第13話 緑色の踊り子
芽衣の死、来夢の初変身から数日が経った。
真夜中の人気のない住宅街を来夢は一人で歩いている。
すると、来夢の背後で小さな竜巻が起こり、竜巻の中からフウジンが現れた。
「やはり来たか。フウジン。」
来夢は振り返り、フウジンと対面する。
「ライジン…あなたを排除する!!」
フウジンは怪人態になり、来夢に襲い掛かる。
「ふっ!!」
来夢はフウジンの蹴りをパラライザーで防ぎながら、マガジンを起動した。
《ストライクサンダー》
そして後ろに下がり、マガジンをパラライザーにセットした。
《ローディング》
ロックな待機音が鳴り、来夢の髪が逆立つ。
「変身。」
パラライザーを上に向け、トリガーを押す。
《パラライズ》
雷が落ち、来夢の姿が変化していく。
《リバイトクライム サンダー アクティブ》
来夢はリバイトクライムに変身した。
「それが新しい力ですか…」
「ああ、悪くないぞ。」
フウジンは側転し、蹴りを繰り出す。
クライムはそれに対して蹴りで対応し、お互いの足が衝突して、衝撃波で周囲の煙が晴れる。
「くっ…!!」
「っ…!!」
体制を立て直し、フウジンは腕の羽で何度も殴り掛かる。
クライムはパラライザーですべて防ぐ。
すべて受けていると埒が明かないと思ったクライムは、フウジンの真上に瞬間移動した。
そして、パラライザーにセットされてるマガジンを押し込んだ。
《リローディング》
「はっ…!!」
フウジンはクライムが上にいることに気づいたが、もう遅い。
クライムはトリガーを押し、パラライザーをフウジンに向け、高速で落下する。
《サンダーボルト》
「はあああっ!!」
その様子は、まるでフウジンに雷が落ちたようだった。
煙が晴れるとそこには、倒れているフウジンの顔にパラライザーの先端を向けているクライムがいた。
クライムはパラライザーからマガジンを引き抜き、変身解除した。
そして、コートのポケットの中から取り出した物を、フウジンの顔のそばに投げ捨てた。
それは緑色のマガジンと、折りたたまれている二つの扇子だ。
「ハァ…ハァ…これは…?」
「伊武 咲来が作ったお前の変身アイテムだ。」
「変身…?なぜ私が?」
「アダムを裏切り、気づいたことがある。ムーブメントが選ばれし者たち以外の人類を滅ぼし、俺たちマテリアスが新世界を創造したとして、その先、マテリアスたちはどうなると思う?」
「……私たちも新世界の住人として…」
「それは違う。マテリアスは、人類のために永遠に環境を整備する奴隷になる。」
「…っ!?」
「このままアダムに従い、永遠に人類の奴隷になるか。アダムを裏切り、この世界で自由に生きるか。お前はどっちがいいと思う?」
「…裏切ったところで、私たちはアダム様には勝てない…」
「俺たちは必ずアダムを倒す。」
来夢はフウジンに手を差し伸べた。
「元バディとして、俺はお前をほっとけないんだ。お前も俺たちのところに来い。」
「…」
フウジンは来夢の手を払いのけ、マガジンと扇子型の変身アイテムを拾って、風を起こしてその場から消えた。
「……フウジン…」
来夢はその場に立ち尽くしていた。
――――――――――――――――――――――――
翌日。
とある家電量販店の照明のコーナーに、一人の男がいた。
その男に、後ろからフウジンが話しかけた。
「アダム様…ここにおられましたか。」
その男は、アダムだった。
「フウジン…綺麗だと思わないか?」
「…はい?」
大量の照明の光を浴びているアダムは両手を広げた。
「この最高に明るい空間…!!私はこの空間が大好きだ…!!!」
アダムは明るい表情で照明を見上げながら振り向いた。
「は、はぁ…。それより、お聞きしたいことがあります。」
「なんだ?」
「…その…新世界を創造した後、我々マテリアスはどうなるのでしょうか…」
フウジンは恐る恐る聞いた。
「…なぜそんなことを?」
「少し…気になっただけです。」
「そうだな…新世界は環境が破壊された今の世界のようにはしたくはない。だから新世界創造後も、君たちには環境のコントロールをしてもらう。」
(っ!!ライジンの読み通り…)
フウジンは驚きを押し殺して、さらに質問した。
「つまり…私たちは、人類の奴隷になる…?」
その質問をした瞬間、家電量販店のすべての照明が消えた。
「なんだ!?停電か!?」
店内の客や店員がざわつき始める。
「……なにが言いたい…?」
「っ!!その…決してアダム様を疑っているわけでは…」
暗闇でまったく見えないが、アダムが仮面越しでもわかるくらいものすごい形相で睨んでいることに気づいたフウジンは、慌てて発言を訂正しようとした。
「…」
しばらく沈黙が続き、家電量販店の照明はすべて点灯した。
それと同時にアダムの顔は、ものすごい形相から満面の笑みに変わった。
「そうか!ならよかった!!」
「っ…」
「君まで裏切ったらどうしようかと思ったよ!そんなことするわけ…ないよね…?」
「は、はい!!当然です!それでは…私はこれで失礼します。」
フウジンはアダムに一礼し、少し早歩きでその場を去った。
アダムはそんなフウジンをもう一度睨んだ。
――――――――――――――――――――――――
(やはり…アダム様を裏切ることなど…)
フウジンは下を向いて考え事をしながら歩いていた。
「あっ…!!」
前を向いていなかったため、一人の女性とぶつかってしまった。
「す…すいません。」
その女性は、零音の同級生、深夜 紫絵理だった。
紫絵理は本をたくさん手に積んで歩ていたため、それがすべて地面に散らばってしまった。
フウジンはなんとなく、散らばっている本を拾うのを手伝った。
「っ…!」
そんな中、一つの本が目に入り、フウジンの手は止まった。
その本は<はやぶさのたび>というタイトルの絵本だった。
「その絵本、気になりますか?」
紫絵理は手が止まっているフウジンに声をかけた。
「あ…いえ…」
「この絵本すごいんですよ!絵とは思えないくらい綺麗に風景が描かれてるんです。つい一目ぼれして買ってしまいました!!」
紫絵理はいつもの冷徹さからは考えられないほどの明るい顔と声色でその絵本について語った。よほど本が好きなようだ。
「そうなんですか…」
「もしよかったら、差し上げましょうか?」
「え?」
「私の分は今度また買います。私はこの絵本の素晴らしさが、誰かに伝わってもらえるならそれで満足です!」
紫絵理はその絵本を拾い、フウジンに差し出した。
「…では、ありがたくいただきます。」
フウジンは拾った他の本を紫絵理に渡し、絵本を受け取った。
「拾ってくれてありがとうございました。それでは。」
「…ごきげんよう。」
紫絵理は再び本を手に積み、歩き出した。
「…」
フウジンはしばらくその場に立ち止まり、貰った絵本の表紙を眺めていた。
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数時間後、フウジンは河川敷にあるベンチに座り、貰った絵本を読んでいた。
その絵本は、ハヤブサが世界中を飛び回り、様々な風景を楽しむという内容だった。
どのページも、絵とは思えないほど綺麗な風景が描かれており、フウジンは驚いていた。
(なんと美しい…世界のどこかには、こんなに美しい場所があるのですね…)
フウジンは1ページ1ページをじっくりと読み進めた。
すべてのページを読み終えたフウジンは本を閉じ、改めて川を眺めた。
「…っ!!」
太陽が反射し、輝く川。川のせせらぎ。ほのかに吹くそよ風。風で揺れる草木。
さっきまで普通の川としか思っていなかったその風景が、とても美しく見えた。
(違う…世界のどこかだけが美しいんじゃない…この世界は美しさで溢れている…!!)
フウジンの世界を見る目は、本を読む前とは違っていた。
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日が沈み、夜になった。
零音と来夢は、来夢が芽衣と出会った嵐野市の小屋に来ていた。
「へ~ここでそんなことがあったんだね。」
「ああ、まさか逃げ遅れた人間が母親だとは思わなかった。」
来夢は零音に、小屋で芽衣と出会ったときの話をしていた。
「…ありがとう。零音。」
「ん?」
「俺を生かしてくれて…あの時お前に殺されていたら、俺は再び母さんに会うことができなかった。」
「へっへ!僕にお礼はしなくていいよ。あの時君から敵意がなくなったのは、君がお母さんに出会っていたからだ。だからお母さんにいっぱい感謝してあげなよ!」
「ふっ…そうだな。」
二人は小屋を後にしようとした。
その時、空から大男が降ってきた。
「うわっ!!」
「くっ…!!」
土煙が舞い、二人はつい顔を腕で覆った。
「見つけたぞ。裏切者。」
その男は、岩のマテリアス。ヴォーロスだ。
「また貴様か…ヴォーロス…!!」
来夢はパラライザーと、マガジンを構えた。
まだ変身を禁止されている零音は、ただ身構えることしかできない。
「下がってろ零音。ご指名は俺のようだ。」
「う…うん。」
零音は渋々後ろに下がった。
来夢はマガジンを起動し、パラライザーにセットした。
《ストライクサンダー》
《ローディング》
「変し…」
「ぐおおおぉぉっ!!!」
来夢が変身しようとしたその時、ヴォーロスはものすごい勢いで岩の塊を投げ飛ばしてきた。
「ぐっ…!!」
来夢は避けきれず、もろに岩に激突した。
「来夢!!」
零音は倒れ込んだ来夢のもとに駆け寄った。
「くっそぉ…変身中に攻撃するのはマナー違反だぞ!!」
零音はヴォーロスに訴えるが、ヴォーロスはそれを無視して、再び岩の塊を生み出している。
「死ねぇっ!!!」
そして、来夢と零音に向かってその岩を投げ飛ばす。
二人に岩が直撃しそうなその時、二人の前に竜巻が起こり、竜巻に衝突した岩は粉々に砕けた。
竜巻が晴れると、そこにはフウジンが立っていた。
「フウジン…!?お前…」
「ライジン…私もあなたの賭けにのります。私は奴隷になどなりたくない。この美しい世界で…自由に生きていたい!!」
「へへっ…よく言った!!」
来夢は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「フウジン…まさか貴様まで裏切るつもりか…!?」
「申し訳ありませんが…そういうことです。今までお世話になりました。」
「どいつもこいつもふざけやがって…貴様も排除してやる!!」
ヴォーロスは怪人態になり、胸からコアの破片を取り出し、ウィーカーを生み出した。
フウジンはマガジンを取り出し、起動した。
《ブロウウインド》
そして扇子型の変身アイテム、"ファンライザー"の、二つあるうちの片方の、要のあたりにあるスロットにマガジンをセットした。
《ローディング》
和風な待機音が流れ、フウジンは一回転し、両手に持っている扇子をバッと勢いよく開く。
そしてファンライザーで口元を隠しながら、あの言葉を放つ。
「変身。」
《ファンライズ》
フウジンはファンライザーで風を起こす。
するとフウジンの足元から竜巻が発生していき、フウジンの姿は竜巻に隠れる。
《リバイト風凛 ウインド アクティブ》
竜巻が晴れると、フウジンの姿は緑色の鎧やローブで足元が包まれた姿に変化していた。
フウジンはリバイト風凛に変身した。
「フウジンもリバイトに…!?」
「ふっ…」
零音は驚き、来夢は微笑んだ。
風凛の姿は満月の月明かりに照らされ、輝いている。
「うおおおおおおお!!!」
ヴォーロスは岩を二つ投げてきた。
「ふっ!!」
風凛は回転しながら、ファンライザーで岩を真っ二つに斬る。
すかさず、風凛に向かって大量のウィーカーが襲い掛かってくる。
「はぁっ!!」
風凛はくるくると回りながら、まるで踊っているかのようにウィーカーを斬り倒していく。
そして一体のウィーカーを風で浮かし、蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたウィーカーは、群がっている他のウィーカーたちに激突し、まとめて爆発した。
「はああああっ!!」
風凛はウィーカーの群れの中に飛び込んだ。
群れの中で竜巻を起こし、大量のウィーカーをひとまとめにした。
そして飛び上がり、空中に浮かんでいるウィーカーの塊を、ヴォーロスに向かって蹴り飛ばした。
「くっ…!!」
ヴォーロスは、勢いよく飛んでくるウィーカーの塊を殴った。
塊になっているすべてのウィーカーは爆発した。
すると爆炎の中から風凛が飛び出し、ヴォーロスに急接近する。
「はぁっ!!」
風凛は両手のファンライザーでヴォーロスの胸を斬りつけた。
「ぐぁ!!」
風凛はすかさず逆立ちし足を開き、高速で回転してヴォーロスに回転蹴りを食らわせた。
「はああああああああっ!!!」
「ぐおおおおおっ!!!」
そして何度か蹴りを当てた後、回転を止め、両足蹴りを腹に当てながら体制を立て直した。
「フウジン!!二つの扇子を連結させろ!!」
来夢は風凛に指示を出した。
「連結…?」
風凛は二つのファンライザーの親骨同士をくっつけた。
するとファンライザーの端と端を繋ぐように持ち手が出現し、円形になった。
風凛は右手で持ち手の部分を持ち、中心にセットされているマガジンを押し込んだ。
《リローディング》
そして、左手で中央のボタンを押した。
《渦流竜巻砲》
すると円形のファンライザーから竜巻が発射された。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!!!」
竜巻は勢いよくヴォーロスに直撃する。
「はああぁっ!!」
竜巻を発射し終わると、そこにはヴォーロスの姿はなかった。
「あの野郎!また逃げやがった!!」
来夢は憤慨した。
「フフ…まあまあ…また今度お会いしたら倒しましょう。」
風凛はマガジンを抜き、変身解除しながら言った。
――――――――――――――――――――――――
「と、いうわけで…フウジンも仲間になったよ!!」
家に帰ってきた零音は、咲来にさっきの出来事を話していた。
「よろしくお願いいたします。」
フウジンは丁寧に一礼した。
「よろしく!いや~まさか二人が仲間になるなんて思ってもなかったわ!」
「俺もまさか、こんなことになるなんて思ってもなかったぜ。」
来夢は腕を組んで笑った。
「と・こ・ろ・で~。あなたたち、元ムーブメントってことは…ムーブメントのアジトの場所知ってるんじゃないの~?」
咲来は怪しい表情をして二人に問いかけた。
「知りませんよ!」
フウジンは満面の笑みで答えた。
「え?」
「知らねえぞ。」
来夢も真顔で答える。
「えーーー!!あなたたちムーブメントのアジト知らないの!!?」
「はい!私たちは生み出されてからずっと、アダム様から直接指示を受けて任務にあたっていただけなので、一度もアジトに行ったことはありません。」
「そんな~…ムーブメントに直接殴りこめるチャンスだと思ったのに~!」
咲来は頭を抱えてがっかりした。
「まあいいじゃん!いつかきっとアジトの位置も特定して、俺がアダムを倒してやる!!」
零音は拳を突き出して自信満々な表情で咲来を励ました。
「…そうね!」
咲来は笑顔になった。
「ところで咲来さん。何か書くものはありますか?」
フウジンは咲来に問いかけた。
「あるけど…」
フウジンは咲来から受け取った紙にペンでなにかを書いている。
「なに書いてるんだ?」
来夢は腕を組んでテーブルの上に座り、フウジンに聞いた。
「アダム様にはお世話になりましたから…お礼のお手紙を。」
「ふっ…相変わらず律儀だな。お前は。」
「あなたは乱暴すぎです。ライジン。」
「来夢だ。俺はもうライジンじゃない。」
「フフフ…そうでしたね。」
「お前も名前変えたらどうだ?もっと人間らしい名前に。」
「…そうですね……」
手紙を書き終えたフウジンは、手紙を折って紙飛行機にして窓から外に飛ばした。
――――――――――――――――――――――――
紙飛行機はフウジンの能力で風に乗って、空を飛んでいる。
アダムは紙飛行機を発見し、それが自分に宛てられたものだと察して手に取った。
「ハァ…ハァ…アダム様…なぜ私を逃がしたんですか!?裏切者はあと少しで排除できたというのに!!」
アダムの横にはヴォーロスがいた。
「裏切者の始末はもういい。今は最優先事項に集中しろ。」
アダムはそう言いながら紙飛行機を開いた。
そこには
『ごきげんよう フウジン改め東風谷みどり』
と書かれていた。
「フフ…」
アダムはそれを見て笑みを浮かべた後、真顔になり、手紙を握りつぶした。




