦いの先輩に教わるべきじゃない?」

「たしかに…玄司(けんじ)さん!僕を弟子にしてください!」


 零音(れおん)は頭を下げた。


「ふざけるな。なにが弟子だ。これは遊びじゃないんだぞ。」


 玄司(けんじ)はテーブルの上のカグツチを手に取り、玄関に向かって歩き始めた。

「お願いします!僕は、ヒーローになりたいんです!!」

「…!!」


 その言葉を聞いた玄司(けんじ)は足を止めた。


「ヒーローになんかなっても…いいことはないぞ。」

「それでも僕は、誰かを守るためにヒーローになりたいんです!」


 玄司(けんじ)は黙り込んだ。

 零音(れおん)は頭を下げ続けている。

 数秒間沈黙が続き、玄司(けんじ)は口を開いた。


「土曜の朝また来る。準備しておけ。」


 そう言い残し、玄司(けんじ)は玄関に歩いていき、家を出た。

 零音(れおん)咲来(さくら)は固まった表情が溶け、笑顔になった。


「やったぁ!弟子入りした!!」

「がんばりなよ!零音(れおん)!」


 零音(れおん)はガッツポーズし、咲来(さくら)も一緒に歓喜した。


 零音(れおん)の家を後にする玄司(けんじ)にカグツチは話しかけた。


『珍しいな玄司(けんじ)、お前が弟子を持つなんて。あの男になにか思うところがあったかのか?』

「…うるせぇ。」


 玄司(けんじ)はそう言って夜の住宅街に消えていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく設定が考えられていて、興味深いです。この設定がきちんと生きるとすごく魅力的な話になりそうですね! また、お母さんが息子も知らないうちに天才科学者、というのも、コミカルなバトルストーリ…
2022/08/11 20:16 退会済み
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