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虹色のヒーロー  作者: 葛木真時
第2章
12/23

第12話 黄色の息子

 避難指示が解除され、住民が戻ってきた嵐野市。

 すっかり雨が止んだこの場所では、しばらく晴れの日が続いていた。

 そんな嵐野市の端、とある山の上にポツンと立っている小さな小屋の前で、一人の女性が地面に座っていた。

 そこに一人の男が訪れた。

 雷のマテリアス。ライジンだ。

 ライジンは以前、この小屋で出会った女性、鱗道(りんどう) 芽衣(めい)とまた会う約束をしていた。


「あ、あの…」


 ライジンは背後から女性に話しかけた。


「…はい!もしかしてあなたが…」


 女性は立ち上がって振り返り、ライジンの顔を見た瞬間固まった。


来夢(らいむ)!!」


 女性は突然ライジンに抱き着いた。


「なっ…!?」

「どこ行ってたの!?お母さん心配したんだよ!!」


 ライジンは突然のことに困惑し、抱き着いてきた女性を突き放した。


「なんなんだ一体!!」

「どうしたの来夢(らいむ)?」


 ライジンはその女性の顔に見覚えがあった。


(こいつは…まさか!?)


 ライジンは、自分が乗っ取った人間の記憶を辿った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「俺は写真家になる!!」

「ダメよ来夢(らいむ)!!」


 来夢(らいむ)芽衣(めい)はリビングで喧嘩をしていた。


「なんでわかってくれないんだよ!!俺は綺麗な景色の写真を撮って、世界中に認められたいんだ!」

「世の中はそんな甘くないわよ!安定した職業に就きなさい!!」

「……もういい!こんな家出てってやる!!」


 来夢(らいむ)は走って玄関に行き、家を出た。


「待ちなさい来夢(らいむ)!!」


 芽衣(めい)は玄関まで追いかけたが、外までは追いかけなかった。


――――――――――――――――――――――――


「ハァ…ハァ…やっべぇ家出しちまった…どうしようかなぁ…」


 電信柱に寄っかかっていた来夢(らいむ)は、街灯に照らされていた。

 そんな来夢(らいむ)の頭上の雲は、ゴロゴロと雷が鳴っていた。

 その瞬間、来夢(らいむ)のもとに雷が落ち、大きな衝撃音が周囲に響き渡った。


「うあああああああああああああっ!!」


 街灯がバチバチと点滅している中、倒れていた来夢(らいむ)は立ち上がり、口を開いた。


『これが人間の体か…』


 来夢(らいむ)から発された声は、来夢(らいむ)の声ではなかった。

 来夢(らいむ)に直撃した雷はただの雷ではなく、雷のコアだった。


 こうして鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)はサンダーマテリアスとなり、後に体を乗っ取られ、ライジンが誕生した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


(そうだ…!!この女は俺が乗っ取った人間の母親だ…)


 ライジンは自分の体と芽衣(めい)を交互に見た。


「さあ!うちに帰ろう!来夢(らいむ)!」

「え…?あ…」


 困惑しているライジンの腕を、芽衣(めい)は引っ張った。


「まさかあの日会った人が来夢(らいむ)だったなんて…こんな偶然もあるんだね!」

「…」


 ライジンは暗い顔をしてうつむいたまま芽衣(めい)に引っ張られていく。


――――――――――――――――――――――――


 しばらく歩いて、二人は家に到着した。


「お腹空いてるでしょ?お母さんシチュー作るよ!」

「…シチュー?」

来夢(らいむ)、お母さんのシチュー大好きでしょ?」


 ライジンは来夢(らいむ)の記憶を辿り、そういえばそうだったなと思った。

 芽衣(めい)はキッチンでシチューを作り始め、ライジンはリビングの椅子に座った。


「さ、できたよ!」


 少し時間が経ち、芽衣(めい)は皿に盛りつけたシチューをリビングに運んできた。


「い…いただきます…」


 ライジンは恐る恐るシチューを食べた。


「んっ…!!」


 初めて食べるシチューのはずだが、ライジンは懐かしさを感じ、次々とシチューを口に運んだ。

 その様子を芽衣(めい)は微笑みながら眺めている。


 ライジンはあっという間にシチューを完食した。


「ふふふ…相当お腹空いてたのね。」

「…!!」

(なにをやっているんだ俺は…)

 

 ライジンは我に返り、夢中になってシチューを食べていたことを後悔した。

 芽衣(めい)は皿をキッチンに持っていき、洗い始めた。


「お母さんもう怒ってないからね!!これからは来夢(らいむ)の夢にちゃんと向き合って生きていくよ!」

「…」


 芽衣(めい)は皿を洗いながら、リビングにいるライジンに話しかけた。


「……すまない!!俺は…鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)じゃないんだ!!」


 ライジンは来夢(らいむ)として扱われることに耐えられず、ついに真実を告白した。


「え?何言ってるの…?来夢(らいむ)


 芽衣(めい)はライジンの話を真に受けず、聞き流している。


「俺はライジン…鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)の体を乗っ取ったマテリアスだ…」


 ライジンは怪人態になり、自分が人間ではないことを証明しようとした。


「つまり…あんたの息子はもう死んだ…俺が殺したんだ!!」

「っ!!??」


 その発言に驚き、後ろを振り返った芽衣(めい)は、怪人態になっているライジンに気づき、持っている皿を床に落とした。

 皿は大きな音を立てて割れた。

 人間態に戻ったライジンは、動揺して息が乱れていた。


「…そっ…か…」


 芽衣(めい)は割れた皿の破片を拾い、ふらふらとリビングの方に歩いてくる。


来夢(らいむ)は死んじゃったんだ…もう戻ってこないんだ…」


 その時、芽衣(めい)はものすごい形相で、皿の破片でライジンに襲い掛かり、押し倒して馬乗りになった。


「うあっ!!」


 ライジンは咄嗟に芽衣(めい)の腕を掴んだ。

 皿の破片は顔の目の前で止まり、皿の破片を握りしめている芽衣(めい)の手から血が滲み出し、顔に垂れてくる。


「どうして来夢なの!!!???なんで!!!」


 芽衣(めい)の口からは、さっきまでの優しい声からは考えられない叫び声が出ている。


「…あんたの息子は進路のことで悩んでいた…俺たちマテリアスは意志の弱い人間を狙って寄生する…その方が体を乗っ取れる確率が上がる…」

「!!!!」


 芽衣(めい)の腕から力が抜けていき、目から徐々に涙がこぼれ落ちてくる。

 ライジンは掴んでいる腕を放し、芽衣(めい)の体を避けながら起き上がった。


「うっ…うぅ…」


 芽衣(めい)は手から皿の破片を落とし、泣き崩れ、手で顔を覆った。


「…すまない。」


 ライジンは泣いている芽衣(めい)を置いて家を出た。


 一人リビングで泣いている芽衣(めい)の背後に、突然アダムが現れた。

 アダムは芽衣(めい)が落とした皿の破片を拾った。


「息子の敵を討ちたいとは思いませんか?」


 アダムは話しかけるが、芽衣(めい)はそれに気づかないほど泣いている。

 そしてアダムは、皿の破片とリブ細胞を融合し、それを芽衣(めい)の体に埋め込んだ。


「っ!!あああああああああああっ!!!!」


 芽衣(めい)の姿がマテリアスに変化していく。


「ヴォーロス。この女とともにライジンを始末しろ。」


 アダムは、ともに家に侵入した体の大きい男に命令した。


「はい、わかりました。」


――――――――――――――――――――――――


「…」


 ライジンは公園のベンチに座り、うつむいていた。


「あ!ライジン!!」

「…お前は…!」


 そんなライジンの前に現れたのは、零音(れおん)だ。


「探してたよ!君に渡したいものがあるんだ!!」

「渡したいもの…?」

「じゃーん!!」


 零音(れおん)は、手に持っている傘と、黄色いマガジンをライジンに差し出した。

 ライジンはそれを受け取り、不思議そうに見つめた。


「傘…?」

「ただの傘じゃないよ!母さんに頼んで作ってもらった、ライジン専用の変身アイテム、"パラライザー"だよ!」

「変身アイテムだと?なぜ俺に?」

「ライジンはアダムを裏切ったんでしょ?だからこれからは僕たちと一緒に人々を守ろうよ!」

「…」


 ライジンはパラライザーとマガジンを零音(れおん)に返そうとする。


「俺にその資格はない…」

「え?」

「俺は一人の人間を殺している…そんな俺に人を守る資格など…」


 その瞬間、上から大きな体の男が降ってきて、二人の目の前に着地した。


「ぐっ…!!」

「うわっ!!」


 土埃が舞い、地面は大きく揺れた。


「…私はムーブメント最高幹部、ヴォーロス!!裏切者の貴様を排除する!!」


 ヴォーロスと名乗る男は、ゴツゴツとした岩の体の怪人態に変貌した。


「最高幹部…!!」

「…ライジン!!僕は今変身できない!君が変身して戦うんだ!!」

「……俺が…」


 ライジンがパラライザーを見つめ、変身するか迷っているその時、ヴォーロスの背後から一人の女性が現れた。


「あっ…!!」


 その女性は芽衣(めい)だった。


「よくも…来夢(らいむ)をおおおおおおおお!!!!」


 芽衣(めい)は皿のマテリアス、プレートマテリアスに変貌した。


「っ…!!」

「もう一体マテリアスが…!!」


 事情を知らない零音(れおん)はこの状況に困惑していた。


「ふっ!!」


 プレートマテリアスは腕から生み出した皿をライジンに投げつけた。


「くっ…!!」


 皿はライジンに激突し、破片でライジンの体は傷ついた。


「ライジン!!うおおおお!!」


 零音(れおん)は生身でプレートマテリアスに殴り掛かる。


「今はお前に構っている暇はない!!」

「うぁっ!!」


 しかしヴォーロスに殴られ、零音(れおん)は吹き飛び、倒れ込んだ。


「ううっ!!」


 プレートマテリアスは何枚もライジンに皿を投げつける。

 ライジンはすべて食らい、体中から血が流れている。


「うああああああっ!!!」


 プレートマテリアスは腕についている鋭い刃でライジンに斬りかかる。


「ぐはっ!!!」


 ライジンは避けずに、もろに腹を斬られた。


「…ライジン……」


 倒れている零音(れおん)はライジンに手を伸ばした。


(そうだ…それでいい…俺はこの人に殺されるべきだ…)


 ライジンはプレートマテリアスの攻撃をわざと受けている。

 

「ハァ…ハァ…うっ…」


 ライジンは足に力が入らず、膝をついてしゃがみこんだ。


「よくやった…あとは俺がやろう。」


 ヴォーロスはライジンの襟を掴み、無理やり起こして思いっきり腹を殴った。


「ぐっ…あっ…!!!」

「うおおおおおっ!!!」


 そしてヴォーロスはライジンを地面に叩きつけた。

 ライジンが手に持っていたパラライザーと、マガジンが地面に転がる。


「ぐっ…ハァ…ハァ…」

「死ね…!!」

 

 倒れているライジンにヴォーロスは渾身のパンチを繰り出す。

 動けないライジンはただ迫りくるパンチを待つことしかできない。


「ライジン!!!」


 零音(れおん)は起き上がり、叫んだ。


「くっ…」


 ライジンは死を覚悟し、目を瞑った。


 鈍い音が響き渡るが、ライジンにはパンチは当たっていない。

 ライジンがゆっくりと目を開けると、プレートマテリアスがライジンの前に立っており、ヴォーロスの拳がその腹を貫いていた。


「はっ…!!!」

「ん…?」


 ヴォーロスはプレートマテリアスの腹から拳を引き抜いた。


「うぅっ…」


 プレートマテリアスは人間態に戻り、倒れ込んだ。

 ライジンは体を起こし、倒れ込む芽衣(めい)を抱きかかえた。


「なんで…」

「わたし…やっぱり息子を殺せないや…」 


 芽衣(めい)はかすかな声を絞り出し、ライジンの頬に手を当てた。


来夢(らいむ)…夢…叶えるん…だよ…」


 そう言い残し、目を閉じた芽衣(めい)の手は、ガクンと地面に落ちた。


「…母さん…!!」


 ライジンは涙を流しながら芽衣(めい)の遺体を抱きしめた。


「邪魔が入ったな。続きを始めようか。ライジン。」


 ヴォーロスがそう言うと、ライジンは顔を上げ、涙目でヴォーロスを睨んだ。

 そして芽衣(めい)の遺体をそっと地面に置いた。


「俺は…」

「ん?」


 立ち上がったライジンは、地面に転がっているパラライザーとマガジンを拾った。


「俺は…鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)だ!!」


 来夢(らいむ)はマガジンを起動した。


《ストライクサンダー》


 そして(パラライザー)の持ち手の先に空いている穴にマガジンをセットした。


《ローディング》


 辺りに電気が走り、来夢(らいむ)の髪が逆立つ。


「変身!!」


 来夢(らいむ)はパラライザーを上に向け、トリガーを押す。


《パラライズ》


 すると来夢(らいむ)に雷が落ち、電撃は黄色い鎧となり、体を覆っていく。


《リバイトクライム サンダー アクティブ》


 来夢(らいむ)はリバイトクライムに変身した。


「ライジン…!!」


 零音(れおん)は変身した来夢(らいむ)に、静かに喜んだ。


「ほう…ならばこいつらが相手だ!!」


 ヴォーロスは自分の胸に手を突っ込み、コアの破片を数個取り出し、辺りにまき散らした。

 コアの破片は人型に変形し、岩の体をした数体の怪物になった。

 フェーズ2のマテリアスが生み出せる知性のないマテリアス、ウィーカーだ。


「ウィーカーか。」


 クライムは冷静に状況を把握した。


「フェーズ2のマテリアスってあんなこともできるのか…」


 零音(れおん)は、初めて見るウィーカーに驚いていた。


「ふっ…!!」


 クライムは、電気を纏ったパラライザーでウィーカーを殴り、なぎ倒していく。

 

「はっ…!!」


 そして瞬間移動してヴォーロスに接近し、ヴォーロスの顔面に掌底を食らわせる。


「ぐっ…!!」


 しかし、ヴォーロスはびくともしないため、クライムは瞬時に後ろに下がった。


「うおおおおおおっ!!」


 ヴォーロスは地面を叩き、地面から浮き上がった数個の岩をクライムに向かって飛ばした。


「…これか。」


 クライムがパラライザーのスイッチを押すと、傘が展開し、パラソルモードに変形した。

 それを前に向け、布で岩をガードした。

 そして、布の一部が透明になってるため、そこから狙いをつけトリガーを押すと、先端から電撃砲が発射され、電撃砲はヴォーロスに直撃した。


「…っ!!あの傘、銃なのか…!?」

「ウアアアアア!!」


 狙撃しているクライムに一体のウィーカーが接近する。

 クライムはウィーカーの攻撃を回転してかわす。

 すると、開いた状態のパラライザーの内部に風圧がかかり、布部分がひっくり返ってパラボラアンテナのような、パラボラモードに変化した。


《チャージ》


「っ!?これは…」


 パラボラモードになったパラライザーの端の露先(つゆさき)から、先端の石突に電撃がチャージされていく。

 クライムはセットされているマガジンを押し込んだ。

 

《リローディング》


 石突にさらに電撃がチャージされていく。

 クライムはパラライザーをヴォーロスに向けて構えた。


「はぁっ!!!」


《サンダーレールガン》


 トリガーを押し込むと、巨大な電撃砲がパラライザーから発射される。

 電撃砲は周囲にいる数体のウィーカーを巻き込み、ヴォーロスに向かってまっすぐ進んでいく。


「うおおおおおおっ!!!」


 ヴォーロスは両腕で地面を叩き、岩の壁を目の前に生み出した。

 電撃砲は岩の壁に命中し、粉々に砕いた。


 電撃砲をが止むと、そこにはヴォーロスはいなかった。


「くっ…逃げたか…」


 クライムはパラライザーからマガジンを引き抜き、変身解除した。

 来夢(らいむ)はもう一度芽衣(めい)の遺体を見た。


「…」


 来夢(らいむ)の表情が曇った。


「ライジン!!」


 そんな来夢(らいむ)のもとに零音(れおん)が駆け寄る。


「…来夢(らいむ)だ。」

「え?」

「これからは来夢(らいむ)と呼んでくれ。」

「…来夢(らいむ)かぁ…いい名前じゃん!!」

「ふっ…」

 

 来夢(らいむ)は笑みを浮かべた。


――――――――――――――――――――――――


 二人は零音(れおん)の家に帰ってきた。

 そして咲来(さくら)にこれまでの出来事を話した。


鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)…本当にいいの?他人として生きていくことになるのよ?」

「…母さんは最期に俺に夢を叶えろと言った。鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)の記憶は俺の中にしか残っていない。今、鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)の夢を叶えられるのは俺だけなんだ。」


 来夢(らいむ)は椅子から立ち上がった。


「母さんの分も、鱗道(りんどう) 来夢(らいむ)の分も、俺が生きてやる!!」

「そっか…!」


 咲来(さくら)は安心した表情で微笑んだ。

 

「ところで、これを作ったのはあんたなのか?」


 来夢(らいむ)はパラライザーとストライクサンダーマガジンを持って咲来(さくら)に聞いた。


「そうだけど?」

「…あんたに頼みがある。」

「頼み?」


――――――――――――――――――――――――


 真夜中のビルの屋上。

 そこにはフウジンがいた。

 フウジンのもとにアダムが現れる。


「フウジン。」

「アダム様…」

「ライジンが本格的に我々を裏切った。始末しろ。」

「…はい。」


 アダムはそう言い残し、屋上から姿を消した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 追加戦士ですね!雷の能力…強そうです!
2022/09/12 20:39 退会済み
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