第12話 黄色の息子
避難指示が解除され、住民が戻ってきた嵐野市。
すっかり雨が止んだこの場所では、しばらく晴れの日が続いていた。
そんな嵐野市の端、とある山の上にポツンと立っている小さな小屋の前で、一人の女性が地面に座っていた。
そこに一人の男が訪れた。
雷のマテリアス。ライジンだ。
ライジンは以前、この小屋で出会った女性、鱗道 芽衣とまた会う約束をしていた。
「あ、あの…」
ライジンは背後から女性に話しかけた。
「…はい!もしかしてあなたが…」
女性は立ち上がって振り返り、ライジンの顔を見た瞬間固まった。
「来夢!!」
女性は突然ライジンに抱き着いた。
「なっ…!?」
「どこ行ってたの!?お母さん心配したんだよ!!」
ライジンは突然のことに困惑し、抱き着いてきた女性を突き放した。
「なんなんだ一体!!」
「どうしたの来夢?」
ライジンはその女性の顔に見覚えがあった。
(こいつは…まさか!?)
ライジンは、自分が乗っ取った人間の記憶を辿った。
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「俺は写真家になる!!」
「ダメよ来夢!!」
来夢と芽衣はリビングで喧嘩をしていた。
「なんでわかってくれないんだよ!!俺は綺麗な景色の写真を撮って、世界中に認められたいんだ!」
「世の中はそんな甘くないわよ!安定した職業に就きなさい!!」
「……もういい!こんな家出てってやる!!」
来夢は走って玄関に行き、家を出た。
「待ちなさい来夢!!」
芽衣は玄関まで追いかけたが、外までは追いかけなかった。
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「ハァ…ハァ…やっべぇ家出しちまった…どうしようかなぁ…」
電信柱に寄っかかっていた来夢は、街灯に照らされていた。
そんな来夢の頭上の雲は、ゴロゴロと雷が鳴っていた。
その瞬間、来夢のもとに雷が落ち、大きな衝撃音が周囲に響き渡った。
「うあああああああああああああっ!!」
街灯がバチバチと点滅している中、倒れていた来夢は立ち上がり、口を開いた。
『これが人間の体か…』
来夢から発された声は、来夢の声ではなかった。
来夢に直撃した雷はただの雷ではなく、雷のコアだった。
こうして鱗道 来夢はサンダーマテリアスとなり、後に体を乗っ取られ、ライジンが誕生した。
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(そうだ…!!この女は俺が乗っ取った人間の母親だ…)
ライジンは自分の体と芽衣を交互に見た。
「さあ!うちに帰ろう!来夢!」
「え…?あ…」
困惑しているライジンの腕を、芽衣は引っ張った。
「まさかあの日会った人が来夢だったなんて…こんな偶然もあるんだね!」
「…」
ライジンは暗い顔をしてうつむいたまま芽衣に引っ張られていく。
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しばらく歩いて、二人は家に到着した。
「お腹空いてるでしょ?お母さんシチュー作るよ!」
「…シチュー?」
「来夢、お母さんのシチュー大好きでしょ?」
ライジンは来夢の記憶を辿り、そういえばそうだったなと思った。
芽衣はキッチンでシチューを作り始め、ライジンはリビングの椅子に座った。
「さ、できたよ!」
少し時間が経ち、芽衣は皿に盛りつけたシチューをリビングに運んできた。
「い…いただきます…」
ライジンは恐る恐るシチューを食べた。
「んっ…!!」
初めて食べるシチューのはずだが、ライジンは懐かしさを感じ、次々とシチューを口に運んだ。
その様子を芽衣は微笑みながら眺めている。
ライジンはあっという間にシチューを完食した。
「ふふふ…相当お腹空いてたのね。」
「…!!」
(なにをやっているんだ俺は…)
ライジンは我に返り、夢中になってシチューを食べていたことを後悔した。
芽衣は皿をキッチンに持っていき、洗い始めた。
「お母さんもう怒ってないからね!!これからは来夢の夢にちゃんと向き合って生きていくよ!」
「…」
芽衣は皿を洗いながら、リビングにいるライジンに話しかけた。
「……すまない!!俺は…鱗道 来夢じゃないんだ!!」
ライジンは来夢として扱われることに耐えられず、ついに真実を告白した。
「え?何言ってるの…?来夢」
芽衣はライジンの話を真に受けず、聞き流している。
「俺はライジン…鱗道 来夢の体を乗っ取ったマテリアスだ…」
ライジンは怪人態になり、自分が人間ではないことを証明しようとした。
「つまり…あんたの息子はもう死んだ…俺が殺したんだ!!」
「っ!!??」
その発言に驚き、後ろを振り返った芽衣は、怪人態になっているライジンに気づき、持っている皿を床に落とした。
皿は大きな音を立てて割れた。
人間態に戻ったライジンは、動揺して息が乱れていた。
「…そっ…か…」
芽衣は割れた皿の破片を拾い、ふらふらとリビングの方に歩いてくる。
「来夢は死んじゃったんだ…もう戻ってこないんだ…」
その時、芽衣はものすごい形相で、皿の破片でライジンに襲い掛かり、押し倒して馬乗りになった。
「うあっ!!」
ライジンは咄嗟に芽衣の腕を掴んだ。
皿の破片は顔の目の前で止まり、皿の破片を握りしめている芽衣の手から血が滲み出し、顔に垂れてくる。
「どうして来夢なの!!!???なんで!!!」
芽衣の口からは、さっきまでの優しい声からは考えられない叫び声が出ている。
「…あんたの息子は進路のことで悩んでいた…俺たちマテリアスは意志の弱い人間を狙って寄生する…その方が体を乗っ取れる確率が上がる…」
「!!!!」
芽衣の腕から力が抜けていき、目から徐々に涙がこぼれ落ちてくる。
ライジンは掴んでいる腕を放し、芽衣の体を避けながら起き上がった。
「うっ…うぅ…」
芽衣は手から皿の破片を落とし、泣き崩れ、手で顔を覆った。
「…すまない。」
ライジンは泣いている芽衣を置いて家を出た。
一人リビングで泣いている芽衣の背後に、突然アダムが現れた。
アダムは芽衣が落とした皿の破片を拾った。
「息子の敵を討ちたいとは思いませんか?」
アダムは話しかけるが、芽衣はそれに気づかないほど泣いている。
そしてアダムは、皿の破片とリブ細胞を融合し、それを芽衣の体に埋め込んだ。
「っ!!あああああああああああっ!!!!」
芽衣の姿がマテリアスに変化していく。
「ヴォーロス。この女とともにライジンを始末しろ。」
アダムは、ともに家に侵入した体の大きい男に命令した。
「はい、わかりました。」
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「…」
ライジンは公園のベンチに座り、うつむいていた。
「あ!ライジン!!」
「…お前は…!」
そんなライジンの前に現れたのは、零音だ。
「探してたよ!君に渡したいものがあるんだ!!」
「渡したいもの…?」
「じゃーん!!」
零音は、手に持っている傘と、黄色いマガジンをライジンに差し出した。
ライジンはそれを受け取り、不思議そうに見つめた。
「傘…?」
「ただの傘じゃないよ!母さんに頼んで作ってもらった、ライジン専用の変身アイテム、"パラライザー"だよ!」
「変身アイテムだと?なぜ俺に?」
「ライジンはアダムを裏切ったんでしょ?だからこれからは僕たちと一緒に人々を守ろうよ!」
「…」
ライジンはパラライザーとマガジンを零音に返そうとする。
「俺にその資格はない…」
「え?」
「俺は一人の人間を殺している…そんな俺に人を守る資格など…」
その瞬間、上から大きな体の男が降ってきて、二人の目の前に着地した。
「ぐっ…!!」
「うわっ!!」
土埃が舞い、地面は大きく揺れた。
「…私はムーブメント最高幹部、ヴォーロス!!裏切者の貴様を排除する!!」
ヴォーロスと名乗る男は、ゴツゴツとした岩の体の怪人態に変貌した。
「最高幹部…!!」
「…ライジン!!僕は今変身できない!君が変身して戦うんだ!!」
「……俺が…」
ライジンがパラライザーを見つめ、変身するか迷っているその時、ヴォーロスの背後から一人の女性が現れた。
「あっ…!!」
その女性は芽衣だった。
「よくも…来夢をおおおおおおおお!!!!」
芽衣は皿のマテリアス、プレートマテリアスに変貌した。
「っ…!!」
「もう一体マテリアスが…!!」
事情を知らない零音はこの状況に困惑していた。
「ふっ!!」
プレートマテリアスは腕から生み出した皿をライジンに投げつけた。
「くっ…!!」
皿はライジンに激突し、破片でライジンの体は傷ついた。
「ライジン!!うおおおお!!」
零音は生身でプレートマテリアスに殴り掛かる。
「今はお前に構っている暇はない!!」
「うぁっ!!」
しかしヴォーロスに殴られ、零音は吹き飛び、倒れ込んだ。
「ううっ!!」
プレートマテリアスは何枚もライジンに皿を投げつける。
ライジンはすべて食らい、体中から血が流れている。
「うああああああっ!!!」
プレートマテリアスは腕についている鋭い刃でライジンに斬りかかる。
「ぐはっ!!!」
ライジンは避けずに、もろに腹を斬られた。
「…ライジン……」
倒れている零音はライジンに手を伸ばした。
(そうだ…それでいい…俺はこの人に殺されるべきだ…)
ライジンはプレートマテリアスの攻撃をわざと受けている。
「ハァ…ハァ…うっ…」
ライジンは足に力が入らず、膝をついてしゃがみこんだ。
「よくやった…あとは俺がやろう。」
ヴォーロスはライジンの襟を掴み、無理やり起こして思いっきり腹を殴った。
「ぐっ…あっ…!!!」
「うおおおおおっ!!!」
そしてヴォーロスはライジンを地面に叩きつけた。
ライジンが手に持っていたパラライザーと、マガジンが地面に転がる。
「ぐっ…ハァ…ハァ…」
「死ね…!!」
倒れているライジンにヴォーロスは渾身のパンチを繰り出す。
動けないライジンはただ迫りくるパンチを待つことしかできない。
「ライジン!!!」
零音は起き上がり、叫んだ。
「くっ…」
ライジンは死を覚悟し、目を瞑った。
鈍い音が響き渡るが、ライジンにはパンチは当たっていない。
ライジンがゆっくりと目を開けると、プレートマテリアスがライジンの前に立っており、ヴォーロスの拳がその腹を貫いていた。
「はっ…!!!」
「ん…?」
ヴォーロスはプレートマテリアスの腹から拳を引き抜いた。
「うぅっ…」
プレートマテリアスは人間態に戻り、倒れ込んだ。
ライジンは体を起こし、倒れ込む芽衣を抱きかかえた。
「なんで…」
「わたし…やっぱり息子を殺せないや…」
芽衣はかすかな声を絞り出し、ライジンの頬に手を当てた。
「来夢…夢…叶えるん…だよ…」
そう言い残し、目を閉じた芽衣の手は、ガクンと地面に落ちた。
「…母さん…!!」
ライジンは涙を流しながら芽衣の遺体を抱きしめた。
「邪魔が入ったな。続きを始めようか。ライジン。」
ヴォーロスがそう言うと、ライジンは顔を上げ、涙目でヴォーロスを睨んだ。
そして芽衣の遺体をそっと地面に置いた。
「俺は…」
「ん?」
立ち上がったライジンは、地面に転がっているパラライザーとマガジンを拾った。
「俺は…鱗道 来夢だ!!」
来夢はマガジンを起動した。
《ストライクサンダー》
そして傘の持ち手の先に空いている穴にマガジンをセットした。
《ローディング》
辺りに電気が走り、来夢の髪が逆立つ。
「変身!!」
来夢はパラライザーを上に向け、トリガーを押す。
《パラライズ》
すると来夢に雷が落ち、電撃は黄色い鎧となり、体を覆っていく。
《リバイトクライム サンダー アクティブ》
来夢はリバイトクライムに変身した。
「ライジン…!!」
零音は変身した来夢に、静かに喜んだ。
「ほう…ならばこいつらが相手だ!!」
ヴォーロスは自分の胸に手を突っ込み、コアの破片を数個取り出し、辺りにまき散らした。
コアの破片は人型に変形し、岩の体をした数体の怪物になった。
フェーズ2のマテリアスが生み出せる知性のないマテリアス、ウィーカーだ。
「ウィーカーか。」
クライムは冷静に状況を把握した。
「フェーズ2のマテリアスってあんなこともできるのか…」
零音は、初めて見るウィーカーに驚いていた。
「ふっ…!!」
クライムは、電気を纏ったパラライザーでウィーカーを殴り、なぎ倒していく。
「はっ…!!」
そして瞬間移動してヴォーロスに接近し、ヴォーロスの顔面に掌底を食らわせる。
「ぐっ…!!」
しかし、ヴォーロスはびくともしないため、クライムは瞬時に後ろに下がった。
「うおおおおおおっ!!」
ヴォーロスは地面を叩き、地面から浮き上がった数個の岩をクライムに向かって飛ばした。
「…これか。」
クライムがパラライザーのスイッチを押すと、傘が展開し、パラソルモードに変形した。
それを前に向け、布で岩をガードした。
そして、布の一部が透明になってるため、そこから狙いをつけトリガーを押すと、先端から電撃砲が発射され、電撃砲はヴォーロスに直撃した。
「…っ!!あの傘、銃なのか…!?」
「ウアアアアア!!」
狙撃しているクライムに一体のウィーカーが接近する。
クライムはウィーカーの攻撃を回転してかわす。
すると、開いた状態のパラライザーの内部に風圧がかかり、布部分がひっくり返ってパラボラアンテナのような、パラボラモードに変化した。
《チャージ》
「っ!?これは…」
パラボラモードになったパラライザーの端の露先から、先端の石突に電撃がチャージされていく。
クライムはセットされているマガジンを押し込んだ。
《リローディング》
石突にさらに電撃がチャージされていく。
クライムはパラライザーをヴォーロスに向けて構えた。
「はぁっ!!!」
《サンダーレールガン》
トリガーを押し込むと、巨大な電撃砲がパラライザーから発射される。
電撃砲は周囲にいる数体のウィーカーを巻き込み、ヴォーロスに向かってまっすぐ進んでいく。
「うおおおおおおっ!!!」
ヴォーロスは両腕で地面を叩き、岩の壁を目の前に生み出した。
電撃砲は岩の壁に命中し、粉々に砕いた。
電撃砲をが止むと、そこにはヴォーロスはいなかった。
「くっ…逃げたか…」
クライムはパラライザーからマガジンを引き抜き、変身解除した。
来夢はもう一度芽衣の遺体を見た。
「…」
来夢の表情が曇った。
「ライジン!!」
そんな来夢のもとに零音が駆け寄る。
「…来夢だ。」
「え?」
「これからは来夢と呼んでくれ。」
「…来夢かぁ…いい名前じゃん!!」
「ふっ…」
来夢は笑みを浮かべた。
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二人は零音の家に帰ってきた。
そして咲来にこれまでの出来事を話した。
「鱗道 来夢…本当にいいの?他人として生きていくことになるのよ?」
「…母さんは最期に俺に夢を叶えろと言った。鱗道 来夢の記憶は俺の中にしか残っていない。今、鱗道 来夢の夢を叶えられるのは俺だけなんだ。」
来夢は椅子から立ち上がった。
「母さんの分も、鱗道 来夢の分も、俺が生きてやる!!」
「そっか…!」
咲来は安心した表情で微笑んだ。
「ところで、これを作ったのはあんたなのか?」
来夢はパラライザーとストライクサンダーマガジンを持って咲来に聞いた。
「そうだけど?」
「…あんたに頼みがある。」
「頼み?」
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真夜中のビルの屋上。
そこにはフウジンがいた。
フウジンのもとにアダムが現れる。
「フウジン。」
「アダム様…」
「ライジンが本格的に我々を裏切った。始末しろ。」
「…はい。」
アダムはそう言い残し、屋上から姿を消した。




