第18話 無題
2年1組の教室、零音は明日流の席で会話をしていた。
「いやぁまさか零音が本当にヒーローになっちまうなんてなぁ!!」
「シーッ!!」
零音は人差し指を口の前に持ってきた後、辺りをキョロキョロと見回した。
「明日流!僕が変身できることは本当は内緒なんだから!大声で言わないで!!」
「わりぃわりぃ。」
明日流は苦笑いしながら謝った。
「お前はずっと昨日のあの女みたいな怪物と戦ってきたのか?」
かおるは零音に聞いた。
「うん。まあね。」
「昨日の零音のマネ!へんしーん!!」
杏樹は零音の変身ポーズを真似た。
「だから!シーッ!!」
零音はまた人差し指を口の前に持ってくる。
そんな話をしていると、教室内がざわつき始めた。
「お、おい!あれ…」
斗馬は教室に入ってきたとある人物を指差した。
零音は斗馬が指差す方向を見た。
「えっ…!?」
その人物は紫絵理だった。
しかし、紫絵理の目には、いつもかけているメガネがなかったのだ。
「おはよう委員長。メガネどうしたの…?」
零音は自分の席に戻り、席についた紫絵理に聞いた。
「おはようございます。メガネは、視力がよくなりましたので…外しました。」
メガネをかけていない紫絵理の雰囲気は、いつもとはかなり違った。
「そっか…メガネ似合ってたけど、かけてないのも新鮮でいいと思うよ!」
「そ…そうですか…」
紫絵理は顔を赤らめて照れた。
「あの委員長がメガネをかけてないなんてなぁ。」
斗馬は紫絵理の方を横目で見ながら言った。
「女子のイメチェン…これは間違いなく恋だぜ…」
かおるはニヤニヤしていた。
「お前まだそんなこと言ってんのか…」
斗馬はかおるに呆れた。
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「ただいま。」
学校が終わり、紫絵理は帰宅した。
「おかえりなさい!メガネかけなくて大丈夫だったの?」
紫絵理の母親は問いかけた。
「うん。大丈夫だったよ。」
紫絵理はそれだけ言って階段を上がり、自分の部屋に入った。
そしてバックを置き、ドレッサーに座って鏡を見つめた。
「伊武さんに褒められた…ねぇ!シェリー!次はどうすればいいの?」
『そうだなぁ。次はその真面目すぎる髪型を変えろ。もっとおしゃれに巻くんだ。』
すると紫絵理の顔つきが変わり、違う声を出し始めた。
紫絵理はシェリーと名乗る、自分の中のコアの意志と会話している。
「髪型…わかった。」
紫絵理はヘアアイロンを取り出し、髪を巻き始めた。
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翌朝、再び教室はざわついた。
紫絵理の髪型は、ストレートなおかっぱヘアから、ショートウェーブヘアになっていた。
そして相変わらずメガネもかけていない。
「おはよう委員長!髪型も変えたんだね!」
「はい。その…似合ってますか…?」
紫絵理は少し恥ずかしそうに零音に聞いた。
「うん!似合ってるよ!」
零音は満面の笑みで答えた。
「…!!」
紫絵理は心の中で喜んだ。
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自宅に帰ってきた紫絵理は再びドレッサーに座り、鏡を見つめる。
「次はどうすればいい!?どうすれば伊武さんに振り向いてもらえるの!?」
『次はメイクだな。リップは…紫色がいいかなぁ。』
「メイク…紫のリップは少し派手すぎじゃ…」
『いいのか?大好きな零音くんが振り向いてくれないぞ?』
シェリーに人格が変わった紫絵理の顔は、怪しげな笑みを浮かべた。
「…わかった。」
人格が戻った紫絵理は立ち上がり、部屋を出る。
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ドラッグストアで紫絵理は紫色のリップを商品棚から手に取った。
「……よし…!!」
そして買い物カゴにいれ、リップだけでなく様々な化粧品を一緒にカゴに入れた。
紫絵理は大量の化粧品が入ったカゴを持ってレジに向かった。
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翌朝。紫絵理の自宅。
いつも遅刻しないために早めに部屋を出てくる紫絵理が、この日はなかなか部屋から出てこなかった。
「今日は遅いわね…紫絵理ー!!」
紫絵理の母親は紫絵理の部屋に向かって叫んだ。
「はーい。」
呼ばれた紫絵理は部屋から出てきた。
「紫絵理!!あんたどうしたの!!」
紫絵理の母親は、紫絵理の顔を見て驚いた。
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2年1組の教室。
紫絵理が教室に入るとまたざわつきが起きた。
今度は先日にくらべてかなりのざわつきだ。
なぜなら紫絵理の唇には紫色のリップが塗られていて、ほかにも目の周りも派手にメイクアップされているからだ。
「い…委員長…」
「おはようございます!伊武さん!」
席に着いた紫絵理は、いつもより明るい表情で零音に話しかけてきた。
「初めてメイクしてみたんです!どうですか?」
「いや…素敵だと思うけど…ここ最近どうしたの?なんか…委員長がどんどん委員長じゃなくなってるような…」
「え…?」
紫絵理の表情は、零音のその発言で曇った。
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トイレの手洗い場で紫絵理は顔を洗い、メイクを落とす。
『おい!なにやってんだよ!せっかくのメイクを!!』
「もういい!伊武さんの言う通り…私が私じゃなくなったら意味がない!!」
『ちっ…』
紫絵理はシェリーの人格に変わり、顔を洗うのをやめた。
『せっかくあたし好みの見た目に変えたっつーのに、台無しにしやがって…』
「シェリー…?どういうこと?」
『化粧を直したら…そろそろ告白するか…』
シェリーはニヤッと笑い、トイレを出た。
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『零音さん…お昼休みに屋上に来てくれます…?お話したいことがあるんです。』
シェリーは紫絵理になりきり、隣の席に座っている零音に話しかける。
「え…?う、うん。いいけど…」
零音は困惑しながらも承諾した。
「おい!これは完全に告白だぞ…!!」
話を盗み聞きしていたかおるは斗馬に耳打ちで話しかける。
「ま…まじかよ…」
今までかおるの言うことを信じていなかった斗馬は、今回ばかりは思わず信じた。
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昼休みになり、零音は屋上で一人、紫絵理が来るのを待っていた。
『零音さん!』
屋上にシェリーがやってきた。
「委員長、話ってなに?」
零音はシェリーに近づいた。
『零音さん…この前は助けていただいて、ありがとうございました。』
「ああ!委員長が無事ならそれでいいよ!またあいつが襲ってきたら、僕が守るから!」
零音は空中をパンチして、自信満々に宣言した。
『…!!零音さん…私…零音さんのことが好きです…!!』
シェリーは零音に告白し、抱き着いた。
「えっ…え?」
零音は突然のことに困惑した。
『零音さん…』
そしてシェリーは、零音の唇にキスをした。
「…!!」
零音は驚き、目を見開いた。
「…プハッ!ちょ、ちょっと待って!!」
零音はシェリーを突き放した。
『どうしたの…?零音さん…』
「やっぱり委員長…なんかおかしいよ!そんな積極的じゃ…うっ!!」
次の瞬間、零音は突然膝から崩れ落ちた。
「ハァッハァッハァッ…なんだ…息が…ハァッ…苦…し…」
零音は過呼吸になり、倒れ込んだ。
『フフフ…ハハハハ!!』
「えっ…!伊武さんになにをしたの!?シェリー!!」
シェリーは紫絵理の人格に変わり、そして再びシェリーの人格に戻る。
『キスをしたとき、体内に毒を流し込んだのさ!紫絵理!お前がこの男を愛したせいで、この男はまもなく死ぬ!!』
「…そんな…私のせいで…」
『そうだ絶望しろ!!これであたしはお前の体を完全に乗っ取れる!!』
「ハァッハァッ…まさか…委員長が…マテリアスに…!!」
零音は倒れながらそんな紫絵理とシェリーのやりとりを見ていた。
「…零音…さん…」
『フフフ…アッハッハッハ!!!」
紫絵理の姿は怪人態に変貌した後、発光し始め、その姿はさらに禍々しい姿に変わった。
紫絵理の人格が消え、フェーズ1からフェーズ2に変わったのだ。
「ついに…ついに体を乗っ取った!!これであたしは完全な存在になれた!!」
シェリーは空に向かって叫んだ。
「そ…そんな…ハァッ…」
零音は紫絵理の人格が消えたことに絶望した。
「ふっ!!」
シェリーは屋上から飛び降り、校庭に着地した。
「ハァッハァッ…紫絵理…さん…」
零音はシェリーが飛び降りた方向に手を伸ばしたが、力尽きた。
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『玄司!!南からマテリアスの匂いだ!!』
「っ…!!」
外を歩いていた玄司は、カグツチの声を聞き、南の方向に走る。
『匂いが変わった…恐らくフェーズ1からフェーズ2になったぞ…!』
「なに…?くっ…」
それを聞いた玄司は、走る速度を上げた。
しばらく走り、玄司は虹林南高校に到着した。
『近いぞ!』
「ここか…?」
玄司は南高校のグラウンドに入る。
「っ…!!なんだあれは!?」
玄司が目にしたのは、フェーズ2になったシェリー…だけではなく、シェリーの上に馬乗りになり、シェリーをボコボコに殴っている、体の大きな怪物だった。
「ウウッ!!ウアアアッ!!」
シェリーはすでに気を失っているが、怪物はシェリーの顔面を交互に殴り続ける。
『どうした?玄司?』
カグツチは状況が理解できず、立ち尽くしている玄司に問いかけた。
「…!!あれは…!?」
玄司は、怪物の腰にユーティライザーが装着されていることに気づいた。
「グルルルル…」
怪物は玄司の存在に気づき、ゆっくりと首を傾け、玄司の方を見る。
「ウガアアアアアッ!!!」
次の瞬間、怪物は玄司に飛びかかってきた。
「くっ…!!」
玄司は咄嗟にカグツチを鞘から抜刀し、怪物の攻撃を受け止める。
しかし、怪物の力が強すぎるため、玄司は吹き飛ばされ、壁に激突した。
「ぐぁっ…!!」
「グルルルル…ガアアアッ!!!」
怪物は唸り、意識が朦朧としている玄司に襲い掛かる。
玄司が身構えたその時、怪物は横から何者かに撃たれた。
「ウウッ…!!」
怪物の動きは止まった。
玄司は銃弾が飛んできた方向を見た。
そこには四人の黒いリバイトのような影があった。
四人のうちの一人が、ベルトにセットされているマガジンを押し込み、怪物に向かって走ってくる。
《アルファレイジブレイク》
そして、怪物にキックを繰り出した。
「グッ…!!」
キックを食らった怪物の姿は、みるみる小さくなっていき、人間の姿になった。
その姿は、零音だった。
「っ…!!?」
驚いている玄司の前に零音は倒れた。
「……零音!?」
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引き続き、第3章をお楽しみください!




